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 ユーリイは皮肉に笑い「君はねぇ」と手を組む。

「身辺警護なら確かに君の疑り深さは当然かもしれないが、私は守られる身であり何故疑われるのかがわからない」
「…身辺警護も仕事ですが特犯と協力し今後の為に犯罪を防ぐというのも俺の仕事です」
「身内を疑えという精神かな?しかし私にとって君は身内でもなんでもない」
「…その理論で言えば確かに、アニシン氏も同じですね」
「ああそうだな」
「では覚えがないのも仕方のないことだ」
「……公安はこうも暇な仕事をするのか。私には全て妄想故の取り越し苦労としか捉えられていないが」
「来客名簿は見ましたかバザロフさん」
「は?」
「貴方、誰が今日ここを訪れるかなんて、知っていますか」
「…失敬だな君は」

 手を組み直す。
 これもわかりやすすぎる無能な官僚だな。典型的すぎてなるほど、だからなかなか見えないのか。

「…まぁ、そうですね。それが丁度良い、政治家というものは」
「何が言いたい」
「あんた、大切な人が殺されたこと、ありますか?」

 間があった。

「…はぁ?」
「ないでしょうね。じゃなきゃ就任前にパーティー開こうとか、正気の沙汰じゃない」
「…世間知らずだと言いたいのか」
「話が早くて助かります」
「不愉快だな、悪いが時間まで来なくていい」

 では失礼しますと部屋を出ればやはり、ミハイルはそこに立っていた。

「…親がああだと子供は大変だな」
「そうですね。
 代々何もしなくてもこの地位を受け継いできた人です、仕方がないと」
「君はじゃぁもう少し苦労をしたのか」
「…意地の悪い人ですね、何が聞きたいんですか」
「単純に君ばかりがしっかりしているもんで。君の方が視野は広いがその広さ故に聞くならば、2点。
 君が護衛するというのはしなかったのか?何一つ君が動揺をしないことが不自然だ。
 もう一つはクロエの母親はいつどうやってどこにいる?ざっとのインターネット検索では確かにクロエの母は出産時にほんの少しだけ存在が話題に上がったようだ。しかし次に目立つ記事としては君が8歳の頃、レイラ氏と共に公に出ているが違和感もなく取り上げられていた。このときにはすでに本妻と入れ替わっている」
「…そうですね。疑われてますか?」
「いや。
 君の父上が偉くわかりやすい故にこの2点に至った。本当に君たちはクリーンかもしれないとは思えてきたよ。拾えるヒントは違う視点のものに限るだろう?」
「…護衛の件で言えば確かに、私が跡取り故の付き人と考えればそうなりますね。単純に腕がないからでしょうか」
「しかし君の母親はミハイルでよくないかと、何も知らなそうに俺に言ったぞ」
「一応護衛の訓練と言いますか、確かに、政治家故に殺される心構えはありますので父よりは、なんというか丈夫ですが」
「それは誰から心得た」
「件のカフカさんですよ」

 …なるほど、そう来たか。
 こちらの予想以上に関係はあった。それならば実感がないのも当たり前だ。

「…貴方が言うところの「視野が広い」でいえば、特殊犯罪部隊が接触してきた時点で身内の汚点を頭に浮かべるのが普通でしょ」
「殺される覚えがあると。それはクロエの母親なんだな」
「ええ。
 貴方の思うように明るみに出ないということは、隠しているんです。クロエの母親は俺の母が殺してしまった」
「…なに、」

 因縁があるのは当たり前に承知だったが、これで完璧に嵌まったようだ。

「………兄は、それをずっと、恐らく眺めていたでしょう。あの部屋の扉は子供では開けられない、」
「そこの物置だな?」
「私は見るなと言われましたが、」

 そうなると根本は変わってくる。
 クロエを使うならば、クロエにレイラを殺させる方があっさり障害もなくいきそうだ。

「君は母を守るというわけか」
「…どうでしょうね、いざとなればクロエを誘導するかもしれない」

 …幼いながら、余程凄惨な事件として焼き付き、様々な観点からどうやら、ミハイルは苦しめられている。彼には何も出来なかったという自責も見て取れた。
 ハッキリとわかりやすい。

「…最後の質問をしたい。
 実質現在の政治実権はレイラとユーリイ、どちらが強い?」
「…業務で言えばユーリイでしょうが、パイプを持つのは母のレイラかと」
「…わかった。
 君ならばいまの状況に何を望みたい。これは俺の業務の一貫としての確認だ」
「俺は………」

 考え込んでしまったミハイルに「まぁいい」と、朔太郎は再び飴をミハイルに渡した。
 ハッカだった。

「……当たりだ。検討を祈ろう。俺の業務はバカを捕まえることだ。バカなら全員無差別に」

 さてこれを本日駆り出されるメンバーに伝えなければならないし、何よりヤニギレだと、朔太郎は一度、屋敷の外に出ることにした。

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