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 ……何故だかわからないが非常に後ろめたい気持ちで胃が気持ち悪いような気がして仕事すら休みたいような気がしている。

 …鋼鉄メンタルの鋼鉄が燻されて熱いらしい。

「あっ、おは、何?え?ダメだったの?」
 という上里の声や、
「口から血が滴るような顔だな西浦。何があったか聞かないというのはわかってるんだろうな?」

 と言う半ニヤけなパッと見ヤクザ社長が、職場へ向かう車内、ゾートロープのようなビジョンでぐるぐるぐるぐる巡っている。逞しい妄想力。

 こんなときに人は必ずネガティブな思考へ走る、と、危うくたらたらと走り信号無視になりそうだった。

 いや、気持ちを切り替えればいいんだよと、しかし頭にちらつくことにイラついてタバコを消費しすぎた。
 「タバコ臭すぎでしょ!」と怒られるかもしれない、なんせ事務所の所有物だ。
 よし冷静になってきたぞ。

 ビル共同の駐車場の奥、そう、それは「東条探偵事務所」が借り入れているスペース、の、もう一台の隣。本来この車を停める場所に停まっているマジェスタに違和感を感じないわけがなかった。

 え、だってその1台がウチのだって、わかるじゃん、その向かいに3台分スペースあるじゃん、普通わざわざ隣に停めないよね、いや別に良いんだけどマジェスタって隣停めたくねぇな、俺端の車庫入れ超下手なんだけど。

 変なところで緊張が走る。うーんやっぱ昨日返しに来ればよかった。いや、まぁ無理だよだから違和感すげぇんだよ。

 ふぅ、と息を吐いたら最早消臭については忘れてしまった、それどころじゃない。擦ったら指がなくなる。

 普段と違う緊張感を持って気付いた、ん、確かにそっち系のオキャクサマはまぁまぁいらっしゃいますがまだ開店時間じゃないんだけど。普通来る?流石に来なくない?いや、でもまぁ過去にそんな事案はあったな、あの人たち時間が勝負な所あるからな…。

 …本格的に企業舎弟の話が来ちゃってたらホントに嫌だなぁ。
 前回のやつ、あちらは何も言わなかったがあれ完璧美人局だったよなぁ。そう思いながら仕事する、儲かるけど凄く厄介でやってる方はメンタル擦りきれるんだよなぁ。

 いや、まぁ似たようなことをやったあとに思える立場でもないな。

 1週間分の憂鬱がどっと来たような気分だった。
 オキャクサマが先入りしてようがなんだろうがまだ開店前だしなと開き直ったつもりで階段を登り、事務所のドアを開けようとしたときに、消臭忘れたな、と過った。

「おはようございます」

 開ければ案の定というか当たり前に事務所にはやーさんが増えていた、+2で。

 あっ、と言った上里と、「やっと来たな…」と言う社長。

 なんだどうしたそいつはどう見ても女じゃないぞと思えば、ソファに座った茶髪の、シルバースーツのヤクザが振り向き「はぁあんたがね。お待ちしてました」と、客人の癖に俺を向かい側に促してきた。

「…ご指名だ西浦」

 …俺はホストでもねぇですけど。

 なんだ、依頼の中にヤバいの入ってたかなと、ここ最近のヤバそうな依頼といったらめっきり山崎拓郎の件くらいしかない。あとは猫探しのビラ張り関連と…あぁ、一件素行調査やったな、婚カツパーティーの。あれ確か破談したな。

 しかしダントツで山崎拓郎だな。丁度今日書類を渡す予定だったし。

「…お待たせいたしました」

 名刺を出そうとしたが、名刺一枚がテーブルに置かれていた。
 俺の名刺だった。

 彼は別で、名刺入れから1枚出し「どうも」とテーブルに置いた。


藤川金融コンサルタント
社長代理 藤川 翼


 俺が確認したとわかればすぐに名刺をしまい、側に立っていた部下に名刺入れを返したシルバースーツ、藤川翼はタバコに火をつけ、「妹のポケットにあってな」と話し始めた。

 ……まぁ、可能性が視野に入ってないわけでもなかった。

「妹、高校生なんだけど、どういった経緯でここに厄介になったのか気になったんだが」
「…妹さん、ですか」

 何も言わずと部下が藤川翼に写真を渡し、それはテーブルに置かれる。どうやら瑠璃の高校入学時の写真だった。

「可愛いだろ。見たことあるな?」
「貴方の妹さんが俺の名刺を持っていたんじゃ、多分会ったこと、あるんでしょうが」
「何で会ったか聞きたいんだが」
「…職業柄調査に関係があるから渡したんだと思いますが、何が、というのは俺もいくつか依頼を持っていまして」
「女子高生だぞ?そうそうないよなぁ?」
「まぁ、はいそうですが。秘密厳守ですので。何かございましたか?」
「まぁいい。んじゃぁ一個依頼を増やそうか。
 妹が昨晩から帰ってなくてな。別にこんな潰れそうなところに頼まなくても良いんだが、なんだ?先月か、お宅ら吉野さんとこの浮気を暴いたと風の噂で聞きまして」

 暴いたんじゃないぞでっち上げたんだ。やはりあれは美人局だったか。

「ちょっとそれで掛けようかと。妹を探して」
「生憎ですが…それは我々探偵事務所の仕事には確実に含まれません。探偵事務所は主に何かの裏付けの資料作成程度です。まだ、「妹さんがどこかにいる裏付け」ならば話は別ですが。それでしたら宛はございますかとこちらはお尋ねできますよ。ですが、事件性があるのなら…と、思いますけどね。警察じゃない限りは追ってしまえばこちらはストーカー容疑でお縄ですから」
「いつ会った」

 場は遥かにピリッとしたがバカでもないらしい。単刀直入に藤川翼は切り返してきた。

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