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しかしどうにも、
「…あの人結婚前は、私が働かなくてもとか…凄く一生懸命で、だから毎日、せめて美味しいご飯を作ろうとか、それが…こんなことになっていたなんてぇ…!」
その場で泣き出されてしまったのだからついつい「そうですねぇ、旦那さんの支えだったと思いますよ奥さん」だなんて言ってしまい、なんならそんな旦那はぶっ潰してしまえという気にすらなってしまった俺もいた。
溜め息が出た。
旦那、山崎拓郎《やまざきたくろう》は相当な援交狂いだという事実がここ一月で発覚した。
最早、依頼人の恵子と俺の間に「こんな変態クソバカ野郎なんて、慰謝料たんまり払わせて離婚しちゃいましょうね!」という結託まで生まれてしまったからにはもう後戻りもなかなか出来ない状況になっている。
しかし相手も相当な、変態級の猛者である。
何故俺がそんな変態野郎の変態プレイを一ヶ月追い続けているのかというのは相手が相当手強い、それ故に「浮気の決定的な証拠」というものが掴めない手段に出られているからに他ならない。
やっと、半ば犯罪級な手段で手に入れた証拠はまぎれもなく犯罪の証拠だったのだから、更に質も悪い。
さて…それを理解して貰うためにどうしようかと、気付けば3本のタバコを消費していた。
喫煙席から出て、空いていた目の前の席に座り、書類を広げて睨みながら恵子を待った。
程なくして恵子は「あの、」と、薄ピンクの清楚なワンピースで現れた。
「あ、どうも」
彼女は即座に、俺がテーブルに広げていた書類に釘付けになった。
取り敢えずこれは飲み物が必要だと、「コーヒー買ってきますね」と、恵子と入れ換えで席を立つ。
コーヒーを頼んで待っている間にも恵子の様子を伺えば、最早彼女は書類を穴が開くように、いや、その場でぶち破りそうな雰囲気を醸し出しながら若干震え、両手で握るように見ている。
…きっとそう、一見大人しそうな女。誰もまさか彼女があれほど半狂乱だなんて知らないのが当然で。
頭のなかで「もし恵子が状況を聞きこの場で発狂してしまったら」だとか、「その前にまず、勢い余って俺にコーヒーをぶっかけ書類が読めなくなったら」というビジョンを浮かべてみる。どうしようもない。
俺が席に着くかどうかで彼女は早速「どういうことでしょうか、」と声を震わせていた。
「ええっと、はい。まずコーヒーを…」
出せば、まだ熱いだろうに恵子はそのまま口にするも、それに対しては何もなく俺をじっと見つめるので、あぁ、この人猫舌とかでもなく超強いなと、そりゃぁ俺だって引いていた。
「…結果報告として、一昨日で漫画喫茶の張り込みは4回目になりますが、まず報告をさせて頂くと、昨日は計3人の女性が彼の使用する13号室に立ち入りました」
「…書類には2人って、」
「はい。今日の本題です。
最後の一人で、漸く、浮気を立証するのに使えそうな証拠写真を撮ることが出来ましたが、」
「…待って、いままでの3回計10人の女達は」
「はい。音声データの話からしましょうか。
俺が録ってきた音声データというのは、盗聴してやっと取れた物でして…。
えっと、そもそもですね。最初にお話しした通り、漫画喫茶のような、個室形式の場所ですと、そういった手管になってきますので浮気の立証というのがそもそも難しい。音声データは盗聴したとわかればそれなりにリスクというか…そういうものがあります。
そこで利用できる物の一つが、例えば女性と共に写る写真。これと音声データで少し信憑性も増しと言えば増しますが、彼は慣れているというか、過去10回とも女性と共に写る写真は撮れなかった」
一気に言ってしまってまだ理解が追い付いていないだろうと踏み、俺は一昨日の、「女子高生を招き入れる山崎拓郎」の写真をすっと恵子の前に出した。
恵子は写真を凝視し、「へ」だか「え」だかと声を漏らしてはフリーズしてしまった。
「…唯一撮れた写真がこちらです」
我ながら何その下手なバラエティー番組の司会みたいなやつ、と自嘲するのだが「はぁあああっ!?」と、発狂寸前で身を乗り出しそうな恵子に「ですよね落ち着いてください」と、然り気無くコーヒーを遠ざけて制した。
「なっ、こっ、」
「はい、バリバリの17歳、未成年者でした」
「えっ、マジですかこれぇ!」
「動かぬ証拠なんですが、」
「ちょっ………。
呆れたなんなのあいつは!こんな若いというか子供とエッチしてるわけぇ!?」
「あーちょっと声押さえましょうね恵子さん」
「何、待って、西浦さんならこんな…ガキに性欲湧きますか普通」
「いやまあ俺くらい緩い観念であれば、人間メス科であれば自然現象ではありますが所謂その程度で」
「それって旦那を庇ってますかっ!」
「そーゆー問題じゃないですね。俺の性癖と旦那さんの性癖を一回端っこに置いて話を進めましょうね、犯罪ですねこりゃぁ」
「…バカなの、あの人っ……」
恵子は、俺が発狂を防いだせいでかなり脱力したようだった。
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