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納得感に近いものを初めて得た。
「考える場所があっただけでも、来た意味がありました。
私、来月誕生日なんです、宮沢先生」
ぎこちなく、「はは…、そうなんだね」と宮沢先生は言った。
これが体裁と売春。人はいつも絡まって生きているらしい。解けることなく、丸いたゆみで。
「大人はいつも、そうですから。兄はおかしいのかもしれませんね」
どう学校が対応するのか。
どう対応しても世界は、私がもしも誰かに刺されたとして、皆、何分後に気が付いてくれるかどうかと。
「いえ」
「え?」
「ただ、愛し方、愛され方は人と人だから」
先生は最後にそう言った。
日を追うごとに空っぽになって、私は何かを少しずつ捨てていく。
本当は不感症だ。これが気持ち悪かったんだとまた、新たに気付いた気になった。
初めからそんなの、わかってたんだから。
この世の全ては続かない、祇園精舎の鐘の声。気付けなかった自分がいただけだ。
最後にという気持ちで、私は初めて自分から飯島くんに連絡を取った、すぐに既読は付いて。
尋問から解かれ、教室ではなく保健室の窓から出た私を待つように彼はやってきた。
いままでに見たことがない、頼りない表情で「藤川、」と小さく私を呼んだ。
「……あれから、来なくて」
「うん、」
「その…」
「うん」
「俺のせいもあるかもしれないって」
「違うよ」
私は至極当たり前に「外に出たいな」と告げた。
彼はそれに、なんだか切ない表情で「藤川?」と聞いてくる。
「叩いちゃったし」
「いや…あれは、」
「本当は飯島くんが悪かった訳じゃないの」
ちょっと付き合ってくれない?と誘う私に、ぎこちなく頷いた彼はどこまでも気まずそうだった。
勿論、学校の門の外に兄の何かはいず、人も通らない。
だからどうという訳じゃないけど、彼はポツリと「学校辞めんのか」と聞いてきた。
「どうして?」
「…辞めてぇのかなって。俺だったら辞めてぇだろうし」
「そっか」
「あのさ、」
「うん」
「…この前はごめん。この際はっきり玉砕させてくれ。
ホントはずっと好きだったんだ、お前が、初めから、ずっと」
…そうだったんだ。
「誰とでも寝るから?」
「…説得力ねぇけど、そうじゃなくて。流石に、好きじゃねぇやつとなんて無理だ。
わかんねぇかもしれねぇけど…その、ヤってるとさ。やっぱ、違うんだよ、考えるんだよ、俺はそれを、…知ってて」
身体は精神だ。
考えてみたらこの言葉、本当に曖昧だったけども。実際染みたのは事実だ。
「…知ってるよ。本城さんとも」
「違う、あれは…その」
好きだからすること。
何が好きかなんて、本当のところ一緒だから。
「いや、あれからどうしたか」
「嫉妬、とかさ…」
「……は?」
え?
飯島くんは食い気味なのに凄く…なんだか恥ずかしそうに「してくれるかなって……」だなんて俯く。
「あ、そういう」
「嫉妬?私が?」
「…女々しいだろ。
お前がその…初めてだったんだよ」
え?
完全に私は置いてきぼりにされ、「言わないでくれ…」だなんて…。
「でも、そうじゃなくて、」
彼は非常に…もどかしそうにそう言った。何か、確かに本音で話しているのかもしれないとは思える。
「…あんなことして、それでお前を傷つけたから」
…先生が言ったことがこんなにすぐに身に染みるとは思わなかった。
「…私はそんなに綺麗な人間じゃないよ、飯島くん」
「綺麗、いや…可愛いよ」
また恥ずかしがる。
いや、そうじゃなくて。
「…身体目当てだったらどうする気」
「…でも、まぁ、いや…うん」
「素直でもないし」
「そんなこと、」
「先生ともお兄ちゃんとも知らない人とも」
「……好きになって欲しいけど、」
あ、いや。
いや、うーん。
彼はとても純粋で、綺麗なんだろうと…今までのを考えて、ギャップで言葉を失ってしまった。
でも、まぁ。
「…飯島くんって、純粋で綺麗だね」
「…へっ?」
不思議で仕方ない。
「…いいよ」
「………え?」
「うん、いいよ。
じゃぁ、どこ行きたい?」
「え?」
「公園でも、お家でも、」
途端に彼は一瞬、切ないような顔をしたけど。
何か意は決したようだが、「うーん」と考えている。
「他に行きたいとこ、見たいもの、ある?」
登って降りて、
「…富士急ハイランド」
「…まずは俺ん家で」
そして照れる。
「親は共働きだし、ねーちゃんも家出てるから」
私は茎のほんの一端を手折っただけだ。
「…わかった」
これは暗さがすぐ後ろの足元まで迫っている。
きっといつか彼は、学校を出て、可愛い系の女の子と出会って。別れて。
そんな色々をまるごと愛してくれる人がいたら。けど、私とは少し違う道を行くのだろうか。
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