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再び短編日記〜


とある日の昼下がり。
場所は東京。

「え、贈り物?」

とあるバーの休憩時間。
30代バーテンダー|兄《あん》ちゃん。電話台に片手をついて話す。

電話の相手は、果たして誰なんだろうかと、店でのレアキャラ調理担当、金髪で長身の兄ちゃんがテーブル席で頬杖付きながらそれを眺める。

カウンターには、最近の常連、大学生男子2人。

ルーズリーフに何かを書きながら二人は「いやここはさぁ、」と、短髪、白地にオレンジラインのポロシャツを着た方が、紺のカットシャツに灰色パーカーの茶髪男子に言う。

同じ、バーのオーナーはそんな男子二人の前でカウンターに肘をつきつつ、電話台の方を眺めた。

ゆったりとした昼下がりだ。

「あぁ、そうですね、三月です。
え、俺と|真里《まさと》に?」

バーテンイケメン兄ちゃんは、先程からちびちびとウィスキーを飲みつつ、ちらっと金髪レアキャラ調理師を見た。

「みっちゃんさん、彼女と揉めてるんですかね、あれ」

紺シャツ青年が、ポロシャツ青年の話を完全に途切り、オーナーに問う。

「彼女ってぇか妹の父親だな。
|歩《あゆむ》も|一喜《かずき》も、腹減った?」
「あぁ、え、|小夜《さや》のぱ、パパ上?」
「|柏原《かしわばら》さん、一喜腹減ってるっぽいです。最近コンビニ飯らしいからこいつ」
「はいよ。
|真里《まさと》ー飯つくろーよ」
「あ、はいー」

金髪兄ちゃん、グラスを持って染々立ち上がる。

「えぇ、え?小夜のいないところでこっそり見てくださいって…|水野《みずの》さん、いや、流石にそんな…え?違うんですか?え?何俺ちょっと怖い」
「なんの話してんの光也さん、ちょっと変わって」
「あ、ちょっと真里に変わりますね」

バーテン兄ちゃん、渋々金髪に受話器を渡す。

「あもしもし、お久しぶりですー。変わりました、真里です」

金髪とバーテン兄ちゃん、視線を合わせ、バーテン兄ちゃんが小さく息を吐き、「おっさん、俺が手伝うわ」と厨房に入った。

「どしたの」
「いや、なんか水野さんが俺と真里に贈り物をしたらしいんですが…」

オーナー、然り気無くカレンダーを見た。

「小夜ちゃん、大学発表いつだっけ」

何故それがいま関係あるのか。

「え?一週間後だよ」
「ふーん」

オーナー、ちらっと大学生二人を見て。

「カメラ持ってんの歩だっけ」
「え?なんですか?」
「あれ、ビデオカメラ」
「あぁ、まぁ持ってますよ」

茶髪大学生が答える。するとオーナー、にやっと笑い、

「貸してやってよ」
「え?」
「柏原さん、どういう?」
「だって、お前、大学だよ?ホームビデオくらい欲しいじゃん」

これは絶対に何かを企んだ。
大学生二人、察する。

「えー、何企んだんですか」
「お前シナリオライターでしょ?わかるよね」
「多分わからない」
「俺も同感です。あと歩、小説ですよ。まぁ演劇台本とか用にカメラ買ったみたいだけど」
「お前らねぇ、親っていうのはね、子供の成長記録欲しいじゃんって」
「え?なに?」
「歩わりと鈍感だな。んじゃ、そんなわけで明日持ってきてまたここ貸したるから」
「はぁ、」

疑問顔の大学生を残し、機嫌良さそうにオーナーは「光也ー俺久々お前の和風パスタ手伝うー」と、厨房に去ってしまった。

「…なんだろ」
「わかんねぇなぁ、けど面白そうだね。
一喜も受験だよね。
観たいだろ?小日向さんの感動合格劇」
「えっ、いや、だってわからんじゃん」
「だから、撮って来てもらおう」
「はぁ…」

何故か友人までオーナーに納得したらしい。ポロシャツ男子には甚だわからない。


次の日、ちゃんと二人はカメラを貸してくれた。が、持ち主の茶髪は言う。

「あとで俺たちも観ていいの?」

ポロシャツを笑いながら見て。

「やっとわかったな少年たち」

と、オーナーは言うが、「いえ、全く」と二人は声を揃えて言う。

「ま、一週間後もまた来いよ」

言いながらカメラを操作し、「はい、光也ー」だの言って、休憩中の店内を撮影。

「なにしてんのおっさん」
「あんまりこーゆーの写すべきじゃなくない?」

バーテン兄ちゃんと金髪が、テーブルでカレーを食いながら口々に言う。

「はいはいーいつもの光景でーす」

そして大学生二人に今度は向け、

「はいー、小夜ちゃんの先輩二人でーす」

ルーズリーフを退けてカレーを食ってた二人、唖然。

「マジでなにしてんのおっさん」
「んービデオレターだよ」
「は?」
「これ送ったらいいんだよ光也、水野さんに」
「なんで」
「確かによくわかんない」
「仕事中は俺がみんなを厨房から撮っちゃうからね」
「え、なに」
「仕事しないの?」
「仕事するよてか真里、大学発表ではお前の仕事だからね」
「は?」

わからん。
なんだそれは。

オーナー、カメラを切ってテーブルの二人に持っていく。

「はい光也。これ歩からの借り物だから壊したら弁償ね」
「え、なにその唐突」
「なんかわかんないんすけどー、」

茶髪先輩、カウンターから振り返り、にやりとした。

「まぁ一喜の為だと思って。きっとエロいやつは一喜まだあれだからダメですよー」
「え、なんなの二人」
「歩殴るぞマジ」
「やだよお前の痛ぇもん」
「あぁ、なるほどね、柏原さん」

と、金髪が手を叩く。

「そりゃ確かに発表日は俺だわ」
「だろ。あと6日頑張って撮って」
「何を!?」
「小夜ちゃんの努力」
「え?は?」
「だから光也、女とか真里とかとのそーゆーの撮ったら」
「撮らねぇよあんたじゃあるまいし。てかぁ、ないですから」
「じゃやっぱお前」
「残念だなぁ、光也さんとの濃厚な日常ダメかー」
「バカなの?ねぇ何?皆何かを悟ってんの?俺だけわかんないの凄く嫌なんだけど」
「悟ってるってみっちゃんさん、このタイミング色々誤解を招く言葉選びじゃないですか」

茶髪先輩がひっひっひと笑えば、オーナーが、「歩やっぱセンスあるね」と感心。

「なに、気持ち悪いわ!」
「だからぁ、」

オーナー、直々に提案。

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