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その鉄面皮とは案外、すぐに再会した。謎面接から三日後。入学式の日だった。
俺は警察官学校の入学式をバックれた。
朝礼の時点でクソつまらなかったのだ。
雨さん、前俺に「クソつまんないですよ」と言ったことあったけど。
わかるわ〜。
「君たちは日本の未来を担い…」
なんて宗教じみてんのかよみたいな朝礼、ホントにうぜぇわ。
だからサボっちゃった、みたいな。こっそり移動とかの時に抜け出して、
けど、抜け出したらなんかあんのか、なんもなくて。
なんで抜け出しちゃったかなとか考えて、外に面した石の廊下で座っていた。
入学式に戻るのはもう、ここまで来れば嫌だった。
なにより、学校なんて。
教育期間なんて、嫌いだ。良い思い出なんてひとつもない。
小さい頃から、「あら、星川さんところのお坊ちゃん」で、父親を知らないババア共には「なんの子だか知らないけど、金持ちなんでしょ。済ましちゃって。ウチなんかITの」とか御託ばかりを聞いた。
母親はそれには微笑むだけで。実際は
「ITなんてあそこの奥さん、私が防衛大臣の妻だと知ったらきっと媚ばかりよ。
潤はあんな低俗の子供となんて関わらなくて良いわよ?バカが移っちゃうわ」
なんて。
その愛想の悪さにどれほど苛められ、阻害されたかなんて知らぬままに自殺なんかして。
あの日母親を見つけたショック、
いや、少し安心した自分もいた。もう、気が狂った母親なんて殺してやるしかないじゃんと。
それでも母が俺を求めたのは、もう、愛情以外にない。母親は暖かかった。どこか守りたかったのかもしれない。
露呈すれば簡単だ。どこのどいつも可愛がるくせに、どこか蔑んで。
「お前、一年か坊っちゃん」
はっと我に返った。
ぼんやりとしていたけど、多分、雰囲気的に先輩だろう、難いの良い男が三人、近寄ってきた。
溜め息が出た。
どこに行って、誰も俺を知らないところに来たって、結局これ。警官学校なんてそんなもんかよと再確認した気がした。
答える間もなく目の前に取り囲まれ、
いつの間にか身を守る癖、久々に意識が行った。また俺足を抱えてる。けど片足だ。それくらいには、久々だった。
一人が手を伸ばしてきて恐怖が出た。目をキツく縛っては脳裏に、母親が殴りながら俺を求めるあの、泣いた顔ばかりがフラッシュバックした。
「可愛らしい顔してんな、お前」
だが案外すぐにその手は離された。
背筋がぞわぞわする。膝に顔を乗せて身を小さくしようとしても。
不思議だ。
あの日の、戦艦で助けてくれた雨さんの、冷酷な眼差しを思い出す。
あの頃より、小さい頃より。
俺は変われなきゃならない。
出来るだけ強気のまま、俺は先輩を睨み付ける。お前らなんて、頭の悪い猿と、変わらない。
ふと、人の気配がする。
視線で見ればあのときの、
あの、面接で一緒に待たされた鉄面皮がいた。目があったらなんか、
少し、気が変わった気がする。
ちょっとリーダー雰囲気を醸し出した真ん中のやつが言う、「お前、新入りだろ?」と。
そうか。
低俗だ。
「はぁ、でしょうねぇ」
「なんでこんなとこにいんだよ」
「あんたらは?なんでいんの?俺と一緒でしょ?サボりじゃん」
「お前なぁ…!」
「ルールって言葉を知らないようだな」
「いやいや言えた口かよ…」
真ん中のヤツがじろじろ、角度を変えてガン飛ばすように覗き込んできた。
やくざかお前は。
笑いそうだった。
そうか、普通ってこうなんだと思ったが、一瞬にして目が変わった。
「へぇ…」と、間があってそいつは離れる。
あの頃の子連れババア達や、
俺をマワして遊んだあいつらと変わらない。じとっとした、挑戦的な、嘲笑的な目。
「可愛い顔してんな、お坊っちゃん」
やっぱりな。
いいぜ、そんくらい。
慣れたもんだと少し嫌になった自分がいた。母親に似てると言われてきたこの容姿、ホントに何も特をしない。
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