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「これは個人情報じゃないよな?」
「…確かにおっしゃる通りで。すみませんね、一昨日です」
「何処で会った?」
「渋谷ですよ、覚えがあるのは」
「…昨日妹は友達に会うと言ってそれきりだ」
「そうですか。知り得る情報でしたら昼間です。繁華街あたりを張るのがいいかと。これ以上になりますと素行調査ということで金銭を頂くことになりますが、人間的なことを言えば、出来るなら本当に警察じゃないかと思います」
俺は相手に無難に返せているだろうか。
少しムッとした雰囲気を出した部下にも構わず「なるほどなぁ」と、まるで賢く藤川翼は呟いた。
「端金だがなら、電話交換手として夕方ごろ学校に電話を入れておいてくれるか。高嶺高校2年3組だ。
俺が電話を入れたのは始業前だったからな…今日は金曜日か、6限過ぎの15:30以降。藤川の代理と名乗ってくれ」
「畏まりました。録音データはどうしますか?本日取りに来ますか?」
「そうする。お前一応聞くが妹とはそれ以上も以下もないよな?普通名刺なんて」
「ないですよ。少し話を聞いただけです。我々の方がまぁ、名刺が重要になるんですよ。貴方方より遥かに紙切れなんです」
「あっそう。まぁ確かに妹は素行は良くない。
で、まぁいい、本題だ」
…それについては乗りきれたようだ。
パッと社長や上里をチラ見しても少し安心したような空気…かは、わからない。
部下が、次は二枚、派手な30程の女と、恐らくどこかの組の人間だろう40代の写真を出した。
「この女が、こいつと。今日の18時頃に六本木の外れのホテル“Class”で会う。その証拠を押さえてくれさえすればいい」
…出ったー、美人局…。なんだよ最近流行ってんのかよマジで。
藤川翼は事務所を見回し「ここは土日休みか?」と聞いてくる。
「これは大至急だ、誰でも良い」
「は、はぃっ、」
突然に藤川翼の視線が向けられてしまった上里はビビるが、更に部下が車の写真を出し、「駐車場は丸ビル、地下2階の24だ。良い証拠を待ってる」と話は進んでしまった。
「……こういうのは二人一組なんで、」
「だよな?」
明らかに挑戦的な藤川翼に「ですが、」と対抗してみる。
「先ほどの電話の時間が15時30分というのはなんとなく逃げにはならないというのはわかります。が、俺には本日先約依頼がありまして、お受けする訳にはいかないかと…」
にやっと笑って藤川翼は「そうか、」とやはり挑戦的なまま、部下を見れば部下はあからさまな厚みのある茶封筒を出し、それに藤川翼は社長を眺め、「足りなかったら言ってくれ、また来る」と立ち上がってしまった。
まるではね除ける対応。
藤川翼がそのまま普通に事務所から出て行くが社長は何も言わず指組みで俺を見るのみ、上里は糸が切れたように「んなんだよぉお〜っ!」と嘆いた。
俺は最早何事もなく凛として居なければならない空気になっている。
「おいおいちょっ、なっ、」
「…やべぇな山崎さんに早くアポ取る」
「じゃなくてぇ〜、」
「おい西浦」
…来たぁ。
社長、来たぁ。まぁそうだよね無理だよねこれ。
「…はい」
「……あの嬢ちゃんどうしたんだお前」
声のドスの低さが低気圧だった。
「…お話しした通りですよ、まさか本気であのあと俺があの子を連れ込んでだなんて思ってますか?ちゃんと家まで送りまし」
「…饒舌じゃねぇか西浦!」
社長はデスクを叩いて立ち上がった。
いやぁ至極冷静なんだけど毎回。なんでバレるんだ一体。
「…ちょっとこれに関しては聞かなかったことにして聞かねばならんじゃないかバカタレぇ…」
「いやぁ…えっと」
「やっぱりな!やっぱりお前っ…!」
「いやぁじゃぁ白状しますよ確かに家に居ますよっ、けどそうじゃないんですってばっ!」
「家ぇ!?家だとおまっ、」
「レイプ現場に遭遇しちゃったんですっ!」
思い切って言ってみたら案の定シーンとしてしまった。
…ここだけの話パターンが一番メンタルに悪い。
「…聞いてないっつーことで、一人言ですけどあの兄貴頭おかしいんでっ。非行少女ありがちの家庭崩壊です、そりゃ、助けてって言われたら仕方ないじゃないですか、事後でしたがパンツもねぇ状態でしたっ。だからアレとは面識がないのでシラ切ったわけですが、」
妙な沈黙のあと「いやいや……パンツ?」と上里がへなへなと座る。
「…それ隠し通すのムリじゃね…?隠せたとしても一時的じゃん…」
「…わーかってるよ。警察の二文字も浮かんだけど、取り敢えず不可抗力で家に置いたら次の日これ。児相とかも考えたがどうなるかわからない、だが俺だって同じもんだと思うともう、あーっ、わかんねぇでしょうよ。取り敢えずヤってねぇっ!」
「…またまたお人好しなんだから西浦ちゃん…。なーんでそう無駄フェミかなぁ…」
「はい一人言終わりましたっ、大丈夫デスなんとかシマスっ。まず依頼片付けますっ」
「…人間として間違ってないくせにダメなやつだな全くってのは社長プライベート一言だけどな。庇わないからなそれは流石に。わかることしか。
…しゃぁねぇなプライベートで藤川金融ちょっと調べる。てことで俺は今日休日だと思えよ、依頼主特定は確かに必要だ、それいくら入ってる」
「えぇっ、怖くて見れねぇっすよ!間違いなく拳銃じゃねぇですけどっ!」
「じゃ、上里、写真何枚分かお前が中見ろな。西浦は山崎の件まとめろ。世の中知らぬ存ぜぬだ」
うへぇ、と言いながら上里が恐る恐る札束を出して数え始めた。
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