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 しばらくすればカラカラ、と、風呂場の扉が折り畳まれる音、もぞもぞとする音がして。

 日向お手製の青だか緑だか微妙な色合いの、しかしちゃんと編み込まれたフード付きのニットスカートを着た常磐葵が洗面所の扉を開けた。

 ショートヘアーの可愛らしい子だなと切山は思った。

 常磐葵は少し恥ずかしそうに俯いた。
切山は常磐葵に「気分は悪くない?」と聞いてみた。頷いた彼女は萌え袖でスカートの裾を軽く握る。やはり、少し大きいのか、しかし9歳の女の子には最適な肩幅だ。

 一体日向はなんの為に作ったんだろう、趣味にしては微妙だと切山は思う。というか、あのクールさでこれを編んだ姿が想像出来ないでいるが。

 二人でリビングに戻れば「長くないかお前」と、姿が見えないが日向の声がする。ついで、間貴志がソファに移動していた。

「ソウちゃんうどん」
「俺はうどんじゃない。日本語がおかしいぞ夏音」
「いいから」

 ソファに話し掛ける間貴志に、日向がそこに寝転がっているのかと悟る。
案の定、むっくりと日向が起き上がった。そして立ち上がり、切山と常磐葵を見て、更に常磐葵をじっと眺めてから、「ソファに座っとけ」とぶっきらぼうに言ってキッチンに立った。

 何、いまの子供に対するガン飛ばし方。

 間貴志がふと二人を見て、「あぁ、」と言って促しニヤニヤした。

「似合ってんじゃんソウちゃんお手製」

 ソファを見れば編み物、所謂カギ編みと言われるものが間貴志の横にぶん投がっていた。なるほど、常磐葵を見て出来に満足したときの表情、あれかと、切山には度肝を抜かれる思いだった。

 3人掛けくらいのソファ。寝転がるためなのか。余裕があるので切山は間貴志に編み物を渡し、常磐葵の為に真ん中を開けて奥に座ったが、常磐葵は立ち尽くし、やはり俯いて裾を握っている。

 やっぱ、すーすーすんのかなと切山は思ったが、間貴志が「どしたの?」と疑問そう。

「ズボン貸す?まぁないんだけど、ないよねえソウちゃん」
「あ?子供用?ねぇな」
「だよね。大きくても良い?」

 常磐葵が俯いて首を振る。流石に可哀想になってきたかなと思い、「あの、間貴志さん、」と切山が声を掛ければ、聞く間もなく間貴志がふと、常磐葵の顔に両手を伸ばして顔を眺めた。

 一瞬ぴくっと、ビックリしている常磐葵に、「間貴志さん、」と切山がもう一度声を掛ければ一言、

「あんた、もしかしてさ、」

 と言った。見つめ合ってすぐ、間貴志は常磐葵に先の、窓際のパソコンを指差した。
 両者見つめ合って間貴志が頷けば、腰を庇いながら立ち上がり、常磐葵をパソコンに促した。

 恐る恐る常磐葵がパソコンの前に立てばまた、どうぞ、と掌でキーボードを促す間貴志。

 ゆっくりと常磐葵はキーボードを叩いた。

 画面を見て間貴志はキッチンの日向を見て「ソウちゃん」と声を掛ける。黙って二人を眺めていた日向は「なんだ」と答えた。

「この子、女の子だったわ」

 言ってから間貴志はまた常磐葵を見つめ、「話したいこと、書いて」と。

 話せなかったのか。
 なるほど、確かに声を一度も聞いていなかった。

 常磐葵がゆっくりとキーボードを打てばそのうちに温めたうどんが出来たらしい。まずは切山の前に置かれる。

 味噌だった。ネギしか入っていない。

 それから日向は切山の隣に、味噌汁茶碗に入れたうどんを二杯置き、黙って広告の裏面とペンを用意した。

「まずは食ったら?」

 と二人に促す。
 間貴志と常磐葵がテーブルとソファの間に座ると、「食いながらでいいから」と、自分はソファに寝転び、三人が夕飯を食う間、またカギ編みをすることにしたらしい。

 「いただきます」と言って切山はうどんを一口食ってから「ぶはっ、」と吹き出した。

 味が濃かった。

 「やっぱな」と言いながら片膝を立てて食い始めた間貴志。この二人、正座し手を合わせて何も言わずに何事もなさそうにうどんを食べ始めた常磐葵とは大違いだ。

「…やっぱ濃いの?」

 カギ編みの手を止め切山に言う日向の方を振り返れば正直切山は不思議な気分。

「ソウちゃん料理は下手なんだよキリヤマくん」
「は、あ」
「いつもは俺が作るんだけどさぁ、今日はちょっと無理だわっつったら作ってくれたんだけど後悔中。ソウちゃん、逆に胃にくるよマジ」
「…体力つくだろ」
「味噌だけじゃぁなぁ…。俺今ボディービルダーとかのゴリラ人種になった気分」
「アメリカのが酷いだろ」
「ここ日本だよソウちゃん。まぁありがとうだけどさ」
「…あの、一つ良いですか。
 何故“ソウちゃん”なんですか」
「え?」
「こいつ会ってしょっぱな読み間違ったんだよ。返って何故そっちの読みがわかるか俺も疑問だわ」
「はぁ…」

 聞いた自分も悪いが。
 甚だどうでもいい内容だった。そしてお行儀良くずっとうどんを食べ続ける常磐葵、大丈夫だろうかと心配になった。

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