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「真面目にクソくだらねぇな」
そう思ったんだ、あの時。
“海軍訓練所立て籠り事件”
新聞はアホみたいな内容だった。
タバコは増えてイライラして。
正直、俺の我が儘は通るだろうと踏んでいたのに。
「樹実…、部署でタバコ吸わないでくれよ」
「だぁーもぅ!」
イライラして新聞をパソコンにぶん投げる。灰皿に当たり危うくタバコごと落ちそうになって。
「どうしたんだよ樹実!」
無駄に元気というか、なんか熱量ある感じで仲間に肩を叩かれて。思いのほか痛い。そうだこいつは見た目のわりに力があるんだったな。
「銀ちゃん、痛い、」
「あ、ごめんごめん」
ここは日本で、あの時は新しい部署、来たばかり。物はまだ少ない。
“厚労省国家特別テロ捜査本部”
最早どこのなんなのか皆目わからない部隊名。センスが無さすぎる。しかしこれは、「名は体を表す」にふさわしいなとしみじみ思ったもんだ。
彼は今頃、ほぼパソコンの前でカチャカチャと仕事をしてたまに視察に行き…と、つまらない仕事をしているだろうかだなんて考えて。
こうなる前の日常がつらつらする。
「朝から陰気臭ぇな。あぁ樹実、いい加減にしろ。俺が付き合うから。ほら、行くぞ」
と言った部下と。
あの頃、部下に配属され、同い年だった白澤銀河と荒川政宗は、こんな調子だった。
「俺結婚したんだよ」
なんて政宗は幸せそうに報告したっけな。殺風景に灰皿が何個かと自販機が置かれている、変に清潔的で、なんとなく嫌いな喫煙所でな。
「嫌になるくらい、犬畜生に成り下がったなぁ、俺も」
なんてくだらねぇ話をしたのにな。だから子供も妻も事故で死んだと知ったときに、あの捨て猫みたいだった潤も流星も預けたんだよ。
「まぁ丸くなったと言えばいいよ。今後ともその調子で」
なのになんで。
「なぁ樹実」
悲しそうな、怒ったような表情で政宗が俺の元まで歩いてきて、
「なんだよ」
「お前は間違ってないと思いたいんだ」
パファイファーツェリスカなんていう、どこから手に入れたかわからない、支給品以外を手にする政宗と、後ろにいる、連れてきた部下と、流星と潤と。
足元に血を流して凭れ掛かる雨と。
下らない日常までいままだつらつら、つらつらと思い出していく。全部、断片のような、走馬灯のような。
どうしてこうなっちゃったのか。
やっぱり、あのUSBだったのか。
いや、最早なんだったのか。
親父が許せなかったのか、
疲れちまったのか。
ただ変わらないのは、いつだって足元が血塗れなことかもしれない。
発端は何だったのか。
雨、君がきっとあの日に、「君は見ない方がいい」と、USBを預けたからだろうと、そんな気がしてならないよ。
『いつ、』
殺した一等海佐の、拘束され、驚愕を張り付けた青ざめた表情と、
「いつ、かぁ。
出港命令書、置いて行きましたね。わざわざ自宅まで調べあげて足を運んで頂いたようで、ご苦労様です。そこで漸くわかりましたよ。あの時の事件の謎が、全て組上がってしまった。そしてこれはつまり、僕に対する死亡通知だなと」
淡々と怒りを込めた雨の表情と口調を思い出す。
きっかけなんて、簡単だった。
俺が作った“特テロ部”と、対立した“エレボス”を作ったこの宗教団体。これを終わらせるために俺はいま、
警察庁長官である実父を殺して立て籠り、それから宗教団体を血塗れにして、仲間にこうして銃を向けられている。
思い出すことなんて、ホント、山ほどにあるもんなんだな。
『樹実、これはね。君が見るべきものではないんです。君は、君が信じた世界を歩めばいい。ただ、僕が残した爪痕は、僕らの真実は、こんなちっぽけな物に収まるんです』
本当にそうだった。
なぜ俺はここにいるのか。
『君が羨ましかった。なにも背負わない君が、すごく…ヒーローになれる君が、凄く』
違ぇよ戦友。
俺は背負わなかったんじゃない。
背負えなかった。ヒーローには、なれなかった。
『樹実、僕はただ…。
ただ、職務を全うしたかっただけだった。死んだ仲間を想うことは最早、それを背負うことは最早、僕がしてもいいことではないから。だから、僕は、』
雨、俺は思い出を背負えない。
何故、そう。
きっかけなんて、もうわからないんだ。
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