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 「次はないでしょ」と指を組んだアレクは飴の籠からリンゴを拾った。

「…降りた者の後悔なんて甘党にはわらないかもしれないけどね。実際政治家の頭も……クロエちゃん、君の弟だってこうなってる。君も俺達もただの一介の人間だった、それは同じ立場でしょ」
「…やっぱり優しいね。俺はそんなに優しくないよ?買い被らないで。言ってるでしょ?ポンコツから話せるのはこれが洗いざらい」
「まぁ、こういうヤツなんだアレクはな」
「…アレクさん、」
「あぁいいよジョフ。好んでクソに顔突っ込むことはない」

 そう言うアレクにジョフは「あんまりじゃないっすか、」と不平を吐いた。

「…綱引いてんのがFやらCやら政治家やらだとしたらなんて、どこで踏んでたんですか」
「踏めてないよ、まだプロファイル中。
 やり口的にはここまで来れば犬が噛むのも折り込み済みかもしんないよね、ま、アウトサイダーだから俺達は入れて貰えてないに1票入れるけど。これで「表向き」。失敗すれば死んじゃうね。解放区ユートピアにはたった1つだなんて成り立たない、これは地獄絵図だ。だから、」

 アレクはニヤリと笑い、「しれっとDOを押さえちまえばいいんでしょ?」と言いのけた。

「つまりはこの話は「産まれてない情報」、卵子と精子ね。新人くんを脅かしすぎたかな。けどまぁ少しエゴ。一応殺したくない可愛い後輩だからねぇ」
「なっ、」
「降りやしないが噛ませて貰う。
 さぁて、壮大な話は裏向きだという方針を打ち立てたところで、どうかなジョフ」
「は……?」
「深追いはしない、俺は何事にも中性でいたいからね」

 朔太郎はふと笑い「まぁ出来ることもねぇからな」と言った。

「……絶大なる嫌味をどうも。いっそ乗じてお前を殺してやりたいよ、アレク」
「…戻る?サク」
「嫌だね。お前は黙って出世しろ、殺し甲斐がない」
「へーへーわかりましたよ。
 しっかしやっぱり霧の中だ、気持ち悪い。一人天使をパクったし一旦ここで終わり。クロエちゃん良いヤツいない?」
「んー全員幽霊でよければ。多分キメすぎて浮遊してるよ」
「あっそ。じゃぁサクは合コンメンバーをファイルに入れといてね。また来るよ」

 そう言ってアレクは飴を一掴みし「お家に帰ろ」と、まだスッキリしない顔のジョフを連れ部署を後にした。

「あの人大丈夫かな」
「そうだな。良い奴なんだがバカなんだ」
「外れちゃってるね、みんな」

 ふいにクロエは朔太郎を見る。

「まぁ退屈はしなそう。ねぇサクちゃん」

 そして急にがつっと、クロエが朔太郎の膝に頭を落とせば「痛っ、」と驚いていた。
 からから、からからと飴を口の中で転がしながら「これ全部飽きた」とクロエは朔太郎にどうでもいい不平を述べる。

「…本気で頭おかしいなお前」
「そうかも。もうたくさん」
「…まぁ察するが」
「俺生まれた意味あんのかな、まぁそんなことよりも考えることは沢山あるけど」
「軍人は碌なこと考えねぇんだろ」
「…うん、まぁそうだね」

 そのままクロエが目を閉じるので「寝るな」と朔太郎は言うが、「悪いけど休憩」と突っぱねる。

「別にお前のせいじゃないから」
「…あっそ、さんきゅー興味ない」
「…ひねくれてる」
「まぁでもホントにありがとう。最後はちゃんと殺してね」

 …目覚めが悪い。

「無理」
「まぁそうだね、許されるもんじゃない」

 どう返せばいいか、いや、全ては綺麗事でしかない。
 在り来たりで舐め尽くした飴にうんざりするのは自分も同意だと朔太郎は考えた。しかし、陳腐で言えばこいつも、ただ生きているだけにすぎないはずだから。

 確かに飽きたし明日にでもパチパチした飴を買ってこようかとぼんやり考えた。良い加減甘ったるくて反吐が出る。

 …例えば自分の道徳や正義に歯が立たないのなら、それも仕方がないことだ。
 お偉いさんにはどうやら、何を殺してでも正しいはずのそれらがあるらしい。

 一生そんなものにはなれなくていいと自分はドロップアウトしただなんて、自己満足にすぎない。そんなもので埋まるのならいくらだって怠惰を愛せるはずだった。

 違う、これはそんな血反吐のようなものじゃない。

 ハッカは味気がないから好きだ。シンプルで、克つ、得体が知れない。ただ、甘い。

 いつか木っ端微塵にした答えを、柄になく朔太郎は考えた。寄り添える、追憶のうちに。それはちょっと、塩気のある味。

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