3
僕は彼女の前にしゃがみ、彼女の右足首に引っ掛かる、くしゃくしゃになった下着をつまみ、左足首に触れる。
彼女は後がないのに後退るので、僕はその力が抜けかけた足を少し浮かせてその下着を左足に潜らせ、出来るだけ何も考えないようにして、履かせようとしてみる。
彼女はなされるがまま、お尻をあげてくれるも、まだ驚いていて。
僕は手を差し伸べて、「行こう、ユカ」と声を掛ければ、戸惑いながらもユカはその小さく細い手を乗せてくれた。
このままユカを連れ、ボランティア団体に戻ろうか、
実は、その考えは僕にはなかった。
倒れたままの男を避けるように入り口まで二人で歩く。
さて。
僕ら、何処に向かえばいいんだ。
やっと会えたんだ。二人だけの世界に行きたいじゃないか。
外に出れば太陽が照らしていて。
振り向いた君は。
そう、太陽に焼かれた羽。小さなこの手を僕はもう、離したくない。
僕の中の君はまだ4歳で、僕はまだ10歳のままでいる。
君はあの日、金髪で君に良く似た君の母親の手を握っていた。あの頃の君の母には、似ていないのかもしれないな。
時は、流れたんだろう。その白い肌に隠された真紅と同じだけ。
僕は一人の白人男性を殺した。君を守るには充分な理由だった。
「…Qui?」
と僕に訪ねる君は無垢な少女の瞳だった。それだけで、美しいから。
「僕は恵、荒神恵だよ。君が、4歳の時に出会った日本人だ」
彼女は俯いてからまた訪ねてくる。「私は誰なの?」と。
酷い目に遇ったんだ僕の天使はと、胸が痛くなった。きりきり、きりきりと。
「君はユカだ」
ユカは少し考えるように僕を少し見上げ、譫言のように「そうね」と言った。
「私はユカ」
噛み締めるように言う君は、汚れていた。
何処か、風呂のある場所へ行こうか。
僕らはどこで暮らせるのだろうか。
しかし。
数えたら君は、20代の女性じゃないかと気が付いた。
寒そうに風へ目を凝らした君の肩に、僕は着ていたミリタリージャケットを掛ける。ユカは、温もりを確かめるようにジャケットの、お腹当たりを掴んで身を寄せていた。
フランスの夕方は寒かった。
僕らは何処へ向かえばいいんだ。
もう少し先の郊外へ出たらいいのか。
果たして僕らは受け入れてもらえるだろうか。
暗くなる前には何処か、建物に入ろう。お腹もすいただろう。君は痩せこけている。
少し歩いていればユカは、「何処へ往くの」と僕に訪ねる。
「少し先の未来へ行きたいんだ」
4歳の君、10歳の僕。
僕は孤独だった。孤児のように、餓えていたんだ。
ユカはそれから僕を、綺麗な硝子玉に閉じ込めるように、瞬きをする。
生きているのだと僕は初めて潤いを得た気がした。
- 4 -
*前次#
ページ: