おでん×赤提灯
手押し車屋台。
銀の小分けの仕切り。透き通る黄金の出汁。三角の灰色こんにゃく。丸く出汁の色をした大根。縦楕円のたまご。型崩れしそうな草臥れた昆布。忘れちゃならないおいなり巾着。ぷりぷりのタコ。出汁色のすり身三角のはんぺん。茶色に色々混ざったがんも。関東のちくわぶ。
最近見かける串。牛すじ、つくね。もう崩れてるのではないか、ロールキャベツ。これは本当に驚きだが意外と癖になるウィンナー。
冬に湯気だった屋台。目印の赤提灯。仕事帰りに座る私。今日はどれかなと眺めるくてくての鍋。「寒いねぇ」と笑顔の主人。ちょっとした贅沢を感じる一時。
思い出す、昼の失敗とへこんで泣きそうになった私の午前。開き直った午後。話し掛けてくることもない同僚。お昼ご飯はたしか昆布のおにぎり。ひたすら誤字を探した書類。ブルーライトに眼精疲労。追えない文字。またの失敗。赤提灯のように怒ったヒステリックの上司。調子の悪い今日。
使えないお前。(いつかやめてやるクソ上司)。それでも笑顔な私。こんなことをするはずじゃなかった人生。思い返す遊んでしまった大学生活。
「なんにする嬢ちゃん」。
「おすすめはなんですか」と聞いてみる私。
「最近流行りのこれなんてどうだい、ロールキャベツ」「この前別れたばかりなんです、こんな彼氏」「こんなにくたくただったのかい、それともさっぱりしていたのかい、彼氏」「いや、この…手前の大根くらいにやる気のない男でした、その彼」「あんたまだ若く見えるし、仕方ないんじゃないかい、そんなもんだよ男なんてさ、理想が高いのか、あんた」「いや、なんだか私が食わせていたような感じで、毎日」「そりゃぁいけないねその男」「そうなんですよ、ダメな男を捕まえてしまったようです、私」「仕方ないねぇ、じゃぁ奥の大根にしようか、お客さん」
こんな日常。
湯気立つ屋台。これが私の、少しの贅沢。
大根たまごこんにゃくはんぺん昆布。オーソドックスな私の、日常。
※体現止め縛り。
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