5


 教会に銀河と突入したが、一階の踊り場には誰一人いなかった。

だが。

「樹実、誰もいな」
「静かに」

 耳を澄ませれば微かに、物音がする。
 これは右側か、恐らく。
 讃美歌なんだろうか。微かに、そんな音が降ってくる。

 上か。

 銀河に無言のまま上を指し示す。
 怪訝な顔をしている銀河に「7と言ったが」と続ける。

「7人にしちゃぁ見事だ。
 15の誤報はもしや、角度が違うかもしれないな」
「は?」
「そもそも陸軍は名のごとく、陸にある軍。陸上戦での訓練を受けるが…」

 輸出といえば、
海軍だろうか。

「いっちゃん…」
「あのガキやっぱり仕込まれてやがったな」

恐らく。

「え、何?」
「陸だよ」
「陸?」

見えてきた。

「海軍には俺は良い思い出がないんだよ、銀ちゃん」
「は、」

 慎重に廊下を、出来るだけ気配を消して進む。後ろから銀河の緊張を感じる。
 無線で政宗に「海軍脱走者を洗っとけ」と告げた。

『海軍?』
「船の渡航歴もな」
『は?』
「いっちゃん、なるほどそういう」

 気配がした。
 正面、大階段。つまりは2階の左側からドアを開ける古びた音がした。
 アサルトライフルを持った見覚えのある青い目の日本人の医者がそこから現れ、見下ろした。

 驚きのあまり、声が出なかった。
 正義が崩れゆく直前だった。

 ふと反射神経のように銀河が銃をそちらへ向けたのがわかる。しかし相手は撃つことはしない。

「…あれは…」
「エリック・トルソン。
 米軍基地第一医療課の、日本人だ」

 思い出す。
 米軍基地を焼き払ったとき、救助にあたった医師だが。
 あのとき戦場で死んだ、とされている。
 俺のしたことの一つで、これは今やなかったことになっていた。
 行き場所をなくした奴がどうしたかなんて俺は知らなかった。

なるほど。
こんなことを出来るヤツなんてそうそういない。

 エリックは遠目からにやりと笑い、正面までゆっくりと、ライフルはぶら下げたまま歩いてくる。
 それから手を添え腰を折った。

「ようこそ、我が昴の会へ」
「はっ、」

 銀河が唖然とした。
 俺はそんな銀河を制し、まずは前へ出た。

「…久しぶりだなエリック」
「はぁ、どこかでお会いし」

 射程距離まで詰め、デザートイーグルのスライドを引いて向ける。

「惚けるなよ」
「はて…」

 エリックは何故か、俺の言葉に本当にポカンとしていた。

「…お前、本当に覚えてないのか」
「何がですか」
「米軍基地だよ」
「米軍基地?」
「俺が、」
「どこの国の話ですか?」

は?

「…なに言って」
「いやぁ、軍人さんでしたら確かに1度はお会いしているでしょうけど生憎私は国家の狗畜生でして」

…なんだそれ。

「ま、基本的には組織崩落の諜報員と、いったところでしょうか」
「なんだって、」

つまり。

「同郷かお前、」
「はぁ…同郷と言うのもどこだか」

ならば、もしかすると。

「ここに立て籠った日本の軍人はどうした」
「あぁ、組抜けのお仲間ですか」
「いっちゃん、俺全然見えてこな」
「そちらの奥の聖堂から讃美歌が聞こえてきますか?
 我が教団はまず清めの儀式を致しまして」

 目線で銀河に合図する。
 銀河が下がり、奥へ向かった。
 扉をひっそりと開ける音がする。
 一気に、火薬や、なにやら、鉄臭さが増した気がする。物音はしない。

遅かったようだ。

 一歩後ろに下がろうとするが、右側の足元に一発ライフル弾が撃たれた。

「お仲間は組抜けでしょうか」
「うるせぇ、違ぇよ、」

 銀河が扉を蹴って閉めた音がする。
 行われた惨劇と。
 あの日の綺麗な、怯えた目をした流星を思い出す。

 ライフルの銃口を上に抱えたエリックはニヒルに笑って言った。

「あんたらが遣えないからこうなったんだよ狗畜生」

 それはつまり。
 戻ってきた銀河を見もくれずエリックは。
 まるで何事もなかったかのようにゆったりと戻っていこうとする。銀河が一発打つも、手すりにすら届かなかったが、
銃声を合図に今度は右側からまた、どこかの扉が開く音がして瞬時に銀河はそちらへ反応した。

「…二人じゃ、死ぬんじゃねぇの樹実」
「死ぬんじゃねぇよ銀河。お前サッカー部だろ。タックル許す。右は任せたからな」

 それを最後に俺たちはそれぞれ駆け登り、解散した。

 俺はエリックを追い、入って行った扉を蹴り開けた。
 ざっと5人。広い、豪邸の一部屋のような空間。

 まるでヤクザ事務所のようだなと、ひとまず降参のポーズをする。

 狙う銃口を前にして俺は懐から、手榴弾を取り出した。相手が軍人かどうか、パッと見わからないが一般人かもしれない。
 だがピンは抜いた。三秒以内に投げて扉を閉め、爆発の衝撃で少しよろけた。

 ぱっと右を見れば銀河もまぁ苦戦中。5人か。
 一瞬にして終わったならまぁいいかと、スターリング・サブマシンガンをそちらに向けて何発か撃つ。1人殺したあたりで唖然と振り向いた銀河がいた。

 数人がどこか部屋へ引き返そうとする一番先頭を撃ち殺す。まごつく奴等を眺め、「追え、引き返すな」と銀河に声を掛ければ、そのまま銀河は相手を殴ったりしながら奥へ進んだ。

 多分どこかにまだ潜んでいる。
 無事を願うのは酷だが、俺は再びその、爆発した部屋を開け放ち、進む。さっきの5人のうち2人は爆死していた。

 エリックも見当たらない。
 隠し部屋でもあるか、物陰に隠れたか。

 スターリング・サブマシンガンに仕込んだナイフを抜き、ひとまず踏み入り、物陰から息からがらに現れた軍人のような男にはナイフを投げた。

 硝子細工の壊れるような、そんな音を立て、俺の戦闘準備のスイッチが入った気がした。

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