10
仕事でもしようかなと、僕も仕事に没頭することにした。
「熱海二佐…」
二時間くらい経っていた。
部下の一人が僕を訪ねてきた。
大体そういうときは、厄介事だろう。なんだろう、流星くん、なんかやらかしたかな。そういうタイプだよね、多分。
「はい、何かありましたか?」
書類に無差別に判子を押していく。
「あの、船が…」
部下が口籠って報告した。
なんだ、壊れたかなぁ。
「船?」
「はい…あの…。茅沼様の…」
「あぁ、流星くん?彼なら僕の書庫に」
「…貴方の本を片手に只今船におります」
やっぱり。
予想的中過ぎて思わず笑ってしまった。
「え?それ指揮官は?」
指揮官は船なんて弄れないからね。怒っただろうなあの変態。
「大変お怒りでございます」
「でしょうな。面白いからそのままでも」
「ダメですよ!」
「…はいはい」
なんとなく彼は一つくらいやらかしてくれるだろうと思っていた。
案外、楽しいな、それもまた。
腰は正直軽い心境だ。
僕は部下と船に向かうことにした。
なかなか、骨がある。
骨があって尚且つ曲者だ。昔の自分達を見ているようで大変厄介だ。
船に向かう道すがら、僕は部下に、試しに一つ聞いてみることにした。
「君さ」
「はい」
「どうして海軍になったの?」
「まぁ…」
この若者はまだ、20代前半位である。しかしまだ、実務経験はない。
「一度自衛隊に行って、就職が微妙だったんで」
なんてほざきやがる。
「なるほどねぇ。自衛隊って就職良いって言うもんね」
「まぁ、キツいですからね」
こんなの、樹実が聞いたら笑うんだろうな。流星くんなんて、樹実が拾うまでは、殺伐としていたみたいだから。
「彼はね、ベトナムの宗教施設で育ったんだよ」
「え、あのお坊っちゃん!?」
「そう。まぁベトナムだし宗教施設とは名ばかりで実際には日本人収容所と言ったらいいのかな。僕は当時まだ|三等海尉《さんとうかいい》でね。日本政府がそのクソ団体を滅ぼしに行った時、防衛省でカチャカチャパソコンをいじって雑務をこなしていましたよ」
「はぁ…」
「そしたら樹実が子供を一人拾ってきた。珍しいこともあったもんだ。何があったんでしょうね、あの子」
単に樹実の気紛れかもしれないけど。
どうだろうね、樹実。
施設の船に乗り込んでみると、「違う違う!」と、艦長の|羽田《はねだ》さんの声がした。
「え?じゃぁこれは?」
「こっちが通信用。てか兄ちゃん、そんな覚えられるか?」
「うーん、正直無理っぽい」
「はいじゃぁこのボタンは?」
「えっと…なんかあのプロペラ?」
「大砲だよ。ちょっと無理っぽいな」
「あー、ナメてたかなぁ、なんかわかんなくなったからこーゆー時は見てみようかなとか思ったんだよなー」
ふははっ。
懐かしいなぁ、あんなの。
やっぱ素質あったね。
「おやおや、楽しそうですね」
「あっ」
僕が声を掛けると、まるで流星くんは悪戯がバレた子供のような気まずい顔で振り返った。
それがどうにもおかしい。君、純粋だねぇ、どうやら。
「構いませんよ」
「え、えぇ!」
僕の一声に部下二人が驚く。
「だって艦長、いつも僕は指令であなたに操縦を任せている。あなたの方が筋がいい」
「いやぁ…しかし、あんたは…」
「流星くん、まぁ、そんなもんなんですよ」
「ほー、ん?つまり?」
「うーん。
官位で説明すると艦長の彼は|三等海佐《さんとうかいさ》。僕が二等海佐。セオリーでいけば艦長は僕なのですが、いやぁ、何分彼の方が運転が上手なので」
「へぇ…」
「いやまぁしかし、熱海二等海佐には司令官というか指揮官を任せているわけだ。彼は経験もあるし何よりどちらかと言えば頭脳派だから」
「ほー、なるほどー」
「あ、思い出した。
熱海さん、|栗林《くりばやし》|一佐《いっさ》がお呼びでしたよ」
「でしょうねぇ。まぁ、いいですよ」
「はぁ…。あんたまた独断ですか?」
流石羽田さん。
長いこと伊達に僕の部下、やってないね。
「まぁそうなりますね。この子、友人から預かったんですよ」
「あんた、友人いましたっけ」
「残念ながら。相手は国家キャリア官僚のクソ野郎なんですけど。変態じみた優男です」
「あぁ、茅沼さんですね。へぇ…あぁ、それでねぇ」
羽田さんはそれを聞いてにやっと笑った。
あなたも昔一緒に空軍基地まで行きましたもんねぇ。
「わかりましたよ。まぁ、言い訳係はあんたの役割。俺は厄介引き受け係かな」
「優秀な部下を持って僕は幸せですね。毎度毎度すみません。
さて、流星くん。君には申し訳ないけど一回僕の部屋に戻りましょうか。ちょっと、大人の事情発生です」
「…俺悪い事したかな」
「いえ、いや、まぁ。しかし、そもそも諸悪の根元は僕の悪友ですので心配せず」
「というかこの男はそもそも上の人間とウマが合わないんだよ」
「はぁ、なるほど」
「君がゆったりのんびり出来るように大人が頑張ります。さぁて、一佐はなんて?」
言われる筋合いなんて、ないんだけどねぇ、多分。
「勝手に野良犬を飼いやがってとさ」
「口が過ぎる男ですね。野良犬よか、育て方によっては警察犬にも狂犬にもなるということをわからせてやりましょうか。まぁ今日はお手柔らかに行ってきます。あぁ、君、ご苦労様でした」
さて、行くか。
僕は一緒に来た部下に声を掛け、熱海は後ろ手を振って船を後にする。
やっぱ、官位を鼻に掛けるやつには報告しとくべきだったか、僕、一佐じゃないしね。
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