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 それから潤くんとは分かれ、他の仕事を片付けてから、言われた書類を思い出した。
 テキトーにそれを処理をしてから有島の元へ持って行くのは、夕方くらいになっていた。

 艦長室の扉を叩き、不機嫌そうな有島の返事を聞く。
 「熱海です」と言うと、何故だか有島は上機嫌で「熱海くん!」と扉を開ける。

 んな一瞬にして上機嫌になったくせに、人の顔をじっと見てから「なんだよ熱海くんかよ」と、また一瞬にして有島は不機嫌になり、席に戻る。
 全く以て失礼な奴だなこの上官。

「遅くなってすみませんね。はいどうぞ」

 臆せず二束返した。
 片方は突き返す用、片方は判子を押したものだ。

「…熱海くん、君、潤は一緒じゃないのか」
「え?」
「…全く。君のところにてっきり居るかと思っていたのに」
「はい?」

何言ってんだ。
分かれてから2時間近く経っているはずだが。

「帰ってないんですか?」
「見ての通りだよ。栗林へ書類を任せようと思ってたのだが…栗林もいないしって君、この書類はなんだい」

嫌な予感しかしないなそれ。

「あぁ、それ僕の仕事じゃないんで。
 僕、栗林さんに渡してきましょうか」
「えぇ?」

 僕は間抜けな上官にもう一度念を押して聞いてみることにする。

「潤くん、ずっとお帰りじゃないんですか」
「だから、」
「いえ、なんでもありませんよ。はい、貸してください。会ったら伝えておきます」

 問答無用で有島から書類をまた受け取って艦長室を後にする。
 その足で、一度教官室に懐中電灯を取りに戻り、昼間に潤くんと一度訪れた船に向かった。

嫌な予感ほど、よく当たるものだ。

 物音を立てず、入り口から入ってすぐだった。

「はぁ…あぅ…っ」
「はぁ…あぁ…ほら、いいだろ?」

 荒い犬のような息遣いと切れ切れに漏れる苦しそうな喘ぎ声。
 やはりか。
 すぐ近くだ。

「痛っ…、も、いや、やめて…っ、あっ、」
「ふっ、そう言って、…どれだけ…」

 最っ悪。
 なんで僕ってたまにこういうの当てちゃうんだろ、野生の動物のような本能にうんざりする。

 声のする方向に懐中電灯を当ててみた。

 声が止んだ。息遣いだけが先程より、くぐもって聞こえる。口でも、塞がれたのだろう。

 僕のなかでそれは確信になったので懐中電灯を当てながら何歩か歩いたとき、見つけた。

 栗林に後ろ手を取られた状態で潤くんは窓に押し付けられ、下は半脱ぎ状態で口を塞がれまさしく、犯されていた。
 額に浮かんだ汗と淀んだ涙目、わずかに光る臀部から腿にかけての滴が凄惨さを物語っていた。

 明らかにこれは乱暴だ。

「栗林さん」
「熱海っ…!」

 僕を見てすぐさま変態は潤くんから離れズボンを引き上げる。

これは強姦というんだよこのクソッタレ変態野郎。

 責めるようにゆっくり静かに栗林へ歩み寄る僕は最早、こいつは上官というより猿だ、クソ野郎だとキレていた。僕の剣幕は多分、鬼だと思う。
 栗林は数歩逃げるように後ずさり、腰を抜かした。
 腰抜けよりもまずは、放心している少年の保護が優先だろうか。

「潤くん!」

 と叫ぶ一言で漸く潤くんは我に返った表情だった。
 疲れたように窓に額を擦り付けながら、「熱海さん…」と力なく呟く痛々しさに。

 あと一歩、近付けない。

僕は彼に何をしてあげようというのか、そもそも、彼には知られたくないだろうし、恐怖だって嫌悪だってあるはずだ。僕が歩み寄っていいのか、どうか。

 僕が近付かないとわかたのか潤くんは、取り敢えず乱れた衣服をゆったりと直した。
 そのまま向き直り窓を背にして、怠そうにすたんと座り込んでしまった。立つのが困難なのか。そんなに、か。
 諦めたように、額に当てた腕すら重そうで。

「潤くん…!」

 やっと僕はあと一歩を踏み出し、そんな潤くんの肩に落ち着かせようと手を置くと微かに肩は震えていた。
 だが、泣いているわけではないようで。ただ、脱力したように「はは…」と潤くんは笑った。

思った以上の厄介者だな、君。

「見られちゃった」
「君…」
「内緒だよ」
「何がですか、」

 切れ切れに言う少年の言葉の意味なんて理解できない。
 君は一体何を背負って自分を捨てるのか。

「…有島さんには、言わないで」
「はぁ?」
「住む場所なくなっちゃうから」
「え?」
「そう言うことだ、熱海くん」

 皆目検討なんて付かない。
 少年はまだ15歳で、
そんな恐怖にどうして怯えなければならないんだ。

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