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僕が潤を艦長室へ連れて帰れば、有島の顔が顔面蒼白になったのは言うまでもない。
「潤、どうしたんだ、それは…」
「練習艦の中で発見いたしました」
「ど、どうした…」
異常自体はバカでも察したようである。
「有島さん、俺はまぁ、大丈夫なんで…」
バーカ。
「潤くん、少し休んでましょうか。もう少し、頑張ってくださいね」
「…熱海さん、何する気」
「君の今後を示します」
「熱海くん、どういう…」
「まずは栗林二佐をお呼びいただいてよろしいですか。僕の呼び掛けには応じませんから。何せ僕、先程ぶん殴りましたので」
「は…はぁ!?」
潤をソファに寝かせて言いのける。
「あんたが呼べないなら僕が引き摺ってでも連れてきますよ」
「その必要はない」
噂をすればなんとやら。
ドアから件の変態の不貞腐れた声がした。
解せない表情で、先程僕が殴った横っ面に湿布を張って現れる。
「先を越されたか。下品な男だねぇ君は」
「遅いご登場ですね。遅刻は戦で勝敗を分けますよ栗林さん」
「よく言うわ。誰のせいだと思ってる」
「さぁ。僕はいまポジション的にはアテナかなと思っていますが。
さぁではリンゴ争奪戦といきましょうか。まず僕の要求は二つ。有島さんと栗林さんの解散です」
「ほぅ、それを私に言うかね」
「ええ」
「気は確かか」
「はい。そちらこそ気は確かでしょうか?
いいですか?不和の林檎と言うのはいがみ合って投入されたものです。いがみ合ってないんじゃぁそれはただ、ヘラとアフロディーテが望んでトロイア戦争を起こしただけに過ぎませんね。アテナは駒で最初に潰されます。
僕としてはんな低脳な戦、戦線離脱で構いませんがそれはエリスの思う壺だと思いませんか?
しかしすみませんね、もしも僕が、エリスと繋がりがあったとしたらどうします?」
「はぁ?」
「何を言ってるんだ君は」
「例え話ですよ。知りませんか?ギリシャ神話。これを機会に是非ご一読を。
無学な貴方方にわかりやすく解説いたしますと、有島さんの3000万円の隠蔽を許し、共に流用していたのは栗林さん、貴方だ。ついでに海外への麻薬密売を促していたのもそう」
「え、何それ」
ま、確信じゃないけどね。
僕の口喧嘩に勝てる変態なんて樹実と師匠しかいないんだよ。
「ちょっと時期が早まりましたので不十分ですがね」
白衣の奥から、書類を出す。
正直、こんなことでこうなるなんて早合点だと戦友はキレるかもしれないが、出したもんは仕方のない。
「あぁついでにこれ」
CD-Rも取り出す。
「パソコン開いてるなら見てみます?
言っときますがこちら…」
お前らこれだけでビビるだろ、無能が。
樹実に感謝だ。
「Federal Bureau of Investigation。こちらに知り合いがおりまして」
間があった。
まぁこれだけ笑顔で言う僕にもこれにも現実感ないよね、普通。アホ面下げて苛め甲斐があるってもんだ。
「…それと今回の件が、何が」
「僕も簡単にフラグは回収しようなんてしていません。つまり、単純に、そんなくだらねぇことでガキ使うなって話なんですよ。賄賂じゃないんだから。ただそれだけですがまぁ調べちゃった以上、面倒なのであんたは左遷、あんたは謹慎でどうですか。潤くんは僕が引き取ります」
「ふざけるな!」
「ふざけてる?まぁそうですよね。中途半端です。じゃぁ有島さん、辞職してください」
「は、はぁ!?」
「あーあ、結構優しい対応だったんだけど。ただまぁその|場所《・・》がなくなればお宅の貿易も捗らないし、結局没落貴族ってやつに成り下がる。いずれにしても潤くん、君、そこにいても貧乏生活を強いられるか売られるかですよ。だったら並みの生活をしましょうか」
「ふざけんな、大体なんの権限があって」
だからFBIって書いてあんだろこのバカ上官。
とっくにバレてるっつーの。
「…僕案外ね、あんたらより顔が広いんですよ。少なくても暇潰しでこんなの調べてくれる上司がいたり、前防衛大臣の葬式に呼ばれるくらいにはね」
漸く意味がわかったらしい。
有島は乾いた笑いをあげ、正面から僕を諦めたように睨む。
「…なるほどな。ウチは、スパイを送り込まれていたわけか」
「人聞き悪いなぁ…一介の軍人ですよ」
軍人なんて、こんくらいの野生本能で頭使って生きるもんだわ、普通。
「…まぁ確かに軍人だな。本当にそれだけの男だな貴様」
「なんとでもどうぞ。ご苦労様軍人被れが」
こうして、騒動は嵐のように、話し合いわずか30分で過ぎ去った。
結果有島は遥か西の訓練所へ左遷。栗林は穴を埋めるように一等海佐へ昇格。結局データは、未だ僕の手元にある。提出したの有島の手による3000万の隠蔽のみ。
所謂見せしめというやつだった。
僕はあれから、潤を引き取った。
正直、どうしてなのか。
『これも何かの縁だ。私に拾われてしまったのが運の尽きですな、若造よ』
それはその通りだったかもしれませんね、師匠。
今、漸くその気持ち、わかったような、わからなかったような、そんな気がしています。
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