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自分がどうなったのか、大人の事情はそのころはまだ幼く、イマイチよくわからなかった。未だによくわからない。
ただ、世界は自分が思っていた以上に広い、空には届かないと知る。
ヒーローに連れて行かれた国は、遥かに狭苦しく、小さい島国だった。
それは自分の価値観、世界観を大きく変え、例えば夜なんて大したことはないくらいで。その国で何を学ばされたのか、恐らくは生きていくために最低限、だったのかもしれない。
時を忘れるほどにヒーロー、|茅沼《かやぬま》|樹実《いつみ》と共に、俺は壽美田流星として生きていくことになった。
イマイチ実態が掴めないまま必死に生きて。“高校”を出たあたりで日本の狭さを漸く知る。
気が付けば再び空を飛び、樹実の手によってペンシルベニアの大学に進学させられていた。
日本でない地で流石に一度、人生を振り返ってみても。
どうにもこうにも思い出す最初の記憶は12歳。あの男のサブマシンガンを抱えたあの背中から始まるのだ。
あのとき樹実が俺に言った、
『一回死ぬって、いいもんだろ。もう一回やってみっか、人生』
はどうやら伊達じゃないらしい。本当に俺は多分、一回死んでいるんだと思えてくる。
そう哲学が固まったペンシルベニアので一年を過ごした頃。
「は?飛び級?」
『らしいよー。え?お前長官から聞いてない?』
たった電話一本で、また更に人生の転機に差し掛かろうとしていた。
19歳春。
アメリカで一人大学生活を始め、初めのうちの時差ボケだとか、言語や文化に困るだとか、そのギャップに漸く慣れ、馴染んだ頃にまさかの帰国通知だった。
確かに、こいつは全体的に思い付きで生きていた節があり、俺はそれに慣れと呆れを合わせ持つ度胸は蓄えたが。
おかしい。まだまだ卒業の二文字からは程遠かったはずなのに。
『そんなゴミみたいなとこ出て早く戻っておいで。明日からは実用訓練。そーゆーガッコに行くんだよ』
相変わらず、少し舌ったらずな喋り方は治らず。
「どーゆー…」
『警察ガッコーでーす。ラサール飛び級とか、お前凄いなぁ』
「あ…はは…」
アメリカ人でも圧巻しそうなぶっ飛んだ無邪気さで。
『今から帰ってきたら明日の昼には着くの?』
信じられないくらい強引で。
「無理」
『じゃぁね、』
一方的に電話が切れた。
また一つ一貫して変わらないのが。
「クレイジーだ…」
ケータイ片手に呟くしかない。
だが、まぁ…。
不思議と、なんとなく樹実は自分の道を照らしてくれているような気はしている。
「わかったよ、畜生め、」
だからやっぱり言うことは聞いてしまう。
何より、警察官って。
日本の警察官って。
ヒーロー…じゃん?多分。
「クソはどっちだ」
ちょっと燻るものがあったりしちゃうけど、なんかムカつくなあのクレイジー野郎。
「What's wrong?Ryu.(どうしたの?リュウ)」
「Not anything,Mike.(なんでもないよ、マイク)」
同じ学科のマイクに怪訝そうな顔をされた。そう、今俺は大学。
マイクは普通のラサール生。去年ここで初めて知り合った、金の短髪、青い目でヨーロッパ系ネイティブアメリカンだった。
「You look so happy.(嬉しそうだね)」
「Oh, the worst.(あぁ、最悪だ) 」
授業開始のチャイムが鳴る。マイクはやはり怪訝な顔をしたままに、行こう、と教室の方を指したけど。
「I gotta go,Mike.(じゃあね、マイク)」
それだけ言って俺はマイクと、教室に背を向けていた。
もうここに通うことはなのだろうな。
そのままその足で荷物をまとめて帰国。
アメリカの家を引き払うのも何故かあっさりOK。世の中こんなに簡単なのかと、舞い上がって鷹をくくってしまったまま、日本の成田空港に来てみて唖然としてしまうことになる。
俺は税関で引っ掛かるという人生初体験をした。
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