「幼なじみの30代の男女が福袋を求めて新年早々奮闘する話」をラブコメ風で。
※二色作パロ「心中Rock'n Beat!!」から。
『卯月〜あんさぁ』
それはクリスマス直前だった。
「あ、のんちゃんどうもっす。スタ練ですか?」
いつものことだがのんちゃんの「突撃隣の晩ごはん」のような突撃電話に、あたしはスマホを顔と肩で挟んで白菜1/4に包丁を入れていた。戦力は微妙に落ちついに包丁は白菜に刺さったままだった。
リビングでビールを飲んでいた同居人の依田が振り返ったのに目が合った。お前、鬼とかいいからこっち来て白菜を退治しなさいよと目で訴える。
『卯月帰省とかないじゃん?』
「ないっすね…、」
『え、なんかちょー声近くね?』
電話の向こうから飲み屋のざわめきが聞こえてきている。これは勢いで「今飲んでてさぁ、明後日なんとなくスタジオ取れたから来てね〜」みたいなことになるような気がする。
「ちょ、依田、のんちゃん!だから白菜!」
「わかった〜」
流石に腕がプルプルする。察せない依田に直接白菜係りを申し付けた。
漸くスマホを手にして「もしもしのんちゃん」と「うわ、殺人現場みたいな白菜」と居酒屋のガヤガヤがマッチする。バンド並みのマッチングだなとセルフ突っ込みの最中、『あんさぁ!』ボーカルがお出ました。
『スタ練は来年!でさ!』
「あ、マジっすか違う感じですか行けないっすね」
『うん!1日御茶ノ水福袋なんでぇ!?行けないのぉ!?』
「え、なんなんですか、え?」
『イシバシ楽器の、福袋』
「のんちゃんどれだけ飲みました?」
20時42分。
『まだ〜。これから〜』
「軽く5くらいですかね何かを。福袋なんてどーしたんですか」
『人生初だから楽器屋福袋!』
うーん、これは「ハッピー中毒ですね」と卯月の精神科診断を心のなかでくだす。多分のんちゃん酔っている。そんなときは流すしかない。
「はいはーい。わかりましたー。1日デスネー」
『そう!10時から張り込みね!』
「1日って楽器屋開いてますか」はプツッ、ピーピーピーに消えた。もう神田明神に行くしかないかもしれない。
依田はいとも簡単に白菜をバラして洗っていた。
ついでにしめじとニラも両断してくれる様子。
「福袋?のんちゃんと?」
「みたい。多分ゲットならずだわ」
「あーそれで思い出した。俺もうらさんと福袋戦争するわ」
「あれだっけ、師匠の嫁さんだっけ」
「そーそー。毎年恒例なんだよ。いい加減雀三に襲名させなきゃなこのポジション」
「41年目にして朔夫閣下は初陣でござるよ猫背君。けどきっとやってないでござるよ」
「初陣ですか女王様」
「あ〜れ〜」とか言いながら依田は具材を豆乳鍋に投入した。寒いなぁ今年。あたし神田明神の行列に耐えられるかなぁとぼんやり考えた。
で。
「…うーわぁ」
「…やってないっすね、やっぱり」
駅前のギター通り。 我が崇拝の曽根原朔夫氏はギターを背負ったマジな戦闘体制で現れたが、開いてもいない楽器屋に唖然としていた。
通る人が「熊手」を持って通りすぎて行く。なんだか楽器屋雰囲気、ズレている。
「…ちょっと待ってやっぱりって何」
朝靄でコンクリートから湯気立ち込める最中、マフラーに顔を埋めた小柄なおじ様は寝起きなのか酒焼けなのか、いや、話し声は元から掠れているかもだが、プラス不機嫌さが靄と共に滲んでいた。息白い。流石に短パン寒かった。
「のんちゃんまさか本気で狙ってましたか福袋」
「言ったからには狙うでしょ!だって「福袋はじめました!」って聞いたんだよ!?
マジで、なにこの楽器屋ゴーストタウン。深夜の渋谷かよ」
「…あれっすね。アキバまで行ってソフマップでそれっぽいの狙うもありっすよ、多分死に混みですけど」
「死神?卯月年女じゃないの今年」
「3年前っすね。富士そばで蕎麦食ってお参りして帰りますか?」
「いやもうついでに飲みに行く寒いし。関東あり得ない」
「あれ、そう言えばのんちゃん北海道には帰らないんですか」
「寒いから嫌だ。出身じゃないし実は」
「え?」
「うん、バンド出身が北海道。俺島根」
「…新年明けまして衝撃でした。
あ、わかりましたよのんちゃん。下ったところにでっけぇクロサワ楽器ありましたよね、取り敢えず蕎麦食って行きませんか寒いし」
「ああ、あんだけでかかったら流石にやってるよね。
…あ、マジそれいいな、卯月頭いいな行こ、行こ行こ!」
「うぇーい」
「てか…」
のんちゃんはふとあたしを頭から爪先まで一通り眺め「寒くないのズボン短いよ」と言われてしまった。
うん傍目からして多分あたしらまともじゃない。
「暖かパンスト負けました。マジで寒いす」
「…だよねぇ。今日は仕事じゃないのになんでそんな格好なの」
「のんちゃんも北海道じゃないのにマフラーとコートオンユニクロパーカーオンきっとヒートテックって防寒対策に気合いを感じますね」
「あ、やる気見せな感じ?それで戦闘服なの?なるほど〜ありがと〜卯月の気合い〜。俺4枚くらい着てるよ」
流石ズレている、のんちゃん。
いつもそれ着てなかったっけと言われたが、本当に寒いので先頭切って富士そばに入る。きっと飲み過ぎた胃には優しくないし年も開けてしまったがまぁいい。戦闘準備だ。
のんちゃんは朝だと言うのに「蕎麦昨日食ったわみんなで…」とラーメン食って、あたしは春菊天蕎麦を食って英気OK。
そのまま下ってでっけぇイシバシ楽器の前ではっと、「卯月ぃ!見てあれ!」と、のんちゃんが目を輝かせ店頭を指差した。
「あっ」
“新春 クロサワ楽器 福袋”
「あ、」
「ああっ!」
これはなんと言う奇跡。果たして楽器屋の福袋って何入れんだ、ピック大量とかだったら笑えるけど。
「卯月!」と万歳ポーズののんちゃんに「のんちゃん!」とハイタッチしたら「わー!やった年女ー!ありがと〜気合い〜!」と抱きつかれた。
地味に反応に困る。ツキコ、おさわり禁止なの、あのお店。
「のんちゃんおさわり禁止!」と言う間に「やったー!」と突撃してしまう無邪気な四十に「ま、いっかぁ…」と、あたしは頭のなかで持ちピックの大体の数を一枚…二枚…と数えるのだった。
[大]長い(笑)すません![/大]
※被っちまってはつまらねぇ、と「風」と言うのにあやかり、若干ピンぼけ雰囲気で攻めてみた。二人を足して2で割ったら33歳、という言い訳もしておく(笑)全然ラブコメじゃねぇ。
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