いっちゃん視点
いっちゃん視点
相棒のルガーレッドホークに血が滲んでいる。目を閉じれば走馬灯を知った気がした。
くだらねぇぜ。
こんな使いにくいリボルバーの弾倉を俺が回すことも、目の前に立って混乱したお前から取り上げた銀のオートマチックを、返すだなんて。
「ロシアンルーレットだ」
「|樹実《いつみ》」
「そいつにはたくさん入ってるし|弾詰《ジャム》らない。間違いなくお前が有利だ」
何もかもなくなれば良い。そうやってあの施設に火をかけたのに。
俺はレミントンの向こう側に何も見ちゃいなかった。
蹲って何もなく、震えながら俺を見上げていた子供に、なんとなく気概やら、宗教的かもしれないが精神美だとか。
あぁ、いや、多分。
その綺麗な黒目にはそんな美しいものなんて本当はなかったかもしれないな、流星。
ただそれは、「もう一回やってみっか、人生」と、その子供に向け俺に口走らせる程には、生々しさを感じたのかもしれない。
少し荷は降りた、背負ったにしても、肩の力が抜けたような気がしたんだよ。急にレミントンが重く感じて。
日本へ戻る時のお前の、鉄面皮ながら空を、驚く姿とか、いま思えば新鮮だったな。
どうしようもないことで喧嘩もしてきたが、あの瞬間には渇望が見えた。多分、お前ならもしかすると俺の正義を殺しにくるかもなと。
それがいいんじゃねぇかと思うくらいには満足も、自分に対する虚無もあったんだ。
「ホーチミンでガキ一人拾ってなぁ」
タバコを吸いながら|雨《あめ》に言ったとき、相棒は「へぇ」とだけ言いつつも、嫌味か、素直に驚いたのかわからないような、とにかく目の細めて言ったな。
「どういった心境の変化ですかね、樹実」
俺は答えなかったな、雨。
まぁでも、酷く珍妙そうながら、やけに嬉しそうだったよな、君は。
「ありがとう」
最期ばかりがそんな言葉だとか。相変わらず洒落てるよ。
俺はお前になら殺されたいだとか考えたのにと、後ろで眠るお前は振り返らないよ、クソ眼鏡。
「一人を殺したら最後なんだよ」
そう。
誰に向けた言葉なんだろう。
驚愕を張り付け、呆然とデザートイーグルを力なく握って「樹実…?」と口にした、あの、子供だったその|流星《りゅうせい》の目を前に、タバコを消す。
『あぁ、タバコが美味しいね、樹実』
わかるなぁ、雨。
確かにこういう前のタバコ、旨いもんなんだなぁ。
「…わかったよ」
漸く構えたデザートイーグル。
流星。
お前も雨も、どうして昔からそう、純粋なんだろうな。
殺される相手と託した俺の未来を、恨むが良いさ。その銀の銃口が、俺の戦の最後らしい。
もう終わりにしたいだなんて、一瞬でも迷ったからこんな風に、相棒すら殺すことになったのかな。
それをお前に託した俺は、酷く傲慢だな。
俺は全部、忘れて捨てられないまま死ぬんだ。
次で弾が出るのは雨、君の優しさだな。バカなやつだが好きだったよ、相棒。
「引いて、」
悪いな。
全部亡くすことは出来なかった。
目の前でオートマチックのハンマーが鳴る音がする。
不思議と笑いすら出てくる気がした。
多分俺を殺せたらお前は正義なんだ。俺の正義はなんだったのか、でも、貫いたつもりだったよ、流星。
「そう、そして、」
ただ、こんな時にもそんなことしか教えない。お前が今どんな表情かはわからないが、案外お前は、よく見りゃ顔に出やすいヤツよな。
トリガーを引かなかった、殺した相棒を思う。雨、君は、戦場とは、掛け離れた筈だったな。
銃口が震えているらしいな、流星。かちかち、微かに聞こえるよ。
楽しかったよ、お前も、あの施設よか、楽しかったならいい。
じゃぁな、クソガキ。
トリガーを引けずに終わる俺は、やはり負け犬なんだな、ホント。
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