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 宗教施設“昴の会”。
 ここは密かに大きな裏家業。ベトナム、フィンランド、ソマリア、カナダ、アメリカ、フランス…その他に勢力を伸ばしていた。

 しかし現在では衰退。信仰方針としては「人は人へ還りゆく、その先は極楽浄土がある」
と、唄ってはいるが実際のところはそうやって貧しい国の貧しい層につけ入り、人体実験を行う団体だ。

 恐らく事は人身売買から始まった。俺は各国へ行きこの団体を滅ぼしてきた。残された彼らには優秀な医者を送り込む。
 正直、それはそれで人権の売買ではないかとどこかで思っている。信じる正義に犠牲が出ている矛盾点は、昔から、わかってはいた。

『いつかヒーローは滅びを受け入れなければならない』

 昔父親に言われた言葉を思い出す。

 確かに、世界平和から還って来た父は小さな箱に入れられていた。小さかった俺にはしかし、それが父だと言われれば納得できるほど、父と会ったことはなかった。

 その箱から小さな白い、5歳の手にも収まるくらいのそれを、密かに空いた薬瓶に入れて取っておいたことがある。いまや、移動ばかりの身の上でその瓶がどこに消えたかはわからない。

 “昴の会”のチャペルに着いたとき、異様な静けさを感じた。
 この雰囲気はどこにいっても変わらない。夜は魔物とする|信仰《教え》に、闇を拭いきれない。

「…やけに静かだな」

 物々しさすらある。政宗も厳格な表情でタバコに火をつけた。

「立て籠りとは思えないほど静かだね」
「…ここは昼、活発な団体なんだ。夜を魔物とし、儀式を行う」
「儀式って?」
「魔物を殺す儀式だよ。皆が寝静まった頃、それは行われる。見てしまったら最後、魔物に食われるんだ」

 ちらっと後部座席を見る。
 陸は俯き、銀河は俺をおどおどと見つめる。

「それが、神聖だとされていた」
「…いっちゃん、詳しいね」
「まぁな」

 陸を見ればビクッとする。
 こいつはどうにも出生不明な、高田から送られてきた諜報員だ。

 読みは当たっているようだ。

「…そんな団体には新たな神が必要かもしれない。実際やっているのは人体実験と人身売買。人は、人に還るわけじゃない」

死んだらそこで終わるんだ。

「…恐らく…」

 漸く陸が口を開いた。
 横目で見るような俺の様が、睨んでいるようだったのか、少し怯んだように見えた。

「…この陸軍兵士は皆、昴の会へ足を運んでいる者です、陸軍時代に。ですからヤクを買い入れていたのではないかと」
「…陸、なんで今更」

 政宗が怪訝な顔をした。
 「えっと…」とどもる陸に構わず俺はスターリング・サブマシンガンを準備する。

「サブマシンガンなんて持ってくの、いっちゃん」
「さ、流石に数人だと思…」
「なんで?」

 聞けば陸も銀河も黙る。
 正直に溜め息が出た。

「陸、15人の一班のメンバーが今、銀行立て籠り起こしてんだよな?まぁそんなにはこちらにも流れていなかろうが、宗教団体に残りが抱き込まれてる可能性はないと言い切れるのか」
「えっ、」
「まぁ確かに警察は嫌う組織だ。
 入ってみなけりゃわからんが、一丸となってこちらがやられる可能性もある、何せ、陸軍だろ?」
「樹実、だからって」
「俺が見たところまぁ、7かな」

 ハンドガンも二丁用意する。近距離用だ。
 ふと、銃器をあさり、あの銀の猟銃が目に入る。

流星。
俺は間違っているかもしれないな。

 猟銃に.375マグナム弾を装填し替えのマガジンを準備。
 あそこには獣しかいなかったはずだと、あの、よく晴れた夜を思い出した。

「まぁ、行こうか銀河。
 政宗はどうする?恐らく俺の読みは、陸軍兵士7人が逃げ場として立て籠っているだけだと思う。ならばそれほど難航はしないだろうが、最悪パターンは殲滅だ。あっちが片付かず遅いようなら一回引き上げよう」
「そんなの、」

 戦争だろう。多分、味わったことはないはずだ。

「銀河。
 生きて帰ろう。以上」

 俺は昔からこれしか言って来なかったのに。

「近況は余裕があれば報告する。政宗、|そいつ《・・・》の御守りはお前に任せた」
「待ってくだ」
「この先は死体だぞ」

そう。

「先方が死ななければ此方が死ぬんだよ。人に帰るとはそういうことだ」

ずっと。

 それだけ言い残し降りた俺に続いた銀河は「いっちゃん、」と呼ぶ。
 それに振り向くことが出来なかった。ただ、それに着いてくる仲間に、思いはある。

「…俺昔からこの団体、潰してきたんだよ」
「…は?」

彼らは…。

「人間じゃないのは、俺か、国か、教団か」

神は、果たしてどれなんだろう。
多分、そんなもんはとっくになかったんだ。

潰してきた団体に全てを掛け、償ってきたつもりだった。
これは俺の戦いの集大成かもしれない。

命じられてやった。
でもそれは神のお告げでもなんでもなかったはずだ。この目で、見なくちゃならない。

「…ぎんちゃん、俺、右目が相当悪いんだ。ほぼ、裸眼では見えない。だから、悪いが右側援護してくれ」
「いっちゃん?」
「全部…」

正義なんてどこにもないと、見せつけられるような気がしている。

「怖い、」

 銀河に聞こえたか聞こえてないか。
 二人で、宗教団体“昴の会”へ、足を踏み入れた。

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