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「アレク、」
「ん?なぁに?」
「アレクは一体どこでこの前のこと、掴んだの?」
「それは君にとって意外だった、のかな」
「…あっさり介入されてるからね。俺に辿り着くのも大変だったんじゃない?」
「あー、まぁね」

 「それに関しては」とジョフが割って入った。

「カフカ、アニシン第2基地の事故、を俺たちは追っていたから。憶測の域は出ずに、普通に君は行方不明者として浮上したんだよ」
「…行方不明者?」

 新鮮なクロエの反応に、素直にアレクが「こういう反応が取り調べよね」と染々という。

「そっか、知らなかったんだクロエちゃん。そうだよ、君は行方不明者として処理されていた」
「…てっきり死んでるものかと。まぁ半分以上はその認識だろうけどさ」
「そうだねぇ。行方不明者が減り死体が増えるのは大体のクリーンな事の運びだよね。
 まあその他行方不明者のうちいくらかがテロ組織として動いてるという確認が取れているからね、皮肉にもそれで君は死者になっていない」
「…なるほど。それはどちらかと言えば」
「死んだ情報。皆その認識が共有されているよ」

 浮上した事実にクロエは口を拳で隠すようにして黙る。考え事をしている表情だった。

「言ったと思うけど軍人の頭なんてグレネードで出来ている。そして案外軍人は機転が利かないから、何の為かだなんて「国のため」と皆口を揃えて言う。だけど、その国がどんなものかというのは知らないままなんだ。それほど国を盲信しているってことだね」
「君が言うと説得力があるね。しかし、ならばクロエちゃんは武器じゃない、そんなに器用でもなく軍人には向かないねぇ」
「ふふっ、そうだね」

 それからクロエは「よく言われたよ」と笑った。

「…裏を返せば気の毒なほど頭が良いのかもね。じゃぁ使えそうだよ、警察には」
「それは一種使えない人間だよね」
「何を言う。まぁ確かに使えないが今からやるのは「プロファイルからの防止」だよ。自信持とうぜ」

 ポジティブにアレクが言う様にクロエにはどうしてもよりネガティブな思考が平行した。もう少し早く気付けば自分はこれほど身を滅ぼさなかったかもしれない。
 …等はたられば理論になるのが「死んだ情報」か。少しだけこうして身を持って掴んだ、これは軍隊のようだ、まるで。そのわりに身を滅ぼせなかったのが不思議でならない、それが「デモ」という立場だ。

「…あんたといると捨てたネガティブが甦る。なんて、嘆くことが自分でも不思議でならないよ」
「生きるというのは矛盾が付き物さ。サクを見ろ。矛盾しか付き纏わないじゃん、それじゃ陰気になっちゃうよ」

 話している側からアレクが扉を開ければ、朔太郎は別に大した様子もなく「どうだった」とだけ呟いた。

「…マージャンババアは元気だったかクロエ」
「…言伝て。『早くやめちまえ』だってさ」
「痛烈でやんの。まぁサクは仕方ないよねぇ、ババアの腕粉砕骨折」
「アレクにも言ってた。ねぇさっきからなんでマージャンババアなの?」
「名前だよ名前。まぁ恨まれる覚えはたくさんあるけどねぇ、長いから」

 軽く流された「腕粉砕骨折」がクロエにもジョフにも気になってならないが、至って何事もなさそうに朔太郎の向かいに座ったアレクも、朔太郎もタバコに火をつけた。

 ジョフはアレクの隣、クロエは朔太郎の隣と従っては早速「洒落が利いてるじゃないサク」とアレクが持ち掛ける。

「…お陰でクロエちゃんは特1で首輪に繋がれそうなんだけどなんのつもりなの?」

 アレクは穏やかな口調だが節目で、怒っていると察っすることが出来た。

「妙ちくりんだ、まさかと思うだろ」
「自分の立場わかってる?お前はウチの敷居を跨いだら糸に足を取られてドカンとやられるくらいに恨み買ってること忘れてない?」

 一気に険悪な雰囲気で、新人では「まぁまぁ、」と宥めるばかりだが、

「つまりジョフ、ここでの話はあっちで厳禁だから。この陰険甘党野郎の噂くらい半年でも聞いてんでしょ」
「……暑苦しいなアレク。お前から振ってきたクセに随分な言いようだ。そんなに詰まってんのか、ハゲるぞアメ公」
「……なぁんて、」

 牽制もそれまでに、アレクはいたくマイペースにソファに身を預け、「察しの通りだ便秘便秘。正直クロエちゃんは天使様降臨てとこ」と急におどけるのだった。

「…あぁそう、俺は朝から気が立ってるけどね。正攻法で来いよボンクラが」
「にしてはご挨拶だよねぇ、悪かったって。ホント陰険なんだから」
「何が知りたいんだてめぇは」

 …もしかすると自分はかなり軽く使われたのかとクロエも察しがつく。話のわりにはどうにも軽くて腰が抜けそうだ。

「…別に。本気で引き取ったのかと顔見に来たのは事実だけど、偉く肩入れしてるよね。
 まぁ、ついでにこっちにも来てくれんならそれはそれでお前は優しいと思うよサク。話を進めようか」

 ふう、と一息吐いてタバコに火をつけたアレクにジョフが、「つったってどこまでいいんですか」と口を開く。然り気無く朔太郎は、テーブルに置いてある飴の入った籠をジョフに促した。

「…当たり切れてるんすね」
「この前大量消費した」
「あれからのことぜーんぶいいよぅ、糖尿病になる前に帰れそうだ」
「その様子だと外したか、FBIとCIAは」
「当たり前じゃん常識的なこと言わないでよ。俺は更にアメ公だかんね、ムリムリ。んな一介の部署のヒラなんて姿も拝めませんから。ましてや知ってんでしょ、ウチはボンクラを煮詰めて固めたような場所だよ?そこだけレイニーブルーに決まってんじゃん」
「…実際にあの時来た人物はこの街のモグリ団体とも多分違いますね。まぁ未知数ですけども」

 ジョフが手にした飴はブドウだった。

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