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 ぼんやりと、テーブルにばら蒔かれた資料を眺めてみる。

「…面倒だなコレ…」

 向いのソファに座った上里《かみさと》が、「うわぁそのパターンね…」と、同じ、漫画喫茶の写真を眺めて軽い口調でそう言った。

「…未成年?」
「17歳」
「…この制服、どこだっけなぁ。この子超可愛いな。俺、ミディアムって超好きなんだよね」
「…至極どうでもいい性癖暴露をどーもどーも」

 上里は興味深そうに、若干ピンボケしてしまった写真を手に取り「良く撮れたな」と感心をみせた。

「ピンボケもなんとかなっちゃってるぅ。どーやったん?」
「漫画に隠して」
「無理臭ぇ〜」
「俺もまぁこんなに上手く撮れてるとは」
「これ、援交だよな」
「そう。結構えげつない感じの」
「ひぇ〜、怖」

 ふざけた口調で言う上里に「このガキ見かけによらずクソ生意気だったわ」と至極どうでもいいだろう補足を加えると、「はははは」と他人事で笑った。

「金はいらない、写真も音声も、都合よく使えとか、」
「擦れてるね〜。それじゃぁ金で解決も出来ないじゃん」
「そのわりに従順すぎて、最早後でガッツリ来そうで気が気じゃない。
 まぁ盗聴は、正直なんか、プレイの一貫か知らんがこのガキの声がどうも録れなくてな。野郎の声ばかりで使えねぇ、抜けもしねぇからガキに5千円出して削除したわ」
「ははは碌でもねぇ。全人間の女なら勃起する西浦《にしうら》ちゃんでも壁一枚じゃ無理?」
「もうそういう問題じゃない。30分くらいずーっともう…なんか思い出すだけであり得ねぇというか俺まで犯された気分で本当に死んで欲しいと願った、この野郎」
「辛っ。それで萎えテンションなんか。お疲れちゃん」

 思い出しただけで鳥肌が立ちそうだ。
 壁にマイク、延々と人の行為を盗聴している俺、慣れているはずが「何してんだよ俺、」と珍しく我に返るような…。「気持ちいいねぇ」だとか「ほら、こんなにピクピクしてる」だとか…。
 山崎は、こんなヤツ現実にいたのかよというレベルの変態だった。

「…さぁて骨が折れるのは奥さんだよなぁ」
「…これから取り敢えず交渉してくる。ここまでくると強硬突破しかないかもしれないな」
「…え待って、西浦ちゃん。何考えてんの?」
「…このクソガキと連絡先を交換したんだ俺は」
「はっ!?」

 オーバーなリアクションを取ってくれる上里は大変対応しやすい。
 「まぁ保険だよ保険」と、多分俺は今渾身のドヤ顔だろうという誇らしさで言ってやった。

「世間知らずやらクレーマーやらの対応は慣れてるんでっ」
「流石常識を外してくるねぇ…笑えねーなおい。何しようとしちゃってんの?奥さんぶちこんだら、下手すりゃ告訴だからね西浦ちゃんっ、」
「…ついでに一番運が悪けりゃ、児童ポルノでも捕まっちまうかもしれんな、俺。まぁそしたらいっそ半狂乱ババアも婬行野郎も売春クソガキもアホ探偵も世の中から消えて若干の正常化じゃねぇの?ははっ、」
「…自棄になるな自棄になるな、頑張れよ西浦ちゃん、俺一応お前と働きたくないけど好きだよ、そゆとこ」
「煽ってんだかなんだかよくわかんねぇよ。まぁ…コレ使えねーからで、半狂乱ババアが引き下がってくれるのを上里も祈っていて欲しい」

 勿論、ばっちり聞いているくせに目の前でニコニコと黙認している社長にも目配せをしておくが何も言ってはくれなかった。

 「いやしゃちょーやべぇってマジで!」と言ってくれる上里に同士よ、どうやら大志を抱くしかないんだよと思えば溜め息が出た。
 「西浦ちゃんがお縄だよしゃちょー!」と、更に上里は喚いてくれるが、「大丈夫だよなぁ?西浦」とやっぱり社長はにやにやしたままだった。

「まぁ君は交渉なんてボロクソだけど結果があればいいよ、結果があれば」

 白髪頭、白スーツとかいう、任侠でしか見たことのないセンスが更に圧迫感を生む。ホント、そんなん何を狙ってんだよこのクソジジイ。何で白にしたの今日のあんたは。かといって他の日も大分センスがそっち寄りだけど。

 初めて入社した日に俺は、完璧に生きる“側”を間違えたとその時に勘違いし腹は括ったんだ。あの日も社長はストライプスーツに黒シャツでやけに黒い笑顔だったと思い出す。精々、懐からピストルが出てこなかっただけましなんだ。

 はぁ、よし、はぁ…。

「…んまぁ、行ってきやす…」
「おぅ行ってこい。くれぐれもアッチに行ったら何も喋るなよ西浦」
「冗談きついっすよしゃちょー!!帰ってこいよ西浦!」

 何故こんななんか、鉄砲玉の死亡フラグみたいになってんだ全く。そういうときに感じるのだろうという空想の「緊張感」が欠けているから不思議と死ぬ気がしねぇな、みたいな気持ちもきっと、死亡フラグだろう。

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