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 それから先輩3人が目配せをした。自棄だ。全員殴るなり強姦なり好きにしろ、満たされないやつはそうするんだと一息吐いたとき、「あのー、」と、あの鉄面皮が声を掛けてきた。

何故だろう。

 だが、振り向きもしない先輩にすら、その鉄面皮は臆することなく堂々とそいつらを睨み付け、俺を見て。

…そうか。
胸くそ悪かったのか、俺。

「ありがと、先輩」

 廊下から外に降り立つ。
 見られちゃ不味いわな、スイッチが突如入って、また振り返った真ん中の先輩を掴み、驚いた先輩の横っ面を思いっきりぶん殴っていた。
 先輩共が唖然、倒れたそいつも殴られた頬を押さえて状況を把握しようとしているらしい。

「うわぁ…」

 鉄面皮が唖然として漏らした。
なるほど、そんなもんなのか。

「てめぇ…!」

 漸く相手方は状況を把握したらしい。
 踞る一人と、心配そうに庇う残り二人。

「あのー、すんません。大丈夫っすか?」

 後ろから鉄面皮の声が掛かる。

「誰?」

 聞いてみた。先輩も「誰だお前!」と、漸く先輩方は鉄面皮に気付いた、といった具合に振り向いた。

遅くない?確かにひっそりしたヤツだけど。

「あー、新入生です。君、星川くん?」
「え?あい」

ん?
あいつも覚えてんの?正直あの時上の空だった気がしてたから、大して人に興味ないのかなこの鉄面皮とか、思ってたんだけど。

「教官が呼んでこいって」

 けど、なんか声のトーンは微妙に上がった気がする。

何?
からかってんの?

「え、嫌だ」
「え、なんで」
「うーん、宗教臭くて気が狂いそうだから」

 咄嗟に思い付いたにしては我ながらセンスのある言い訳。
 溜め息を吐きながらも、やつは“ついつい”といった感じににやけ始めた。

 なるほど、鉄面皮は結構、顔面を頑張ってんのね。そっちの笑った方が断然良い男だけど、あんた。

「同感だね」

は?
こんな、真面目そうなのに?

「え、何それ」
「いや、俺も教官うぜぇしあの空気吸ってらんないわ、気持ちはわかる」

え、何言ってんのこの人。全然よくわかんないけど。

「てめぇらな…!」

あ忘れてたわ。

 起き上がらないまま、先輩は喚く。
悪いね、性格悪い低俗は興味なくなったわ。

「あ、忘れてた。なんですかセンパイ」

 漸く隣のヤツが一人立ち上がり、胸ぐらを鷲掴んできた。

「喧嘩売ってんのかてめぇ」
「物騒だなぁ。俺からは売ってねぇけど?」

バカはどこまで行ってもバカ。

 先輩に掴まれた手首を掴む。めりめりと音がする気がする。なんだよ、案外俺って強いのね。
 先輩は痛そうに涙目で俺の手を払った。

「センパイ達も俺と遊んでく?暇なんでしょ?」

どうせ。

「てめぇ」
「あのー、星川くん」
「なんですか同期くん。話は済んだよあんたとは」
「いや、済んでないから。俺君を連れて帰らないといけないんですけど」

本気でそれだけでお前、ここにきたの?こんな状況の傍観、やめたの?
変なやつ。

「だから嫌です」
「だからダメです」
「なんでよ」
「わからん。取り敢えず来てよ」
「嫌だ」
「あのなぁ…。君も大人ならね」

 呆れたようには見える。

「お前ら二人してバカにしてないか」

 そう先輩が言えば、案外イライラしたように、「うるさい先輩お宅は黙って」と鉄面皮は言った。

気ぃ、短ぇ。見た目に似合わず。

「あぁ!?」

なに。
おもろいんだけど、こいつ。

「てかあんたもサボっちゃえよ」
「うんまぁそれでもいいけどお前とは嫌だ」

お前?
マジで、俺に言うの?
なに、新鮮。

「なんで」
「お前日本語通じねぇし空気読んでくれないから」

ふはっ、
けど。
ムカつくぅ。口悪ぃ。

「…まぁよく言われるけどそんなにはっきり初対面で言う?案外失礼だね」
「俺もそれよく言われる。初対面で言うかなお前空気読めよ」

お前が言うのぉ?
ナニソレうざっ。

「なんなんだお前ら」
「だからうるせぇっつってんだよ!」

ハモった。
何キモい。

しかも、

「大体君たち後輩にいちゃもんつけて絡んだ挙げ句殴られてますけど大丈夫かよ。どうせだったらシめろよ情けねぇな」
「えぇ、ひでぇ、なんだよお前」

 思わず感想出た。

シメろだと?
何こいつ、ギャップ凄くね?

 先輩たちもたじろぎ始めた。だよね。そいつ、なんかあたまおかしいよね。

「なんだ、おま」
「先輩風だけなら誰でも吹かせられんだよわかるか?大体君らいくつよ二十歳越えてますか?俺はこう見えて20になるんですよわかりますか?多分君らが高卒なら俺の方が年上なんですよどう考えても!」
「は、はい…」

うわぁ。
すっげ、なにそれ。

「はいじゃねぇ立てやクソガキ!」
「はい!」
「わかったら去れ!Go away!」
「はい!」

 拳銃を何故か取り出し、そいつはその腕を真横に伸ばし去れの合図をすると、先輩方は恐れおののき、そそくさと立ち去った。

ナニソレ。
大分やべぇ。

 鉄面皮が先輩を追い払うと、「はぁ、」と一息吐いて拳銃をしまった。
 唖然として俺は腰が抜けたようにまた座り込んでしまった。

 また溜め息を吐いて鉄面皮は俺の隣に座り、取り敢えず両手を後ろに付いて空を見上げ始めた。

出なくて良いのか入学式。

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