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「今ごろ政府や警察関係者は顔面蒼白でしょうね」

 そう言ってあの日雨はパソコンからUSBを抜き、データを消して俺に託した。

“海軍訓練所立て籠り事件”

 所謂汚職と、かつて雨と出会った切っ掛けとなった事件とが結び付いた。雨のいた海軍の殲滅。それは当時、真相には辿り着かなかった。
 漸く行き着いた先に、破滅を見出だした瞬間に俺は自分がしてきたことに気付いた。

 あのベトナムの宗教団体を唄った日本人収容施設の殲滅だって、いまのエレボス殲滅だって、全ては日本政府の財産となる。同じことは繰り返すんだと気付いたんだ。

 昨日に遡る。

 銀行強盗テロと宗教団体殲滅を前にして、複雑な心境だった。
 この部署が取り扱う案件はひとつ。最早誰も取り扱っていない、存在すら疑問視されているテロ組織、『エレボス』だ。
 この組織に行き着かなかったのは、あまりに実態が無さすぎるため、数々のデマが蔓延っていてどの部署もお手上げ状態だったからで。

 そんな中作られた部署が“厚労省国家特別テロ捜査本部”なのだが。
 確かに検挙率は堂々の一位で100%だが、何分デマばかり掴まされているし、正直流れてくる仕事が、所謂“汚れ仕事”と化している。要するに、たらい回し先だ。

 国を上げた結果の末路がそんなんだった。

 宗教団体に向かう道すがら考える。果たしてこの団体を滅ぼすのは正しいことなのかと。国家は平気で人を捨てる。実際黒幕は警察組織の上層部であると、俺はそんな気がしていた。

「陸、来てる情報は?」
「え」

 |十津川《とつがわ》|陸《りく》。
 今年入社の情報担当の若手だ。

「えっと…」
『もっしもーし、現地に着きましたー』

 車内に潤の声が響いた。
 運転席にいた政宗が溜め息を吐く。

「あいつ手癖悪ぃなホント」
「まぁ、潤はハッキングに関して天才だよねー」

 銀河も苦笑していた。
 それは雨が教えた手癖だよ。お前らは知らないよな。あのクソ眼鏡はFBIのスパイだからな。

「…ついたか潤」

 無線に声を掛ける。わかってるけど、大分早かったらしいな。

『あー来た来たうん』
「取り敢えずそのテンションで状況よろしく」
『はいはいー。
 流星ー』
「あ、呼ばなくていいわ」

 嫌味を言われるに決まっている。

『犯人3だね。死刑囚2人、あと陸軍の下っ端が1人、1人が指名手配。樹実さん、この指名手配犯がね、ちょっと厄介そうだったよ』

 陸軍と聞いて一瞬ルークがビクッとした。
 ルークは俺と昔、米軍基地を焼き払った経歴がある。

「やっぱ15人もいなかっただろ。
 政宗、やっぱこのまま宗教団体へ直行。多分残りが宗教団体だ。そして銀行強盗は人数的にフェイクだろ」

 エレボスの大体のやりくちがそうだ。今回の銀行強盗のように、警察の目が行きそうな事件を起こす。その裏で麻薬密売や人身売買を行う。

 今回俺たちはついに、宗教団体のアジトを掴んだがはずだが…。

『樹実さん、マジ言う通りだわ。こいつらの情報2時間前だよ。タイムリーじゃないね』

 当たり前だ。
 警察組織は最早我々に情報を掴ませる気がない。それがこの団体の実態だ。
 作戦変更して正解だった。

『あ、てか樹実なの?ちょっと貸して』

 流星のイラついた声が聞こえる。
嫌だなぁ。

『あのさぁ。政宗来てないよ。てかさ、現場の刑事すげぇ迷惑そうだけどこれどうしたらいいんだよちゃんと連絡入れたの?』

やっぱりな。
んなちまちましたことする訳ねえだろ。

「お前頑張って指揮してよ」
『は?え?』
「お前の方が警官よりつかえるっつーの」

誰が叩き込んだと思ってんだ、俺だぞ?

「あの、隊長」

 陸が控えめに俺を見上げるように後部座席から呼んだ。
 手を伸ばせば、膝の上に置いたノートパソコンを渡してきた。

なるほど。

 1人の陸軍兵士は上官を撃ち殺した罪で死罪、1人の指名手配犯は過去にも強盗歴がある。
 陸軍兵士3人は協力して脱走した。これが黒だというのか。

 しかし誤報の銀行立て籠り15人。これは恐らく陸軍の1班の犯行だから、要するに警戒範囲と言うことだろうが、
 何故陸はこの15人一班の情報を俺に寄越さないか…。

『なにそれは?』
「別にまわりに気を使ってないだろうから独断と偏見でどーぞ」
『いや勘弁してよえ?』

 そうだなぁ。
黒はこっちに持って行こうか。

「こっちは銀河と陸と政宗と俺で行く」
『えー…』
「ルークもそっちにやるよ」

ははっ、我ながら死んじゃうかもな。

 ルークが陸の隣でちらっと、睨むように俺を見た。少し頷いて睨み返せば呆れた顔だった。

『は、はぁ?嫌だよあんな…、ちょっとさぁ、あんたね、俺らも仮に人間』
「じゃぁね」

 非難が聞こえたが無線は遮断した。

「ジャ、行ってクルヨ、ハデス」
「ハンドガンで充分だからな、多分」

 ルークにそう返せばしばらくは後部座席で銃のメンテをする音がした。横目で俺を見る政宗は呆れている。
 銀行付近まで来て、政宗は然り気無く路上駐車する。

「Break a leg」

 とドアを開けたルークに聞こえるか、はわからないが、「Cheers.」と、特にルークは見ずに手を振り返した。

 発進させようとした政宗は、どうやら一息吐いたらしい。

「…大筋ならお前、マジで死ぬ気か、俺ら殺す気か」
「大丈夫こっちはゴリラと熱血がいるから」
「いっちゃん、俺たちをなんだと思ってんの」

そんなの。

「殺人へーき♪」

決まってんだろ。
というか。

「まぁ、あいつら若いから」

まだ殺したくねぇのもあるんだよ。

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