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話題を変えようと思い付いた言葉は「…あとどんくらいで着くの?」だった。
久しぶりに樹実と話して、そうだ、こういう瞬間があったなと、帰ってきたと実感してきた。
「もうちょっと。アメリカより断然近いよ」
「何メートル?」
「気が短いなぁ。580メートル」
「近っ!」
「タバコ一本分かな」
「あ、それで思い出した」
そうだそうだ。
こいつのせいもあって税関に引っ掛かったんだと、ポケットから緑のソフトパックを取り出して樹実に投げて寄越す。
見事に片手でキャッチ。しかし嬉しそうにそれを見た瞬間に樹実は、「違ぇぇぇ!」と沸いた。
なんだよアメリカンスピリットって言ったじゃん。
「はぁ?」
「違っ…お前ね、ふざけんなよバカ。これメンソールじゃねぇかよ」
「え?あそう。ドンマイ」
「はぁぁぁ、マジか」
「うるせぇよ。大体そいつのせいで捕まったんだから!」
「あと拳銃な」
「あと薬」
「はぁ?」
あ、やべ。
一気に樹実の表情がマジになってきた。どうやら誤爆だったらしい。
だが、こういう樹実はもう、逃げられない。白状しよ。
「…睡眠薬だよ。あっちで処方されたんです、それはそれはお偉い医者にな」
それはそれは胡散臭ぇ医者にな。多分、日本人だからって足元見やがったんだよ、あのクソ医者。
「何で」
「時差ボケから脱出すんの大変だったの。気付いたら薬漬けだわ!怖いアメリカ!」
「あっちゃー。あっちで医者掛かるときは言えって言ったろーに」
だって。
心配とか、嫌じゃん。しかも、なんかくだらねぇ贅沢病っぽいじゃん…。
「…嫌だったんだよなんか。寝れねぇから医者掛かりますなんて」
「あのなぁ、」
そう言って樹実は、まだ灰もそんなに落ちない状態なのにも関わらず何度もタバコを叩いた。
やっぱり怒らせたらしい。
「医療品なんてなぁ、ほとんど麻薬と思えよ」
「…だって」
「日本じゃねぇんだぞバカ。てか日本だってそうだよ!あんな、てめぇなに気を張ってんのか知らんがな、結局てめぇはいま俺んとこにいんだよ。わかる?いないときくらいてめぇでどうにか身くらい守れや。銃持ってんだろ?知らねぇぞ高い壺売り付けられても。拐われてな、薬漬けにされてレイプされてぶっ殺されてはい終了とかお前俺どうすんの?誰が俺の世話すんの?」
何。
めっちゃ饒舌で捲し立てといてオチ、それぇ?
「え?そこなの?自分でやって」
「違ぇよ。
お前の死体なんて拾いに行かねぇよクソガキ」
なんだよ。
だから嫌だったのに…。
「自分勝手」
「あぁそうだよ」
「俺はそんな大人になりません」
「結構ですクソガキ」
「あんたになんて骨の一つもくれてやらん!密葬で結構!ひっそりと死んでやる!」
勢い任せに言ってたら。
なんか腹立ってきたぞこの野郎。
「上等だクソガキ!可愛くねぇ、どこまでも可愛くねぇ!」
そのまま樹実とは警察学校まで大喧嘩した。
タバコの空き箱をぶん投げられたり、頭に来て樹実に拳銃をぶん投げるまで発展。
漸く車が停まった頃には互いに口も利いていなかった。むしろ口を利いた方が負け、くらいの勢いになっていた。
しかし。
「なっ、」
「はい、負け!」
負けたのはどうやら俺だった。
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