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真由は言葉の裏に隠れる心理が理解できなくて戸惑う。
佐奈子はそんな真由の目の前まで歩み、真由の細い首を両手で掴んで締め上げた。
突然の出来事に真由は思考と言葉を失った。佐奈子は手にファンデーションが付く嫌な感覚にも動じなかった。
「痛い、痛い!」
「“病む”、“リストカット”、“可哀想”、“大丈夫だよ”。それだけで形成される会話、私は好きじゃないの」
「や、やめてくださいぃ!!」
いつもの、優しい先輩の顔ではない。何か、狂気に満ち溢れている。まるで別人のようだ。
「死にたいんでしょう?じゃぁいいじゃない」
「いや、いやだぁぁ!!」
真由は佐奈子の底知れぬ殺意をひしひしと感じた。何か怒らせたわけではない、そんな理屈ではない。だがこのままでは、本当に殺される。
「死にたいんでしょう?殺してあげる。病んでるんでしょ?殺してあげる。
人ってね、あっさり死ぬの。それこそ、手首切っただけでは死ねなくてもね、水に浸けて放置したら死ぬの。ね、殺してあげる。だから死ねよクソ!!」
「やめてください栗原さん!」
屋上のドアが乱暴に開かれ、祐介の声がした。真由の目は祐介に助けを求めていた。振り向かない佐奈子の表情は推し量れないが、真由の必死さで現状が緊迫感を帯びていることがわかる。
「どうして?死にたいって言うなら死ぬのがいい。どうせこの子は死ねないの。だから殺してやるの」
佐奈子は語尾で、真由の首を放るように乱暴に離した。体勢を崩した真由は、嗚咽を漏らして泣き始める。
「栗原さん、…俺、分かりましたよ。
涼のこと、ここから…落としましたね」
佐奈子はその核心に一度黙った。だが、小さく息を吐いてからまるで何かを確認するかのように、
「…そう。落としたよ、そこから」
と、手摺の向こうをを指して言った。
祐介の頭に浮かんだ言葉はただひとつ。
「…どうして…!?」
それだけが知りたい。
「死にたいって笑ったから。
それで…償いのつもりなの?」
その、祐介の動機に触れた一言に、閉口する以外何も出来なかった。
佐奈子はもう、祐介の肝を掴んでいるのだ。祐介はそれだけを悟った。
「…あれは、そう、死ぬ一ヶ月前。男の子5人くらいいたなぁ。涼に一人が馬乗りになって首絞めてたの。腹殴られて、煙草の火を押し付けられて…。色々酷いことされていた、けど極めつけは…リストカットの傷を砂で擦って、奴ら痛がって傷付いてる涼を写メしてた…っ!楽しがっていたの。
その場に…アンタ、いた。何も手を出していなくても、アンタ、そこにいたの」
「っ…くりはら、さん」
「あの子、アンタに、アンタ達に言った。「俺を殺してくれ」ってねぇ、言ったのあの子は!そうでしょう?そうでしょう!!」
「…言って…いました」
涼はすべてに泣きそうだったのに。そう、恐らく母親が自殺したときからずっと。その事情をあの場にいたやつらは皆知っていて、あいつらはおもしろがったんだ。俺は見ていて嫌だったんだ。だが、止めることなど出来なかった。
「何でアンタ見てたの?親友だったんでしょ?
ねぇ、私のところにこうやって来たのも、本当は涼を思ってじゃない。確かめたかったんでしょ?自分のせいで自殺したのかどうかを」
「…はいっ…
クラスの、権力に負けました…」
彼女に言葉と聴覚で自分を見せられて、今更ながら自分はとてつもなく卑怯で汚いやつだと思い知った。
だけど、集団心理は仕方ない。そう正当化する自分も、実は最低なのかもしれないと、正当と正当化の間でさ迷う。
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