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 それから、朔太郎がスマートな様子で部署へ出勤して来た、あれから三日後。

 非常にクールな様だが、流石に部署のソファーでアレクが黒髪の女性警官(所謂、日本人のコスプレのような格好)に馬乗りになっている様には溜め息を漏らさざるを得なかったようだ。

「あ゛っ」

 …ブラウンの目とカラコンで射撃するように見つめた先は明らかに引いている。

「…何やってんだよアレク、おはよう」

 すぐさま女から退いたアレクはその場にシャキッと座り直し「おはようさん…」と、当たり前に気まずそうだった。

「なんだソレはおい、」
「未遂、まだなんも」

 気まずそうなアレクを置いておき、「聞いてねぇよ」と呆れた朔太郎はデスクへ鞄を置いて女を睨むようだった。

 女は起き上がり黒の長髪を脱ぐ。
 茶髪が現れた。そのマジックに、先程まで乗っていたアレクが「ナニソレすげぇ!」と感心している。

「やっぱりお前か…」
「えっ、わかったのサクちゃん流石だね」
「黙れよバカ何の用だよあとお前なんだソレは一体喧嘩売ってんのか何故だお前ら」

 丁寧に拘った制服の「黒江」のネームプレート。朔太郎は一気に言い切ってまた溜め息を吐いた。

「…楽しそうで何よりですけどね。このアホ警官を誑かしたのかお前」
「いや?」
「それはサクちゃんでしょーよぅ…。ブタ箱からテロリストお嬢様を奪還するなんて男じゃない…」
「黙ってろ。何だ用事は」
「いやぁ…」

 アレクがクロエをちらちら見るので、クロエは憎たらしい様でにこっと笑い、

「今しか出来ないことを楽しもうかと思って」

 だなんてほざいてみる。

「…強制送還ならお宅の部署へ連れて行ってくれアレク。ここは取調室じゃない」
「どう?可愛いでしょ」
「うん可愛いよクロエちゃん」
「あとここはラブホテルでもねぇんでお引き取り願おうか」
「違う、ちょっと待て俺の驚きを聞けサク。まず第一にユーリイが飛んだ。第二にここへそれを伝えに来たら美人がいた、それだけ」
「…ユーリイが飛んだだと?」

 朔太郎は籠の中の飴をぐしゃっと握ったが、さらっと流すように言ったアレクに投げつけようという気が一気に削がれたらしい、静止した。
 次にジロッとクロエを見るが、「あーね」とクロエはしれっとする。

「飛んだってなんだよ」
「…いちおー伝えとくのが礼儀かと思って。建前でもなく。君がくまなくクロエちゃんを調べたけどなんも出てこなかったのも承知だからね」
「わかってるそんなことは。飛んだって」
「…文字通り“首が飛んだ”んでしょ。飛ばしたのは俺じゃないってわかるよねアレクさん?」

 アレクが心配そうな表情でクロエをチラ見する。それには「優しいね」と吐いた。

「父親だし残念だけど、ざまぁ」
「お前は知らないのか本当に」
「…知りたい?」
「ここは取調室じゃないが資料室だからな」
「そうだったね。改めて礼を言うよサクちゃん」

 「喧嘩売ってんのかクソガキ」とクロエに言う朔太郎の口調は強い、だが少しも表情が変わらない。

「ざまぁみろと思うのは事実だ。悪いけど、こうなることはどこかでわかっていたよ。ごめんね、そうでなくちゃあんなことはしない」
「…そうじゃなくて」

 カツラをつけ直す違和感で見つめる一端は懐古のほんの毛先である。

「軍人の頭はグレネードで出来ている。それでもわかる簡単な流儀は「頭か足か」の二択しかない。
 俺はさしずめ「不発弾」。忘れたの?俺はもう死んでいるんだよ」

 朔太郎が皮肉な顔で言葉を呑んだ。
 そうだ、頭か足かと考えるほど…何故か自分のことですら遠く感じるから。

「あの木偶の坊が握っていた物なんて子供の俺にはわからないけど、知ってることを言うなら、カフカは同志も消し飛ばすほどの俄か軍人てことかな。でもアレはねぇ、グレネードも知らないんだよ。
 だが核ミサイルにグレネードなんて確かにちっぽけだ。過大評価は反吐が出るって言ったでしょ?戦争マニアが考えることは碌なもんじゃないと俺も思うよ」

 燃える基地が頭に浮かぶ。
 彼はそれに対して「誠に無念だ」とテレビで演説のようなものをしたのだ。

「…つまり、あの事故はカフカ自ら手を下したの?」
「…なるほどアレクはそこを知りたいんだね。そうだよ。これで俺も役に立てた?」
「……まぁ、」
「でもあの人は犬の嗅覚を巻く場所にしかいないんだよ、いつもね。
 それしか知らないしあんなゴミ溜めのことは思い出したくもない、ごめんね」

 朔太郎は下手に口籠り言いにくそうに「……そうか、」とだけ言った。

「ははっ。温いんじゃないのサクちゃん。どう思う?アレクなら」
「…サクは冴えないようで案外良い男だよ?なんせ俺は中性だけど、弱酸性だしねぇ。付き合って貰える?クロエちゃん」
「良いけど何に?」
「国家の下に平和を尊重したい。それはサクも一緒だから」

 考えるようにぼーっと朔太郎を眺めるクロエに「なんだよ、」と居心地が悪そうだった。

「ま…、でもこんなのは外れも外れの話だし。俺も暇潰しに来るよ。何かあったら」

 アレクはそう言って部署を去って行った。

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