5
ガラガラとキャリーバックを引っ張りながら樹実の車へ乗り込む。
即、助手席で自然体にタバコに火をつけた樹実を見て、漸く俺はほっとしたんだと気付いた。
「あー疲れた」
「ホントだよ。バカだなお前は」
「狭いなぁここは」
「けどいいだろ?」
「…まぁ」
楽しそうに樹実は言う。
確かに。
「てか、どうやってグロック手に入れたの」
「え?落ちてた」
「なんで拾うの」
「危ないから」
「んー…まぁ」
「大丈夫使い方はわかったからさ」
「へぇ…マジか見てやろうじゃないか。
じゃ、行くかい」
「え?なに?」
「お前に向いてる職業があると思ってねー」
「はぁ…は?」
何俺に向いてる職業て。
若干話も噛み合ってませんけど。
「まずは教養から。君は結構単細胞だから」
「…いや、細胞はわりとあると」
「ちがーう、バカ!はい、黙ってついてくる!」
「わかったよ、破天荒」
「お、いいねぇ日本語。英語では?」
「cryzy」
「ぜってぇ違うだろ」
「unprecedented」
「おー、流石だね」
樹実はタバコを咥えたまま、気合いを入れるように少し伸びすぎた髪を後ろで結ってハンドルを握った。
何故かサングラスまで掛けるその樹実の姿は多分、誰がどう見てもただの不審者だった。
なんでこんなのに拾われてしまったのか。結局なんだかまたよくわかんねぇけど、俺。
「あ、そう言えばさ」
「なに」
「彼女出来た?」
あっけらかんと言いながら樹実は車を発進させる。
いきなりかよ。ちょっとあまりに自然すぎて、「久しぶりに会って感動」とか、日本人情緒が一ミリもないんだけど。
「出来たよそりゃぁ」
「マジか。高校の頃のなんだっけミサちゃんは?」
「いつの話してんだよ別れたよ古傷漁んなよ」
バカなの?俺の保護者。
「あらそうだっけ」
「うるさいなぁ、寝ていいかな」
「ダメ。色々話したいの俺は」
「ふざけんなよ不審者」
「なんだお前、置いてくよ!
で、何人?」
めんどくせぇ。
「知らねぇよ。3人」
「…やるなぁお前。え?一年で3人!?」
「ですね」
「一人4ヶ月計算かよ罪なやつー!
え、てかお前が?外人に?何で?」
「童貞っぽくて良いんだと」
「…あぁ、まぁ日本人だからな。だが実際は…」
「そう、それでぐばーあい」
「可哀想だな」
「うるせぇよ」
なんでこう見事に人の傷口を、しかも無邪気に抉ってくんのお前って。
大体保護者とか一番そーゆーの話したくないじゃん。なんでそう言うとこ日本人情緒がないの、お前。心の中で避難殺到。多分俺の方が日本人向いてる。
「プレイボーイだねぇ…。嫌だわ、お母さんあんたをそんな子に育てた覚えは」
「ねぇな」
「はい。ないです」
つか眠ぃよ。けどこいつぺらぺらぺらぺら物凄く楽しそう。そう、こいつって凄く俺の話が好きなんだ。
…じゃぁ、何を話してやろう。
「そう言えばさ」
「ん?」
「名前を聞かれるわけ」
「うん」
「でさ、答えるわけよ。“Ryusei-Sumida”ってさ」
「うん」
「意味を、聞かれるわけ」
「うん」
「日本の名前って独特じゃん?まず壽美田流星が日本の言い方ですよー、ってなって、壽は|寿《ことぶき》の旧式で…とか言っても伝わらないから名字はさ、ファミリーネームです!じゃん?
流星、これめっちゃ簡単だね。meteorもしくわshooting star。
これで『Oh,Your name is very beautiful‼』とか言われるんだよ」
「確かにそうかもね」
「てかビュティホーって…」
思い出したら笑えてきた。ただ、帰国したら…名前のこととか、話そうと思ってたんだ、寝れない飛行機で。
「なんで、綺麗じゃん」
「…まぁそうだけど違和感あるんだよなー…」
「俺なんてなんて言うべきよ」
「うーん、ツリーとフルーツ」
「カッコ悪っ」
「いや理にかなってるよ」
「偏屈だなぁ」
「いや適当に言ったんだよ」
「ムカつくガキだなぁ!」
「でもさぁ…名は体を表すってなんて言うか…。
日本独自だよね。でもそれも理にかなってる気がしない?樹実とか変換出てこなくて説明が面倒だけどなんかわかるじゃん。
俺単純でわかりやすい」
「…名は体を表すねぇ…どこで覚えたのその言葉」
染々としてるけどさ。
ごめん、これお前から教わったんじゃねぇや。
- 7 -
*前次#
ページ: