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それから一通り庭を探索した朔太郎は、ユーリイに来るなと言われてしまったし、車の中で待機することにした。
庭からあの「物置」…恐らくは「離」を眺めたのだが、外装にはそれほど違和感がなく、あれならばこうして誰かが聞かない限り、全くもって意識もしないし気付きもしない造りだろうと考えた。
中を見たわけではないが、そうなると暮らしていたクロエとルカには相当な不便、いや、下手すれば支障をきたした場所だろうと推測できる。
そもそも、ユーリイ自身が言う「個人情報」を置いてある、と言う言い方。本当だったら開けっ広げてある理由の実態は扉で[#ruby隠されている=_・・・・・・#]。そしてその綻びといえば距離も、あれほどきっちりと来客スペースとプライベートスペースを分けてあるような人物だ、「仕事のやりにくさ」が生じるだろう。
よもやミハイルは「離」と言ったのだから、中に階段くらいはありそうだという仮説を立てた。
非常口の方は特に変わったこともない。外から入るのが不可能な仕組みになっていた。もし本日事が起こるとすれば、侵入は中から開けるのみなわけで、だとすれば潜入として張り込むには、広間との距離的に不自然となってしまいそうだ。
その他、では「開けっ広げ」と「隠している」の綻びを正そうとぐるぐる考えたとき、車のドアがコツコツと鳴った。
アレクと共に、ヨーロッパ系であろうヘーゼルの虹彩、やや長い金髪の青年(特犯の新人だろう)が覗き込んでいる。
窓を開けた。案の定に青年がへこっと頭を下げる。
「…どしたのサク」
「時間まで来なくていいと言われた」
「…やっぱり一緒に行くべきだったね。
あ、こいつ。ジョフ。苛めないでやってね」
「シバタさん、初めまして。ジョフ・バルテ、フランス人です」
ちーっすと頭を下げようとしたらジョフから手が出され、朔太郎は反射でビクッとしてしまった。
それに気付いたジョフは戸惑ったようだが「あー、ダイジョブダイジョブ」と慣れたアレクがフォローした。
「そいつ人見知りというか普段籠ってるから。
さてサクちゃん。俺達も挨拶行くから出て来て」
握手もしないままにそれは終わってしまい、車から降りた朔太郎はやはりヘタクソに、ジョフに飴を渡した。ハッカだ。
「…はぁ、どう…も?」
「あれ、当たりだっけこれ」
「今日は当たりしか入れてない」
「はははっ!あっそう!」
…少し助かるものだと思える。
「確かカフカの出席は今日、代理の…第二秘書だったな」
「そうだねぇ」
「…今回の特犯はユーリイ氏よりも婦人に当てた方がいいかもしれない」
「…ほぅ、なんで?」
「レイラはクロエの母を殺しているというのと、ユーリイの政治活動に於いて、ユーリイは業務、レイラはパイプという感じだそうだ。
最も変わらず、これを聞き出せたのはミハイルのみだけど」
「なるほどねー…」
「あとはプライベートスペース側の…仕事部屋の奥の真下に1つ部屋がある。非常口はその向かい側で、中からしか開かない。二階は非常階段がその両サイドにある」
「りょーかいしやしたー」
偉く簡潔であっさりと終わるアレクと朔太郎を見たジョフは素直に「凄いですね」と感心した。
「シバタさんはそれで先に入ってたんですね。確かに単独でなければ出来ない」
「うん、そー」
「ははは、勉強したまえ〜」
こちらとしての考察やらは捜査に支障もきたすだろうと判断し伏せ、人員配置に関してのみをそれからユーリイ、レイラ、ミハイルに伝達した。
「俺はユーリイ氏の近くにいますので、もしも怪しい人物がいれば合図をください。
仮にこちらからも、怪しいと思ったときには側に行くかもしれません」
「俺は奥さんで。奥さんの側にはミハイル氏も付き沿ってください。ジョフは受付に一緒に置かせます」
それから使用人にはクロエの19歳の写真も申し訳程度に配り、それとなくざっくり説明をし、パーティー30分前となった。
アレクは来客としての潜入として少しだけ待機。
ジョフは受付の準備、朔太郎は使用人と話をしながら直前まで情報を集めた。
30分で朔太郎がそれから得られた情報は噂話の域も出ないが参考になった。
古くから勤める使用人達曰く、クロエの母、ルカはユーリイが若気の至りで孕ませてしまったどこかの女らしい。
手元のルカの資料は45だが、これは死亡したという事実がまだないとすると、現在だ。
となれば、クロエを20歳の時に出産している。その当時ユーリイが26歳、レイラが22歳となるが、しかし…それならどちらも若気の至りのような気がするが、「どこかの女」と言う言い方としては、
「坊っちゃんがその…アルビノを初めて見ていつの間にかどこかから連れてきてしまったんです。
確かに凄く別嬪さんでねぇ…ベタ惚れで反対も押しきってすぐに婚姻届を無理矢理出しちゃったんだけど…お見合いしていたレイラさんが突然妊娠したと言い出してしまって、こちらも結婚せざるを得なかったんです。
坊っちゃんが…ルカさんを狂信的に愛していたのは女中誰もが知っていたし…そもそも後にミハイル坊っちゃんが生まれたのも1年は後だったと発覚したときにはもう、レイラさんの実家も偉い方だったから、丸く収まってしまってたんです」
だそう。
また、物置についてはほぼ外れなく、「そんな理由でルカが閉じ込められていた」場所だったそうだ。
ある日、ルカは19歳で一人でにクロエを出産していたのだそうだ。つまりクロエは現在26歳ということになるが、「物置」は最早一家のなかでタブー事項とされていた為、信頼のおける女中数名がそれに関してはもろもろの処理をした。
そんな訳だから、ルカに対するレイラの当たりは強く、ユーリイが出払ってる際、何度か女中はレイラに呼ばれ、ルカの手当てをすることがあったそうだ。
食事やら何やらはユーリイが運んだりしていたのだがそれがなくなったのはクロエがまさしく19歳の頃の7年前。食事が1人分に変わったのは11年も前だと言うことだった。
そしてクロエとミハイルの接点に関しては、辞めてしまったがおもりをしていた女中も存在するのだという。
クロエに関しては仕事部屋に出入りを許可されることがあった、それはユーリイとルカがそういうときや、レイラがルカに接触する際で、きつく言い渡された事項だったようだ。
「…クロエちゃんがレイラさんを手に掛けることには…なんの違和感もありませんね」
もちろんこれらは全て、こんな事案でなければ口外されることのない闇の話。
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