雨さん


いっちゃん、雨さんは死に際、何を考えたかなと。

雨さん視点。


「でもさ、どーせなら、その死は有効活用すべきじゃないかな。ラッキーじゃん、セカンド人生」

君って最初から強引でしたよね。
挙げ句、「もしも俺が間違った時は、お前が俺を殺してくれ」
だなんて。

馬鹿馬鹿しくて笑っちゃうでしょうが。

でもね、|樹実《いつみ》。
僕、君がそうやって今、ステンドグラスに照らされて、こめかみに銃を充ててる姿、ちょっと、見てらんないなぁって思うくらいには一緒にやって来た気がするんですよね。

いまなら君が二回も、僕を殺せなかった理由が、痛いほどわかる気がするんです。

テロリストにはなれないんだねって。
皆脅して下げたって言ってあげられないよ。

君ってどうして人のことばかりで生きてたんだろう。全部思い付きなのが凄く厄介で。

僕、君に昔、「あなたのことは大体嫌いですよ、クソ野郎」とか、言っちゃったことあったよね。まぁ、今でも大差ないけれど。

やっぱり悲しい顔をして「参ったな」なんてこめかみから銃を下げちゃう君って、もう、僕のことを信用しすぎだろうよ。

自分のことしか信用しないだなんて、嘘つき野郎も甚だしいわ。

タバコに火をつけると思い出すねぇ、樹実。初めて出会った日を。

「俺を殺すのはお前だったな、雨」

今更なんだよ。
マルボロが湿気るよ。まったく。
けど、あの日も雨だったよね、そう言えば。

「あなたも、僕との約束いくつも、忘れてるじゃないですか」

あれ、これだけど。
何でだろう。
君、「多分、俺は間違ったんだろう」って。

ねぇ。
案外僕は君のしたこと、間違いだと思ってないのに、「そうですね」しか言えないや。

だって、やっぱり軽く、けどそんな、猟銃みたいな重い銃を僕に向ける君の気持ちなんて、知るわけないじゃん。

多分、こんなクソみてぇな気持ちも、最期なんだよね。

「僕はあなたが嫌いです」

けど、
あぁ、長々言わせて、樹実。
君、なんだかんだ、嘘臭いけど、いつでもヒーローみたいでさ、僕はそんな風になれなかったよ。

子供拾おうが、警察庁に乗り込もうが、訓練所に立て籠ろうが。
君を止めたいって思ったと思うかもね、君ってアホだから。

僕もアホだから正直いま、なんで君と向かい合って銃を向け合ってるんだろうって想像できないんだ。

ああ、やっぱ銃身が右寄りだね樹実。
まぁ、仕方ないよね。僕も甘やかしすぎたね。

「樹実は樹実です。僕の知っている樹実は、正直でクソ野郎で繊細な…樹実なんです。
一人で辛かったですね。僕はスポッターとしてクビですね」

あぁ、甘いなぁ、僕。

「違うよ。
俺が悪いのさ、雨。俺、トラブルメーカーだから」
「自覚あったんですねじゃぁひとつ。
どっちが死ぬかわからないから、いっそ、お互いの言葉を一つづつ託しましょ。生き残った方が背負いましょ」
「…なんだよ、それ」

本当は最後くらい、君の寂漠も虚無も、
正義すらも背負って死んでやろって。まぁ、君のこと僕、殺す気だったかも、本当に。

だからまぁさ。
僕、最後まで我が儘言って良いよね。僕には君と一緒で、遺す家族がいるんだよ。

「僕から一言。
じゃぁな、クソ野郎」

右寄りかぁ。
撃たれても少しまぁ、息出来るかな。

いや、
本当に撃ちやがったなあんた。

まぁ、僕、君のスポッター失格だから、いいかぁ。

動揺して樹実に抱かれても、全然感覚とかなんもないや。痛いのかな。
体温下がってくのしかわかんないね。死ぬってやっぱこれだね。

あんときもじゃぁ、君が言うとおり僕、一回死んだんだね。でも、これ多分最期だわ。

「ありがとう」

これだけと、
あぁ、あと。
見えないなぁ。掠れているよ。僕今日、眼鏡してんのにね。

僕の唯一の家族を思い浮かべる。

「…|潤《じゅん》を…」

よろしくね。
こんくらいの我が儘、聞いてよ。
まぁ、景色見えないけど、感覚ないけど樹実。

最高だったよクソ野郎。

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