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「ラサール」
「説得力ねぇな」

ですよね。嘘だけど。

「嘘だよ日本だよ」
「定着したね。どう?日本の夜空は」
「狭い」
「でしょうな」
「けど…」

狭い方が好きだ。アメリカはなんでもデカくて。いま、母国に帰国して感じるよ、樹実。
多分、心の持ち様なんだけどさ。

 樹実は染々として「今夜は晴れるかなぁ」と言った。それはこの雰囲気では俺のセリフじゃなかろうか。まぁ、空気の読めなさにも、慣れたけどさ。

「晴れそうだな」
「じゃぁガッコーから帰ってきたら星でも見ようか」
「やだよ眠い」
「可愛くねぇ」
「はいはい」

 明日見ればいいだろう。とにかく飛行機は疲れた。けどあれは人生三度目、エキサイティングだった。

 車に乗って見る街並み。
 これは今も、来てすぐの時も、物凄く楽しかった。あの箱のようなベトナムにも、広いアメリカにもない、独特の風景の流れ。日本は角張っている。そして狭い。

この狭さ丁度良いんだ、どうやら。
とても、安全で生きた心地がするから。

 外を眺めていたミラー越しに、樹実の染々とした表情が見える。

「…そんなに珍しいか?」
「うーん、おもしろい」
「あそう。どうおもしろいの?」
「狭いし、切迫感がある。自由は制限されているけど、程よい狭さ」
「あらそう。今の若者にしちゃぁ大人しい子だねお前は」
「そうかな」
「ああ。今の若い子はみんなここを出たがるでしょ」
「俺にとっちゃここはいいや。だってさ、拳銃ぶっ放すこともない。スリに合うことも銀行強盗も。だけどある意味自由だ。宗教はなんでもいいしジェンダーフリーだし、民族だって気にしない」
「どうかな、それは」
「違う?」
「いや、違わない。けど、なるほどそれがお前の自由なのかと思って」

だって、

「…大きいのは、夜散歩に行ってもなんもないじゃん。拷問されることもないし、拐われることすらない」

 これが一番の、安心する理由なのかと、言ってみて感じる。恐怖はない。狭い分、ちゃんとしている。

「いや、あるよたまに」
「ありゃ?」

マジか。

「悪い人がそれはやる。ニュースでやるよ」

そっか。
どこにでも、悪いヤツって、いるんだな。
大層、ちっぽけだ。

「はぁ、そんなことでねぇ」
「そうだな。お前にとってはそうだ。
 やっぱ、よかったでしょ」
「そうだな」

 日本から出てみて。
 この、大層ちっぽけだなんていうのは、多分おかしい、自分の裁量が狭いんだと、思い直していたんだ。

 ラサールで言ったら「Huh ?」とバカにされたから。
 というか世界広しといえど、こんなときアメリカ人も「はぁ?」と言うのかと、学んだ。

「アメリカはどうだった?」

 樹実が落ち着いて、まるで親のように聞いてくる。いや、親ってよくわかんないんだけど、なんとなく。

「うーん、極端。喜怒哀楽しかないな。ハッピーとアングリー、サッド、ラッキーだよ。情緒がない」
「ふはははは!お前に言われたら終わりだよね」
「あぁ、あっちにも鉄面皮って言葉あるんだね」
「言われたの?」
「言われたよ。
 “You're a face like a doll.”(君は人形のような表情だね)とか。
 “brazen. Vanish.”(鉄面皮が。失せろ)なーんてね」
「どんな学生時代送ってんだ」
「ぶっ飛ばしたよ。そんとき漸く、Laughing…(笑ってる…)って認められたよ」
「怖っ!」
「でも友達になったよ」
「すげぇな、マジか」

 唖然としている外人学生たちを思い出した。いや、ちょっとムカついちゃったんだよ。最初の頃なんてホントに情緒不安定だったし。

 しかし樹実は、やっぱり優しく笑うのだ。

「おもろっ」
「は?」
「いやぁ想像したらおもろいな。外人ガキ共の驚愕顔」
「悪趣味だなぁ」

ゲスいなぁ。こいつ。

「どこが鉄面皮なんだろうな」

 樹実はそっと呟く。

「ん?」
「俺には結構、お前の表情なんて天気みたいにころころ変わる気がするけどね」

 まじまじと俺の顔を見てくる樹実に、なんだか羞恥というか、いたたまれなくなるような気がして、そっぽ向いてしまう。

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