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「そんなくだらねぇ人生、殺してやるよ」

 男が笑った。
 くだらねぇ人生。

 確かに、間違いでない。
 しかし死にたくはない。

「…死にたくなんてない」
「じゃ、おさらばしようぜ。
死者へのメメントモリ、しかしくだらねぇな。んなことする価値がないなお前には」

 一発、男は足元に銃弾を放った。昇る煙はまるでクラゲのようにふわっと浮いた。

「愛憎なんて、そんなもんだ。泥酔する。お前が今日殺したあのオカマだってそうだ。自殺の理由がくだらねぇが、恨まれていたから殺した 」
「え、」
「二人に依頼を受けた。大平自身と大平の愛人にな。殺してくれと頼まれない限り、殺しはしない」
「あんた、」
「“アルカナ”。まぁ、その筋の名だな。お前は何が良い?」
「え?」
「拾ってやるよ」

 それはつまり…。

「俺が、殺し屋に?」
「ああ」

 なるほどな。
 それしか生き残るすべは無さそうだ。

「…切山でいいです」

 決まった。
 男は漸く降り立ち、自分の前まで歩いてきていう、「日向ひゅうがみなとだ」と、肩を叩いてすれ違った。

「行くぞ切山。俺は今漸く仕事を終えた。一杯付き合え」

 と。
 唖然としたまま切山は「あ、はい」と、元来の流されやすさで、鼻唄を歌い始めた日向湊の背に、着いて行ってしまうのだった。

 そして、連れて行かれた先の、いかにもレトロなバーで。

「カシスソーダ」

 入った瞬間にそれだけ言ってカウンター席に座る日向に、「あら、ミナトちゃん」と。
 明らかなるカマ口調な、金の短髪で前髪だけ長いスタイリッシュなバーテンダー、恐らくは店主だろう男がにたにたと、日向と切山にカシスソーダを出してきた。

「ミナトちゃん、今回はどうしたの?」

 店主はじろじろと切山を見つめ日向に、「こんなのタイプだったのミナトちゃん」と言った。

「違う。カシスソーダ」
「何ぃ、冗談に付き合ってよね全くツレナイ男」

 カシスソーダならそこにあるじゃん、と、タバコを点けた日向に切山は視線を寄越した。

 やはり結婚指輪の位置にシルバーが嵌められていることに違和感を覚えた。殺し屋、妻がいるのか。

 店主はカウンターから何か箱を出し、「はい、どーぞ」と日向に渡した。

 その箱の蓋を日向が開ける。
 ヤクザですら知らない、P226とボディにロゴが入ったシルバーの拳銃が入っていた。

 日向のよりは小さめでなんとなく軽そうだと感じたが日向が「ちっ、」と舌打ちをした。

「そんなに怒らないでよミナトちゃん」
「…こんなぶっ壊れそうなもん誰が使うんだよ」
「カノンちゃんが使ったら良いじゃない」
「あいつはそういうことしないんだよ」
「護身用にさぁ、あんただっていつ殺されるか」
「大丈夫です、心配無用」

 それからふと、
 日向と店主にチラッと切山は見られた。
思わず「えっ、」と漏らす。

「あらぁ、あんたその筋じゃないのぉ?」
「は?」
「どの筋でもねぇけどそうだな。所詮裏上がりだ。お前にやるよ。
ソルティドッグは?」
「あるわよぅ、パラベラムが」
「じゃ俺のもついでに」

 どうやらカシスソーダとソルティドッグ。
 それ系の言葉らしいと切山は理解した。
しかし聞いたことがない。ヤクザでも拳銃はやり取りするが、そんなに洒落ていなかったが。

「あ、筋じゃないなら言っとくわね。
カシスソーダは銃、ソルティドッグは弾。ダイキリがスピードローダー、ジンバックがガスってこの人の合図」
「人によって違うんですか?」
「ウチはね。バレたらまずいから」
「なるほど…」

 しかし。

「何故カシスソーダなんですか?」
「血の色だから」
「はぁ…」

 読めない。
 丸っきりこの日向湊が読めない。

 しかしまぁ。
 日向が頼んだ通り、ソルティドッグと9ミリパラベラムが入った紙袋が渡された。

 バーの名前は“MEMENTOMORI”。なるほど、少し見えた。

 切山は元来流されやすく真面目だが、だからこそ空気を取得する長所があった。

 一長一短と言うヤツだった。

「じゃ、お代ね」
「はいはい…」

 3本目のタバコに火をつけ、日向は今日の仕事を語り始めたのだった。

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