3


『え?二人とも書類不備?』

マジか。

 ちらっとそいつを見れば、そいつとも目が合った。が、互いに反らして俯く。
 流石にありえないだろう、と。

「そうです、二人です」
『いやぁちょっと待ってよー。今上司のタカダから連絡ありましたけど何ー?理由は?』
「ウチが持った方は戸籍のところですが」
『は?戸籍?』
「はい」

なに、それ。

 俺もなんか、似たような経験ありだけど樹実さん。なに、なにあの人。脳裏にあの、切なそうにピストルを渡した樹実さんが浮かぶ。あの情景が俺、イメージ変わりそうなんすけど、マジで。

『いやぁ、だからその子達が言うとおりなのよなんなら俺ハンコ押したよね?』
「ありましたよ押印。えっと片方の20歳の子はあんたが保証人で?」
『うん、そう保証人』
「親でもあるみたいな…。
もう片方も保証人ってなんなんですか」
『は?』
「片方は親と保証人、片方は保証人ってあんたなにこれからかってんの!?」

泣きそうだった。

 それどっちがどっちかわかんないけど、わかったことはうん、もう一人と俺、待遇一緒なんだね、多分。怪しい書類の書き方のような気はしてたもん。

『あ、あぁ…はは…マジかー。
 いやぁ、うん、それその子達に代わって』

 まずはもう一人の方、この状況下で唯一鉄面皮を貫いた若い兄ちゃんに電話が渡された。

「もしも」
『おいバカ何してんだよ。お前さぁ、何で続柄で親って書くの?バカなの?』

 確かに。樹実さんの年齢(よく知らないけど雨さんと大して変わらなそう)にこの年齢のガキ、ありえねー。

「ラサールはこれでいけたんだけど」

なにこいつ。
しかもラサール?これで行けた?ナニソレよくわかんないけど。大丈夫なのこいつは。

『は?
 だからさ、ラサールじゃねぇんだよここはに・ほ・ん!in Japanだわこのバカ!はい、代われ!』

 そいつは何事もなく鉄面皮続行で、教官に電話を返した。

樹実さん、多分日本とかラサールいう問題じゃないよ、それ。

「もしも」
『あ、どもども〜、はい、間違いないですぅ〜。その子ちょっと海外長くて。はい、すみませーん。はい、次』

捲し立てるヤクザのようだよ樹実さん。

 電話は震える手で俺に来た。
わかるわ、これ怖いわ。

 もしもしが「もしも」で終わる覚悟で「もしも」「よぅ」やっぱりだ。この人、人の話聞けない。

「お前さ、何?」
「こんにちは久しぶ」
「は?」

 は?って。何、軽くムカつくんだけど。

「潤ですもう聞いた通りですけどなんすか。あんた保証人でいいんじゃないの?」
「いや、はぁ…」
「じゃぁ何。俺だから正直に書いたけど何?あんなクソたらしで書けっていうの死んでんのに」

 教官二人、明らかにドン引いた。
だよねぇ〜。
 ため息が電話の向こうから聞こえた。

「いや、俺の親は熱海さんだから」

 これだけは言っとこ。
 あのクソ親父なんて思い出したくもないから、マジ。どんなことがあろうと、雨さんは家族だ。

「バカ、そりゃぁね、その兄ちゃん呆れるよ、うん」
「はぁ?なんでよ」
「今は俺が面倒見てるでしょうが。取り敢えず親の欄は俺の名前にしときなさいよ」

なんだそれ。よくわかりませーん。

「よくわかんないけど」
「は?」
「大体あんたの字書けないわかりにくい」

どうだ!
俺って意外とひねくれてるからね!

「字?
 お前なんで保証人の欄に書けて親の欄に書けないの、んなわけないでしょ代わって!」
「なっ」

 教官、呆れたように手を出してきた。
 暫し見つめて電話を渡す。

『はい、よーく言っときましたんで。すみません。これからも宜しくお願いしまーす。はい、はーい』

一蹴された!
なにこの初体験!

 教官も疲れたようにぶちっと一方的に切られた電話片手に「もういいよ…」と言う。

「取り敢えず君は親の欄に頑張ってこの人の字、書いて」

 泣きそうに言われた。

 こうして俺は、強引かつ隠蔽臭さが漂う形で正式に(多分全然真っ黒)書類を通して警察学校への入学を認められたようだった。

- 30 -

*前次#


ページ: