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クロエは取り敢えず、と、朔太郎に飴と共に握らされた名刺、「Special Crime Unit 2 黄 麻雀(Huáng-Máquè)」を元に、特殊犯罪第2部隊へ赴いた。
まず第一に2部隊の皆が一斉にクロエを視姦が如く眺める様に、クロエは極上の愛想笑いをし「初めましてこんにちは」と挨拶をした。
一目見てチャイニーズとわかる赤っぽい黒髪は女性一人しかいない。
自然と彼女を見、「事案記録・経理部隊のシバタからのお使いです。ファン・マーチェエさんは…」とクロエが述べている間に、「あぁ?」と彼女は自ら歩んできた。
部署全体の目線はクロエから不自然に離れる。
「私がファン、デス。初めましてね。なんの用?」
特有の辿々しい、クセのある発音だった。
「事案記録・経理部隊のユリ・クロエと申します」
「はん、新しい子?」
「はい」
「日本人違うよね?」
…あっさりバレてしまった。
ファンは腕を組み、「あのファッキン鬼子貧乏野郎も隅に置けないね」と何も突っ掛かりなく当たり前に悪口を吐いた。
…なるほど。
もしや自分がロシア人とバレたら思いっきり罵声を聞くかもしれない。
「まったくあのクソボケ変態野郎が何の用ですか」と、ファンの態度は更に冷たい。
「…先日のバザロフ家やアニシン氏についての関連資料など」
「そんなモン此処にはないね、あんな老毛子、一昨日1部隊の坊っちゃんアメ公が持ってったよ。まったくアイツら協力いう言葉を知らない脳足りんね!」
…きっと悪口。
わからぬ言語が混じったり、口調や悪態のわりに淡々としている様が少々読みにくい。
「…坊っちゃんアメ公…」
「アレックスいう三十路独身バイセクシャル野郎を訪ねな。あいつは現場に居たしらしいよ。こそこそこそこそゴキブリのように、挙げ句にぜーんぶ猫ババしやがりましたよ!」
「…あ、わっかりましたぁ、ありがとうございまぁす」
「ついでにサクにもアレクにも『貴様らのせいで生産性下がったね早くやめちまえこのバカタレ』言っといてくれますか?」
「…畏まりましたぁ、はぁい……」
どうやら二人もかなり煙たい存在らしいので、これは空気を読みさっさと去らねばと思い、クロエはきちんと第2部隊に頭を下げ「失礼致しました」と挨拶をした。
次は一応、まぁ知り合いのところだし…とも思えたが、第2部隊の反応を見てもやはり朔太郎は組織のなかでアウトサイダーなようだ。確かに、彼はあのバザロフ家の現場でも始終一人だったとクロエは思い出す。
すぐ側の第1部隊でも、クロエはやはり皆の視線を浴び、パッと姿を見たアレクですらまるで面食らったような表情で「…また会ったねぇ…どしたの」と自ら聞きにきてくれた。
アレクの側にいたやや長髪の白人青年が思慮深い様子でこちらを眺めている。
「…仕事です。バザロフ家やアニシン氏関連の資料をとサクが」
嫌でもわかる。
その名を聞いた瞬間、やはり部署の空気が先程の第2部隊と同じように、妙なものに変わる。
よもや朔太郎は厄介者として有名なのかもしれない。
さらにアレクも「あー、あー、あーね、」と妙な気遣いなのだから間違いない、確信する。
「…シバタさんの?」
静観気味だった白人青年がこちらに話し掛け、ついでに頭を軽く下げては「フランス人のジョフです」と自己紹介をしてきた。
「…ユリ・クロ」
「あーユリちゃんユリちゃん。かんわいいでしょジョフぅ、俺の新たなオトモダチ」
「…はぁ、」
「サクに言われて第2の…ファンさん?のとこに行ったら」
「え、マジ?マージャンババアのところから来たの?強烈だねそりゃ」
「こっち行けって」
「うん確かにねぇ…。なるほど、「生きた情報」をということだよジョフ。あそこには共通開示がOKされた過去の資料しかないから」
「…あぁ、なるほどですね。あの人一応そうなんだ」
「そうそう。
えーっとそうだね。そう言うわけで一応でもねぇ…まぁ捜査上まだ開示が不可能な物もあるから…と、ちょっとそっちで話して良い?」
と言いつつアレクはジョフを手招きクロエを少し廊下に出しては「ご足労ありがとね」と労ってくれた。
「…マージャンババアからと考えると心中察するわ。
残念ながらサクには捜査権も表面上はないし…案外あいつ煙たがられてるから、特にここでは。こんな形だけど…持ち出しも不可だから俺から話すかここで資料を少し読むかになっちゃうんだけど良いかな?」
「…やっぱりアウトサイダーなんだねあの人」
「まぁねぇ…。事件自体も、俺とジョフがこっそり追ってて」
「ファンさんが「こそこそゴキブリのように」って言ってた」
「…ん、まぁそゆこと。君の事件で明るみになったからもうちょっと規模拡大、的な感じになったけど」
「…君の事件てもしかして」
気付いたジョフに、しかしイントネーションを変え「黒江と申します」と漸くクロエは自己紹介を済ませた。
「えっ、あの!?ホントに持ってきちゃったのあの人」
「サクはやる男だよ〜…」
「ははぁ、なるほど…つまりは黒江さん?は協力体制…と?」
「まぁ言われれば別にと思っていたんで、自分でも驚きだけど、この待遇。あんたもあそこに居たの?」
「…ばっちり居たっす。
…なんか、意外ですね。黒江さん、話せば案外普通というか…取り敢えず怪我は」
「まぁ大丈夫ですあれくらい」
「…やっぱり見た目によらないね、色々とビックリだ。
しかし…なら生きた情報なんてあんたが一番フレッシュなんじゃ」
「そうとも限らないんじゃない?クロエちゃん多分本気で何も知らないからこうなってるんだろうよ。当事者であり被害者だというサクの見解に俺は同意かな。助かるよクロエちゃん。
しかし、当事者故に例え最後は全部わかるとしても、今は開示範囲が狭くなると…サクはわかってるだろうにねぇ。最初の任務を与えるくらいには君は信用されたんだろうね。ついでに俺達への情報提供かなぁ。
て、訳で、じゃぁ帰ろっかクロエちゃん」
アレクはニコッと笑い、「さぁ行こう行こう」とクロエの肩を押した。
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