1


 …最早、石塊と焼け野原だった。
 鉄屑、硝煙の臭さはないが、しかしどこか、朝の清々しさよりも埃臭い。
 アニシン第二基地。

 朔太郎は無言で手元の間取り図と見比べていた。

「……ねぇサクちゃん」
「なんだ」

 基地自体は約14,000平方センチメートルとすると、記憶違いでなければ日本の神奈川、東京辺りの米軍基地と同じくらいか。
 実際目の当たりにするとこんな広さか。東京ドームが確か47,000くらいだったか、1/3か。東京ドーム1/3個分。やはりあの例えはピンと来ないものだな。

 一人で考えていると、「ねぇ」と、再びクロエに呼ばれてしまった。
 心なしか切迫やら何やら、とにかく余裕もない微妙な声帯の震えを感じる。
 素直に「あぁ悪い」と、意識は紙からクロエに移る。

 クロエはしゃがみこんでいた。

「……まだ7時なんだけど」
「始業前じゃないとな」
「なんで来たの」
「性だ」

 刑事の。
 …だなんて、自分は今やその位置にいないが。

「性ねぇ、帰りたいけど…」

 諦め、察したような声色に「あぁそうだな」と、朔太郎は資料を一枚めくった。

「いくつか質問だが、資料には発火原が厨房とある。調理時の不処理となってるが……現場写真、そして今肉眼で目にしてもこの調書事態にはまぁ、無理はない…が、これは最早“全壊”に近いレベルだよなぁ」
「その辺はその日、俺はまぁ…寝てないけど寝てたから出火原因なんてもんは知らないよ?でも実際そうならこれだけの破損具合、まぁまず余程ガスが充満していない限りは無理だし…タバコ吸うやつくらいは多分いたからねぇ、」
「ん、だよな」
「だとしてもまぁ…俺は厨房から離れた…うーん、どの辺かっていうとここまでぶっ壊れてると感覚がわからないけれども確かなのは、えっと確か火元は武器庫と正反対に置かれていたから…うーん真ん中くらいかな。構造上もあるけどガス臭さはなかったよってのも、」
「ああなんとなくわかる。テトリスのT字みたいな形だな」
「……あはは!わかりやすいね。そうそう。縦棒あたりが宿舎」
「ふん……」
「………まぁ、変に気を使ってるならいいよ。持ってきたでしょ拳銃。建物あたりまで行こうか」

 よっこらしょと立ち上がったクロエは朔太郎の手元を覗き「ふうん」と言ってはすたすた歩き始めた。

 朝早くに叩き起こし急いたため、本日クロエはジーパンにパーカーである。どうやらちゃんと部屋着以外の、普通の服も買っていたのだという事実が喜ばしいのか、どこの金だというのか、複雑だ。

 ちゃんと、腰にはホルスターも掛かっている。

 ぼんやり見回しながら前を歩くクロエは多分無表情なのだが、朔太郎は呼んで、振り向き様に飴を投げた。

「…桃」

 確認して口に放ったクロエは「タバコはくんないの?」と口をモゴモゴさせた。

「DNAを新たに残すのは」
「ジャスt、ジョギ、」
「…で、まぁいいやもう一個。
 お前、今も、そして先日も、夜中だったと言ってたよな」
「フンっ、そぅ、そ、」

 喋りにくそうに飴を頬へ追いやったクロエは「That's rrright?(そうだよ?)」と漸く辛うじて喋れたようだった。

「…考えによっては2パターンあると思う。夜から夜中にかけてガス漏れすれば充分な量が溜まるから、全壊に至る、少なくとも厨房やらがある棟は。
 それにより隣というか後ろというか、にある寮も壊れるくらいの爆発だった」
「にしては、そっちは木っ端微塵でもないね」
「それだけでも勿論人為的な物だろうが、単純な話からすれば、武器庫は言うなら“全焼”だけど形がまだ残っているわけだし、現場検証から言えば、火災から武器庫に着火し全壊となっているわけで…」
「うーん、なるほど…」
「……武器庫から手榴弾でもなんでも持ち出してぶち込めるとして。しかし、ぶっ飛び具合を見たとき、これはいけそうだが、投げた本人だ。距離を考えると、こいつは木っ端微塵になるはずだよな」
「そうだね。被害のない充分な距離を取ったら、多分メジャーのピッチャーでも空中爆破するかな。ただそれは外からぶっ壊した前提だよね」
「…ん、まぁ確かに」
「違和感はあるよね。それはわかるけど事故じゃなかったの?」
「曖昧なまま終わっているから事故なんだ、多分。そこは資料を眺めたって「終了」となっているからには、どういう疑いがあったかは読めない」
「んー、まぁそうだよね、これじゃ無理だ」

 ふむ、と朔太郎は一息吐いた。

「…中から破壊したという線はそう言えば考えられてないな。なんせ、まぁそう、酔狂な話だ。
 だが、例えばだ。日本人の戦争への精神には「自爆」というのがある」
「あり得ない話じゃないけど、あっぱらぱーばかりだったし」
「…まぁ、」
「時限爆弾の方がまだ現実的だね」

 …なるほど。確かに、そう。

「…それならお前らが生きているのも頷ける」
「そこの疑問を解決するなら、解決するかはわからないけど…俺は二階の部屋だったんだよ。上官が一階だったかな。何かあったら先に逃げられるでしょ?
 まぁその分こうやって火災や水害なんかには弱いというのが見えたわけだけど、彼らは一応優秀だという前提ね。
 …うーんとね、思い出せない…ただ、いつも通りな感じで…地震かなんかだと思った」

 地震。

- 39 -

*前次#


ページ: