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「…世間知らずも甚だしいな」
そして別室にて、職員に呆れられているが、正直よく意味がわからない。
「まず、これはなんですか」
「タバコです」
「いや、わかってます。貴方はいくつですか」
「19です」
「ダメですよね」
「はぁ…」
いや、俺が吸うわけじゃなく。
あのクレイジー野郎に買ってこいと言われて買ったんだけど。
更に職員は驚く。
「拳銃!?」
「はい」
「いやはいって」
「え?何かおかしいですか」
「…まぁ確かにあちらの方は護身用で持ってますけど…。あとこれ」
「はい」
睡眠薬だった。
なに、それもダメとか日本なんなの?ここって医療は大丈夫なのスラムなの?
いや、てか怪訝顔なのなんでなの?世間知らずはお前じゃないの?
俺、いつ帰れるの?マジで。一介の大学生なんですけど、マジで。
ものっそい溜め息を吐いた職員に、「いやあのもう君ね、ナメすぎ」とか呆れられちゃったが、正直疲れてるしイライラしてるしで「あ?」と。
言っちゃったらイライライライラ。
マジでこんなの監禁じゃねぇか!俺なんも悪いことしてねぇけど!
座らせられたパイプ椅子が倒れる。ふざけんな、マジで俺の何がナメてんだ、アメリカから持ってきたっちゅーに、何でダメなんだ!お前が知らないだけじゃねぇのか!
「誰が何をどうナメてるって?」
「なんだ君は。全部だよ全部!」
「あ?何あんた、どこの何者だよ」
「ストーップ!」
胸ぐら掴んでやりそうになった時だった。
久々の、と言うか昨日くらいに電話で聞いたその声に、一瞬で自制が働いた。
ゆっくり声の方を見ればやはり。ちょっとにやけた樹実は、仁王立ちしてにやりとする。
「…保護者の方ですか、貴方、」
「はーい、飼い主です。すんませーん」
軽い口調で職員に悪びれなく言った樹実は、やっぱりにやけながら、なんだかわからん紙の書類を税関のおっちゃんに掲げて俺を見た。長めの髪がさらりと舞うように。
「おかえり流星」
「ただいま…」
なんだかそれには違和感しかなかった。
そして、こんな殺伐とした状況下で笑い出すこの男にも。
「なんなのお前マジ!ウケるー!ふ、ははははは!」
厳正な空気の場所で一人笑い声が響いている状況。まさしく。
「You are crazyってこんな時に使うのかな」
「へ?なんだって?」
マジで若干ラリってるんじゃないかあんた。ヤバい、こいつに太刀打ちは多分出来ない。
「なんでもないなんでもない。いいから助けて」
「マジさ、鳩が豆鉄砲ってこれだよね。で、持ってんのグロック。ウケるよね?ね?」
おっちゃんすら、明らかにこの男のラリったハイテンションに困っている。
だが構うことなく樹実がひとしきり笑った後、「あーはい、これ」と、めんどくさそうに自分の身分証明書を職員に見せつけた。
「こ、これは…」
見た職員、途端に顔面蒼白、と言うか驚愕の目で樹実を見る。
渾身のドヤ顔をキメた樹実は言い放つ。
「わかった?この子はウチの子なの。だから許してね」
「いや、しかし…」
「えーじゃぁ電話する?多分ウチのボスバカだからお宅らの首飛んじゃうよ?いろんな意味で。
多分日本語通じませーんとか言って拉致監禁とかにされたりな」
「んなわけ」
俺もそう思うわ、税関のおっちゃん。
「あるんだよー、試してみる?
今回は見逃してよー。俺の所在がわかったらいい?」
懇願、媚び、なんだろ、途端に甘え口調でおっちゃんに言う樹実に。
どうやら一番非常識なヤツが出てきたらしい。
無言の全員一致を感じる。
多分こいつは本気でヤバイので最早こちらが妥協せねば感で「わかりましたよ、いいですよ」とおっちゃんはめんどくさそうに言った。
だが樹実はビックリするほどのハイテンションで「ホント?やったー!」と言って税関のおっちゃんとがっつり握手していた。
「ありがとう、名前聞いときます。後で礼を持っていくので」
うわあおっちゃん可哀想。ドンマイ。
「え、いいです」
樹実がおっちゃんのネームプレートを拝見し、「イワヤマさんね、」とか、強引だけど純粋にやり取りしているのを見て思い出した。
そう言えば。
もう一回アメリカに帰りたいな。荷物を強制的に開けられたことで思い出したんだ。安心したら思い出した。
「|成田《なりた》のイワヤマさん。
はーい流星、帰るよー」
「なぁ樹実」
「なんですかー」
「ラサールに忘れ物した」
「はぁ!?バカなのお前!?」
なんで急に怒るんだよ。感情スイッチの切り替え、相変わらず早いな。皆最早「カオス」みたいな空気になってるけど、マジ。
まぁ、保護者がこれなら俺は最早、税関の雰囲気は気にしないのがメンタル的にいいわ。
「マイクにメールしていい?」
「ダメ。お前これからあっちと連絡取ったら死ぬよ?」
「マジか。じゃぁいいよ」
「ちなみになに」
「え?懐中時計」
「は?んなもん買ってやるから早く帰るよ」
「わかった」
「てかいちいちませてんだよお前!」
最早樹実にとってはこの税関、終わったことらしい。何も心に引っ掛かることはないような態度で俺たちはあっさり、税関を通ったのだった。
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