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学校付近になり、千秋さんは学校へ「もう少しで着きますますので」と電話をした。
対応したのは知らない先生の声で。
校門で立っていたのは、生活指導部の若い男の先生と、反対側に鈴木先生がいた。距離は、曖昧で不自然。
千秋さんは車をどこにどう停めようかと迷っていたが、私が降りれば鈴木先生が歩み寄ってくる。
「瑠璃ちゃん」
特に何も変わらない雰囲気が、却って察するのに早く。
鈴木先生は車を覗き「…ご親戚の西浦さん、でしょうか?」と、辿々しく聞いていた。
「おはようございます。保険医の鈴木と申します」
「おはようございます、早くて申し訳ないです。
瑠璃を宜しくお願いします」
「はい、ご苦労様です。
車はその辺でも、大丈夫かと思いますので」
二人の会話は最低限だった。
わかりました、ではと言い残した千秋さんはそのまま仕事に向かって行った。
「少し聞いたけど…。
宮沢先生も校長もまだ来てないの。少しだけ話せる?」
「あ、はい大丈夫ですよ」
校長というからには、やっぱり千秋さんの言う通り、児相からすぐに連絡があったのかもしれない。
先生は嫌そうに「タバコ臭い」と言った。
しかし私を見直し少し改めたような表情を作り、一緒に歩いた。
特に何も話さず、まずは保健室を「不在」にした。
「…昨日から貴女、少し騒がれててね」
「はい。千秋さんが言ってました。児相は早ければもう、学校に連絡してるんじゃないかって」
「昨日の夕方くらいだったかな。学校では知っているものを話したわけだけど、確かにお兄さんから…金曜日からかな、連絡あったみたいで。
いや、金曜日は代理の人だったのか、昨日の朝も連絡はあって、それが「貴女が学校へ来たかどうか」の確認だったのかって児相から来て納得したところで」
そうだったのか。
千秋さんが依頼されたって言ったけど、それは兄の代理としてだったのか。
「で、昨日。児相の人から教わった番号に掛けたらあの人が出て。
こっちは児相から詳しく聞けって言われたそうよ。取り敢えず、相談したことは事実で朝は何かあったらとあの人と打ち合わせをしたんだけど。
一応、お兄さんにはまだ、児相は伝えないみたい。そこは安心して」
「…そうですか」
「…今日話すことでは、今後がわからない。こちらも貴女から話を聞いて、学校での対応を児相に報告することになってる。
今の事実の率直な感想、印象を正直に言うと、貴女は学校にくるのは嫌がってたわけだし、反抗期で家に帰らず彼氏の家に泊まっている。が半分。
半分は、児相も絡んだし、照らし合わせると確かにお兄さんに疑問はある。けど、」
「子供がぐれるのは家庭環境から、ですかね?」
「うん、そういうこと。
これは行政指導とは言えるけど、家に問題があるならまずはそちらから、が普通の見解」
「…先生は、どう考えます?」
「私が貴女に聞いてるの。
…けど、概ね聞いた。貴女は確かに不良なタイプじゃないから。これからの策をと本当は考えたいわよ」
本当は。
つまり、他はそうではないのか。
「…だから見極めなければならなくてね。私と、勿論宮沢先生は。
ただ私はね、貴女の破天荒ぶりはよく知ってるから、理不尽なことは事実なのかなと思ってる」
「理不尽なことって、兄と私の話ですよね」
「うん」
「そうですよ。兄は中学校からずっと、私を犯していますが、」
言い切れば先生は、まるで肩の力を抜いたような、ただ、少しだけ入れたような、その心は読めなかったけど。私はつい、「ごめんなさい先生」と謝った。
「…いえ。
あまりにも本人が普通に言うのに、ちょっと…」
「信じられませんよね」
「ええ」
「ごめんなさい」
軽蔑だってあるだろう。
…と、半ばやけだったのにも関わらず、先生は眉を潜め「…辛かったわね」と、初めてかもしれない、労るような口ぶりで。
「…いえ。いや、えっと、わからなくて」
「…知り合いの話になるけれど。私たちにはそういう理由で男が嫌いな人もよくいるのよ。ただ、貴女みたいに「わからない」というのは…なんだか青少年特有ね。そうだったわ、私、高校の保険医なのよねって、思い出したというか…」
動揺しているのだろうか。いつも、クールに仕事をしている先生も。
「…先生も、動揺するんですね」
軽蔑されるかと思ってた。
いや、しているかもしれない、わからないけどただ先生は温かく笑い、「私をなんだと思ってたのよ」と言った。
…私って。
「…クールで、サバサバしているのかなって」
「あ、そうなの?」
「…ねぇ先生。
私って、そんなに可哀想ですか?」
「言うと思った。だから言いたくなかったの?」
「…反抗期なんですか?これも」
「いや、わかる気はする。同情とかって、なんだか売春してる気になるよね。いや、売春なのよ、他人から見れば」
「………うん、」
「……はっきり言うけど学校側はこのままじゃ、貴女はどちらにしても厄介、お兄さんのせいね、これは。なんだかんだ退学処分にしてが定説だけど、児相が絡んでるから手をこまねくかな」
「大人を困らせてますね、私」
「どうかしらね。大人が貴女を困らせているのかも。ホントに学校には来たくないの?」
「なんでもいいかも。でも子供だから…未来を考えた方がいいのかなぁ」
「そうね、大人は精々1年先しか考えないから」
「……宮沢先生が来るまで、考えててもいいですか」
「いいわよ。どうせ同じ話、いや、もっと話すだろうし」
許可も貰ったし、私は少しだけベッドで仮眠を取った。
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