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 二人で部署に戻ると雲雀は案外大人しく潤のデスクに座って菓子を広げていた。どうやら政宗が買い与えたらしい。

「戻ったか」

 そしてどうやらぼちぼち出勤し始めた部署の連中にもなんとなく状況は伝わっているようで、しかし戸惑いがあったようだ。皆口々に「潤さんヤバいっすね」だの「可愛い〜‼」だの浴びせられる。

 取り敢えず、騒然とはしていた。これは年末ワークにはよくないなと、流星が頭を悩ませた。

「どうしよ」
「…最早仕方ないよな」

 流星もここまで雲雀旋風が来てしまえば、もう手の打ちようがない。

「なぁ」
「何」
「いつまで?」
「うーん、一週間?」
「曖昧なのか」
「まぁほら、親がねぇ」
「そうか…」

 もうこうなったら仕方がない。

「取り敢えず害がなければもう、仕方ない。お前じゃ託児所申請すら無理だしな。確かにこれが最善か」
「え、いいの?」
「仕方ないだろ。ただなんとかしろよな。取り敢えず俺はあの書類をなんとか」

 そう話してる時だった。
 雲雀が、「潤!元気になったかー!」と走ってきたと思いきや。

「あっ」

 どうしたもんか、流星がこの前「寒すぎる」と言って衝動買いした電子ヒーターの、3台あるうちの1台、丁度入り口付近にあったやつのコンセントに引っ掛かり、すっ転んだ。
 見事にヒーターは鈍い音を立てて倒れた。確か15万。スタイリッシュで凄くスリムな軽い海外製のやつというのが災いしたらしい。

「アァ!?」

 隣の買った本人は、物凄く柄が悪い、叫びとも悲鳴ともつかない声をあげた。とにかく潤は雲雀へ、流星は迷いつつヒーターへ駆け寄り立て掛け、一応二人を見守る。

「雲雀、どうしたお前!」
「痛い」
「男だからそこは大丈夫!」
「おれた!」
「何が!」
「紙飛行機!」
「今は良いから!まずそこの鉄面皮にあやまっ…」

 はっとして潤は振り返る。
 流星は見守ってくれているが明らかに目には色々な感情が渦巻く瞳で「大丈夫か…んのクソガキ…」と言っている。

 無理もない。計45万のうちの15万、加えてこいつは寒い国にも行くくせに超絶寒がりだ。いま絶対に心の支えがなくなっている。そもそもだから3台なんて買ってしまうのだ。

「流星…その…」
「壊れちゃった?」

 恐る恐る、しかしながらストレートに、それはもう今の流星にはロケットランチャーに等しい子供の一言が撃たれる。

 きっといまこの鉄面皮は鉄面皮の裏で様々な憎悪や虚無と戦っているのだろうと思うと恐ろしくて顔を見れなかった。いや絶対に鉄面皮だけど。だからこそ怖い。

 恐る恐る流星が電源を入れている。動揺して抜けているコンセントを入れるのを一度忘れるレベルだ。これはかなりキている。
 コンセントを入れ直して再戦した結果、敗北したようだ。流星はそのまま床に手を付き、この世の終わりのように意気消沈していた。

「だ、大丈夫、叩けばなおるって!」
「そうなの!?じゃぁオレ直せる!」
「あ、待ってひば…」

 雲雀は潤の言葉に従順に従い、ヒーターをがしがしぶっ叩き、蹴りまくってしまった。

 理解できない、何故こんなときだけ言うことを聞いてしまうんだこの子供は。

「止めた方がいいと思うぞ。素直に修理に出そうぜ」

 見守っていた政宗がデスクから声を掛けた。修理と言う言葉に反応し、流星は顔を上げる。少し泣きそうだった。

「輸入品なんだよ」
「あーね。まぁ仕事しよ。寒くねぇし。てか3台フル活動しねぇじゃん」

 と言ってパソコン画面に政宗が目を移すと、「あぁ!?」と、これまたドスの聞いたチンピラのような声をあげる。

「ショートしてんだけど…」

 はっとして潤も流星もコンセントを確認。
 丁度、政宗のノートパソコンを繋いでいた蛸足コードごと逝ってしまっていたようだ。

「あー…」
「うわぁ、マジか…いま作業中のやつ死んだなこれ」
「何やってたの」
「ブラックまとめ」

 要するに。
 今年捜査してきたやつらのまとめなり、捜査線上に上がったやつらのデータをまとめていたのだ。

「うわぁ…」

 取り敢えず蛸足は入れた。政宗のパソコンは一応電源は入った。

「ご、ごめん」
「ご、めんなさい」

 しかし、雲雀も潤も相当へこんだように頭を深々と下げたので。

「まぁ…」
「大丈夫…大丈夫、」

 政宗も流星も取り敢えず同時に深呼吸。

「3台も要らないし」
「俺もまとめだから、途中までバックアップあるし」

 そうは言ったが。

「あり得ないんだけど」

 ついに潤は。

「なんなんだよお前本気で…」

 怒りが籠った、しかし呆れも入った声色で拳を握りしめたまま雲雀を睨み付けて言う。

「お前なぁ、んなんだからこんなわけわかんねぇ俺なんかに厄介になるんだろうがこのバーカ。ざけんなよクソが殺すぞ」
「ちょっとちょっと潤、」
「それはいくらなんでも」
「なんだよぅ!」

 それに雲雀はいじけて対抗。

「だったらやればいいじゃんか」
「あぁ?まぁ簡単だわ、てめぇなんて捻り潰してゴミの日に出しても誰も気付かねぇんだよ特に今はな」
「おい潤、」
「でしょうね!だってオレそう言われたし」
「…あ?」

 雲雀は精一杯歯を食い縛り泣くのを堪えているが、どうにも溢れてしまったらしい。しかし、負けん気なのかそれでも挑戦的に雲雀は潤を睨み付ける。

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