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「まあ同伴は結構ですけどね、信用に足りないし」
皮肉そうにクロエを眺めたカツマタが言う。
「そもそもじゃぁ捜索要請したそのお偉いさんはどうしたってんだよ」
「わからん」
「は?」
「混乱に乗じているが、クロエの存在は未だ…まぁ、捜索中とでもなってるよ」
しれっと言いながらタバコを咥える朔太郎の気はしれず「はぁ!?」とカツマタのクロエの見方が変わった。
「最近の流れだとこいつの存在を公表すればかなりのお偉いさんから身柄引き渡し要請され永遠に行方不明だ。そんな歯痒いことはない」
少しずつ理解したのかふと溜め息を吐いたカツマタは「割りにあってねぇじゃん…」と呆れる。
「だからまぁ、もしかするとこのめちゃくちゃな名簿くらいで丁度良いのかもな。だがそれは一向にテロ対策へ進まない」
「…やっぱり信用ならねぇよ」
「まぁな。
さてさて行くか。まぁ…まずは眺めてるよ」
タバコを消して飴を一握りした朔太郎は顎でくいっとカツマタを促す。
舌打ちをしたカツマタが「余計なことすんなよ」と仕方なさそうに吐いた。
「…で、お前は一体本当のところ何者なんだ、エタンじゃねぇんだな?」
「何に見える?」
そう言われれば全身を眺めるカツマタにしれっと「ナースでしょ、ナース」と、クロエは何処までもマイペースで最早イカれてるとしかカツマタには思えなかったが、朔太郎にはそれが微妙な愛想笑いに見えて仕方ない。
確かにこいつは少し変わっているが並みだというのを垣間見た気がする。
こうしてスポットライトを変えていかなければ芝居というものは全体像が捉えられない。
…だがこの視点はどうも、裏方側に立つという感覚に陥る、主役も事柄も未だ不在らしい。
「答える気がねぇなら俺としてはひとつだけだ。ヴィリバルトとお前は同じ行方不明者だな?一体あの基地はどうなってやがる。ヴィリバルトとお前の関係性は」
「わかれば苦労してないしこうなってないよ?ホントに。まぁ…俺もヴィリバルトも同じ生活をずっと繰り返してある日ああなった。
なんだっけサクちゃん、ちょっと前に言ってた呪い。虫をお碗に入れるとかいうやつ」
「あぁ、面白いこと言えばその呪術と同じ発音だが違う言葉が日本語にあるぞ、意味はLoneliness」
「…一匹残すんだっけ、だから?」
「語源は知らないけど呪術は中国のもので、日本は中国の影響を受けまくりでその術式は禁じられていたという歴史がある」
「…なんか深いね〜」
少し話が反れたがどうやら、この鉄面皮で無口なわりに口が悪い同郷が珍しく穏やかなような表情なことに、上手くやっているのかと理解すれば不思議なものだとカツマタには思えた。
確かに容疑者と、それを審判する者の間には少しの融解が必要なこともある。
えらく偏屈、いや、変人がそれを実行するにはこれ程歪んだ関係になるのかと、身震いがするようだ。果たしてどちらが生き残り、孤独なのだろうか。
本当の答えは同じ穴の狢でしかないくせにと歪曲してくるのだから、ハイリスク、見失いそうだと言及をやめた。
バカに引っ張られてはならないとカツマタが思い直した矢先に捜1部署に着く。
朔太郎とクロエはカツマタに少しだけ待たされたが、すぐに書類を持って何も言わずに歩き出すカツマタに着いていく。
取調室に着くまでにカツマタは一言、「サイバーに要請だっけか」と、先ほど朔太郎が渡した正しい名簿と偽物の名簿を眺めて聞いてきた。
「まぁ確かに大分食わされたな。通りで難航するわけだ」
「だろうな。
基礎知識としてヴィリバルトは何人をどの手口で」
朔太郎が言い終わる前にカツマタはばさっと資料を朔太郎へ横流す。が、「まだ開示すんな」と釘を刺してきた。
ざっと眺めていれば一見確かに無差別猟奇殺人でしかなかった。
しかしなるほど、情報開示して明らかになったのは過去に関わりがあった者が多い、というのがどうやらカツマタには掴めたようだ。
15人殺害。15人中3名は名簿で見たことのある名前、なによりインチキ名簿でヴィリバルトとすげ変わっていた「ディル・イザード」もいる。要するに死んでいるということらしい。
では何故ヴィリバルトはディルの名を使ったのか、あの名簿は警察関係者以外が知れるものじゃない。
そして当のディル(ヴィリバルトとなっている)の死体の損傷を見ると、他よりも更に凄惨で、顔面は判別不可能、しかし確実に致命的だろう、頸動脈と心臓は深い一撃がそれぞれあるにも関わらずにどうやら53ヶ所の刺し傷があるようだ。こいつにだけは異様なまでの執着が見える。
その他死体は意外にもそれほど損傷はなく鮮やかというべきか、例えば凶器はハンガー1本を首に巻いていたり、一発で首を折っていたりと軍人らしさが見える。
いずれにしても、銃器などでなく、直接なものなようだ。
気になる点は確かに、ディルとヴィリバルトの関係性だった。
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