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「君、面接では合格か不合格か微妙でした。何故ならば…」
それから1年ほど経った頃だった。
俺はどうやら、警察官学校の面接をしているらしい。
雨さんがいなくなり、途方にくれた俺はあれから考えた。茅沼樹実は本当に、俺や雨さんの、例えば資金援助だとか、役職援助をしてくれたようだ。
拳銃だって使い方はわからない。
死のうにも死ねないし、そこまで来ると虚無を越え、というか開き直ることも、生きていく上では必要なんだと知り、漸く何かを始めようと思ったのだ。
向かい側に座る面接官は困ったような、イライラしたような感じで書類を睨み、叩く。
恐らくは親の欄に熱海雨の名前と、保証人に茅沼樹実の名前があるからだろう。
雨さんの名前を知らない警官など、勿論いないはずだ。
茅沼樹実の怖さを知ったのは、雨さんが帰って来た時だった。
雨さんが想定、予想、したよりも、茅沼樹実は偏屈で天の邪鬼な男だったようで。
それから数ヵ月程度で雨さんは釈放され、家に帰ってきたのだった。
茅沼樹実はどうやら、USBをネタに上層部へ乗り込み、栗林殺害を自白し、雨さんの解放と就任を要求した。
内容的にも彼の地位的にも、これくらいの我が儘は通ると踏んだのだろう。
確かに通った。しかし。
「誰も厚労省、警察庁に預けるなどと言っていないが?彼は元々|防衛省《ぼうえいしょう》の管轄だ。二階級特進、悪くはないだろう」
釈放はされ、雨さんは二階級特進。だがそれは、現場から遠退き、パソコンの前でカチャカチャと仕事をしてたまに視察に行き…と、つまらない仕事をしているらしい。
当て付けやら、口封じやら。出世はしたが、そんな感じ。厄介な人物感を煽ったようだった。
「それが?」
面接官の言いたいことは分かるが、わりと俺はそんなわけで、要するに。
俺は警察組織をナメきって面接に挑んでいる。
「君、つかぬことを聞くようだが、|星川《ほしかわ》|防衛大臣《ぼうえいだいじん》のご子息だよね?」
「…さぁ」
「僕はそう聞いてたんだけど」
「…誰から」
「各方面から」
「…人違いじゃない?第一そうだったとして、星川防衛大臣はもうお亡くなりになってませんでしたっけ?」
「よくご存じで。不幸な事故だったそうだね」
「へぇ」
不幸な事故。確かにそうかもしれないな、いまや。
「熱海雨とは、どういう?」
「ずっと一緒に住んでます」
「親代わりなのか。この、茅沼樹実?とは?」
「家の保証人です。熱海との友人だそうで。いま、彼いないから。ちょっと世話になってるんですよ」
嘘だけどね。
こっそり働いてるよ、お前くらいじゃ知らないだろうけどね。彼は、末端からしたらまだまだ、犯罪者に近い認識だろう。
「…ホントに?」
「…嘘吐いたって不利でしょうが」
「確認取れないの?」
「あー、取れるよ」
こんなときの為の嫌味を、俺は樹実さんから教わっている。
「何かあったらFBI日本支部のタカダソウタを通してってカヤヌマが言ってた」
と。
合否保留となり、俺は面接室から廊下につれていかれた。
そこでもう一人、隣の面接室から出てきた、日本人顔のわりと面のいい、少し年上に見えるやつもいた。
だが特に俺達は話すことはなく、ただ、教官同士が話し合い、互いに書類を見ては溜め息を吐き、
「冷やかしかどうか確かめてやるよ」
と、俺のとは違う方の面接官が、とても警官とは思えないくらい嫌味ったらしく、ケータイを取り出してそう言った。
まさかとその時思ったが、面接官はその場で電話をし始めた。
『はい、日本支部でございます』
漏れ聞こえる声。わざと聞こえるように設定したようだが。
マジでFBI日本支部へ連絡したようだ。
その警官は本当に出られて驚愕していた。
それから、樹実さんがいうところのボス、「タカダ」という人物に繋がったようで。
『はい、タカダと申しますがカヤヌマ関係でしょうか?警察学校は受かりましたか?』
遥か時が経って、一度高田にこの話をされたことがある。君たち、よく面接通ったよね、と。
その時の面接官はマジでビビっていた。
「えぇぇえっと、か、カヤヌマ様は…」
『カヤヌマはただいまおりませんが、というかこの電話はカヤヌマ個人のものではないのですが。どういったご用件ですか』
声的にそこそこの年齢らしい、タカダソウタ。
「いえ、あの…面接できた子の書類不備が多数ありまして。身元確認の際にこちらを教えられたものでして」
『かしこまりました、少々お待ちくださいませ』
そこから流れる保留音。非常に長かった。
『あー、もしもしはい、カヤヌマと申しますー』
マジだ。
マジで樹実さんだ、声が。
「…すみません、あの、お宅の名義やらで面接で来た子達ですが」
『はーい』
「どちらも書類不備なので連絡をした所存ですが」
え。
やっぱ、こいつもなの?
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