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なるほど、当たり前に造りは頑丈だ。
「下を爆破したという可能性か…」
しかし、全壊なのだ。
話しているうちに一応は、建物があった位置に辿り着いた。
例えばこの頑丈な建物を飛ばす爆弾が設置されたとすれば、もっての他生存者の存在はやはり疑問でしかない。
「お前は起きていたから逃げ延びたのか」
「いや、」
だが、クロエは黙ってまたその場に座り込んだ。
確かに、精神的なダメージはあるだろう。
「……寧ろ生きているわけがなかった。俺は拘束されていたからね」
「拘束?」
「あんま話したくない。所謂苛められっ子だったわけ」
……なるほど。節々に感じてはいたけども。
「…こんな時に感情論というか、気持ちを話してごめんなんだけども、俺はまず見た目からして差別対象で、加えて責任者のカフカが入隊させたとくればそれだけで…まぁさ。しかも、15年引きこもりやってりゃ当たり前に遣えなくて」
「…なんだったんだろうなってとこか」
「……うん、まぁそう…」
「…まぁそこは強運だったとして。
あれが武器庫か?」
何かを思う間もなく、そこから見える、屋根が吹き飛んで“半壊”した倉庫を見つめた朔太郎は言った。
「多分そう」と曖昧にクロエが返すくらいには、場所は崩れている。
「…しかし…」
疑問そうに呟いた朔太郎はそちらへ歩いて行く。
クロエは嫌が応にも思い出している。
どうやって助かったか、よりも、疲れきっていた日々に隊員達はまず自分を置いて逃げた。
ベッドに繋がれた手錠に、あのとき逃げようとしたのか、いや、もう良いやとダルかったのか。それからは衝撃で気絶したのだが………。
「あ、」
思い出した。
「サクちゃん」
武器庫には確かに、いまの彼の疑問に直結するだろう、黒い跡が残っているのだ。
「サクちゃん。あのさ、」
「………ん?」
「あの日確か、ガス臭さはあったか覚えてない。けど、火災でみんな逃げたんだよ」
「……火災、」
「そう。
俺が逃げようと足掻く時間はあった。途中で地震があって、起きてみたら曇り空の下だったわけ」
「…んー、なるほど」
つまり寮舎は後に爆破された、一階が。ということだろうか。
朔太郎は武器庫の、黒い焼け跡を見て考える。下から火が上がったのは見える。
しかしこうして「火事だ」と裏付ける黒変が残っているのは、確かにここだけなのだ。
一年もすれば例えば、ガソリンの臭いなどはもう残っていないが、なるほど、確かにこの調書に「おかしな点」はないのだ。これならば「爆発事故」が適当だ。
歩いてきたクロエに「火事だよな、これは」と、黒変を促してみた。
「…うん」
「武器をしこたま奪った後に全てを壊した、というのは辻褄が合うが、わざわざ証拠を上塗りする意味がないな。事故に見立てたのがわからない。後にDOがテロ行為を匂わせるなら尚更だ」
「そうだね」
「しかし単純だ。隠す、というのは物があるからに他ならない」
「…うん」
「……さぁ、どの段階でこのサイコ野郎は思い付いたのかな。調書ではつまり「火の不始末の爆発事故」となっている…、」
ふう、息を吐いて今度は朔太郎が座り込んだ。
側にクロエがしゃがんだので、今度はタバコを一本渡す。自分はタバコを吹かした。
飴も残っているクロエはただそれを眺める。
「…新しいDNAは?」
「………」
眺めた朔太郎はクロエにちょいちょい、と指で合図した。だが、「まだ飴ある」と断られる。
「燃やして証拠隠滅するから関係ない」
「最初に言ってよケチ。つまりもう終了?」
「そうだな。俺としては出来上がったけど。武器庫に着火は無理だと」
「…まあねぇ…」
「中もすっからかんにしか見えないし、多分。おおよそ外れてないだろうが憶測で資料が書けりゃ苦労しない。現場員を疑ったには疑ったし詰めが甘いとは思うが、仕方ないと捉えた。
まぁ追求しなかったのが上からの何かなのか、そいつらの性分なのかも不明だ」
ふと俯いたままタバコを咥えたクロエを見て、再びちょいちょいと合図する。
着火に吹かし、それから口を離して上下にちょんちょんと、煙の輪を量産し始めたクロエを好きにさせることにした。
「……怖かったか」
「……わかんない」
「変だな、俺がライターを擦るのはいいのに」
「…へぇ、気付いたんだ。俺はまぁ、火に関しては恐怖を抱く程覚えてないし、」
「地震って言ったな」
「あぁ、そうそう。多分。今納得した、床が抜けたんだね」
「わからんなそこも。お前吹っ飛んだだろうしな」
「俺が起きたの丁度…どの辺かなぁ、みんな寝転がってたのは確かなんだけどね。手錠は外れてたけど、多分ヴィリバルトが外したのかなぁ」
「同室だったって言ってたか」
「そう、まぁあいつは大抵部屋にいないけど、入ってこれなかったんだよ、多分」
想像がつかない。だが、考えればわかりそうだ。
「…関与の可能性もなきにしもあらず、というのが収穫かな。
どのみちヤツに関して、もう一件午後に行こうかと思ってた」
「うわぁ、病院?早起きの意味ないじゃん」
「違う、昨日の午後のと今日の午前の分を片付けてから行くんだよ」
「…朝イチ率と終業直前率高いもんねー。それ激務じゃん、明日も」
「うん、もう最悪泊まる」
朔太郎はぼんやりしていた。
朔太郎が何を考えているのか、クロエには、やはり読めない。
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