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フロントでは相変わらず無愛想で、しかし僕とユカを見ては支配人が怪訝な顔をしたのを最後にして出て行く。
雨は止んでいた。もう僕たちは自由なんだと感じた。
僕に抱えられたユカも、小さな呼吸のように声なく擽るように、僕の肩で笑った。その額にキスをすれば、少し汗臭かった。
サントメールの街を歩いていれば、「兄弟かい」「まだ幼いのにねぇ」と、声を掛けてくるのか、噂なのかわからない人達に出会った。なんなら、道の脇から金を渡してくる男もいた。
ここはそういう街だ。治安が悪い。目を合わせては面倒だ。
さっさとこの街を出て行こうと、気持ちは急いて歩いていく。
少し疲れたなと思いユカを見れば、ぐっすりと僕の肩で寝ていた。
だが、流石に僕は男でも、そろそろ休みたいと感じていた。あとどれくらいで隣の街、カレーかはわからないけれど、確か、カレーには船があった。
「おい、あんた」
不意に後ろから、男の声がした。
ユカがピクッとして起きてしまった。少し乗り出すように振り向いたユカに、仕方なく僕はユカを降ろして手だけを繋いだ。
男は、ベルトに新聞を挟み、ショルダーバッグ一つのラフな格好をした、不健康そうな若者だった。目の下に少し隈もあるし、充血している。髪だって、無造作にボサボサだった。
雰囲気で、やはりまともな奴ではないだろうと感じた。
にやけ面で僕たちにゆっくり近付いてくる男に、僕はユカを然り気無く後ろに隠すようにして男と対峙した。
男は、襟がくたびれた、何色だかわからないシャツの胸ポケットからくしゃくしゃのタバコを取り出して噛んだ。火をゆっくりと灯して一息。
それからゆったりと、少しの嘲笑を称えたように僕に言う。
「ベテューヌの教会で、男が惨殺されたってな」
あの白人だろうか。
だったらどうしてあの、廃墟の教会での出来事を、この男は知っているのだろうか。
僕が答えないでいれば男は、「ニュース、見た?」と、挟んでいたわりと新しそうな新聞を取り出して翳す。
まさかと思うが、あれが露呈したのだろうか。
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