2


「真面目にクソくだらねぇな」

 そう思ったんだ、あの時。

“海軍訓練所立て籠り事件”

新聞はアホみたいな内容だった。
タバコは増えてイライラして。
正直、俺の我が儘は通るだろうと踏んでいたのに。

「樹実…、部署でタバコ吸わないでくれよ」
「だぁーもぅ!」

 イライラして新聞をパソコンにぶん投げる。灰皿に当たり危うくタバコごと落ちそうになって。

「どうしたんだよ樹実!」

 無駄に元気というか、なんか熱量ある感じで仲間に肩を叩かれて。思いのほか痛い。そうだこいつは見た目のわりに力があるんだったな。

「銀ちゃん、痛い、」
「あ、ごめんごめん」

 ここは日本で、あの時は新しい部署、来たばかり。物はまだ少ない。

“厚労省国家特別テロ捜査本部”

 最早どこのなんなのか皆目わからない部隊名。センスが無さすぎる。しかしこれは、「名は体を表す」にふさわしいなとしみじみ思ったもんだ。

 彼は今頃、ほぼパソコンの前でカチャカチャと仕事をしてたまに視察に行き…と、つまらない仕事をしているだろうかだなんて考えて。

 こうなる前の日常がつらつらする。
「朝から陰気臭ぇな。あぁ樹実、いい加減にしろ。俺が付き合うから。ほら、行くぞ」
と言った部下と。

 あの頃、部下に配属され、同い年だった白澤銀河と荒川政宗は、こんな調子だった。

「俺結婚したんだよ」

 なんて政宗は幸せそうに報告したっけな。殺風景に灰皿が何個かと自販機が置かれている、変に清潔的で、なんとなく嫌いな喫煙所でな。

「嫌になるくらい、犬畜生に成り下がったなぁ、俺も」

 なんてくだらねぇ話をしたのにな。だから子供も妻も事故で死んだと知ったときに、あの捨て猫みたいだった潤も流星も預けたんだよ。

「まぁ丸くなったと言えばいいよ。今後ともその調子で」

なのになんで。

「なぁ樹実」

 悲しそうな、怒ったような表情で政宗が俺の元まで歩いてきて、

「なんだよ」
「お前は間違ってないと思いたいんだ」

 パファイファーツェリスカなんていう、どこから手に入れたかわからない、支給品以外を手にする政宗と、後ろにいる、連れてきた部下と、流星と潤と。

 足元に血を流して凭れ掛かる雨と。

 下らない日常までいままだつらつら、つらつらと思い出していく。全部、断片のような、走馬灯のような。

どうしてこうなっちゃったのか。
やっぱり、あのUSBだったのか。
いや、最早なんだったのか。

親父が許せなかったのか、
疲れちまったのか。

ただ変わらないのは、いつだって足元が血塗れなことかもしれない。

 発端は何だったのか。
 雨、君がきっとあの日に、「君は見ない方がいい」と、USBを預けたからだろうと、そんな気がしてならないよ。

『いつ、』

 殺した一等海佐の、拘束され、驚愕を張り付けた青ざめた表情と、

「いつ、かぁ。
 出港命令書、置いて行きましたね。わざわざ自宅まで調べあげて足を運んで頂いたようで、ご苦労様です。そこで漸くわかりましたよ。あの時の事件の謎が、全て組上がってしまった。そしてこれはつまり、僕に対する死亡通知だなと」

 淡々と怒りを込めた雨の表情と口調を思い出す。

 きっかけなんて、簡単だった。

 俺が作った“特テロ部”と、対立した“エレボス”を作ったこの宗教団体。これを終わらせるために俺はいま、

 警察庁長官である実父を殺して立て籠り、それから宗教団体を血塗れにして、仲間にこうして銃を向けられている。

 思い出すことなんて、ホント、山ほどにあるもんなんだな。

『樹実、これはね。君が見るべきものではないんです。君は、君が信じた世界を歩めばいい。ただ、僕が残した爪痕は、僕らの真実は、こんなちっぽけな物に収まるんです』

本当にそうだった。
なぜ俺はここにいるのか。

『君が羨ましかった。なにも背負わない君が、すごく…ヒーローになれる君が、凄く』

違ぇよ戦友。
俺は背負わなかったんじゃない。
背負えなかった。ヒーローには、なれなかった。

『樹実、僕はただ…。
 ただ、職務を全うしたかっただけだった。死んだ仲間を想うことは最早、それを背負うことは最早、僕がしてもいいことではないから。だから、僕は、』

 雨、俺は思い出を背負えない。

何故、そう。
きっかけなんて、もうわからないんだ。

- 42 -

*前次#


ページ: