無色透明色彩


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程よく酔っぱらった頃にお開きとなった。二人とも明日は休みらしい。

「明日はどこ?」
「国技館です」
「そっか」
「ピアノくん今日はよかったよー!肺炎気を付けてね」
「はいはい」

いつの間にか私はなんか、宥め役になった気がする。

帰路の途中で自販機と灰皿を見つけると、二人はタバコを吸い始めた。

「君はあんまり吸わない方がいいんだよ?」
「うるさいねぇ。仕事の時はあんまり吸わないんだからいいでしょ」
「そのまま禁煙したらいいのに」
「お前に言われたくないよ、クソ医者」
「まぁいいけどさ」

ふとそんなとき、ケータイが鳴った。葛西さんのようだ。画面を見ると、「なんだよこんな時間に」

と、不機嫌そうに火を消して、電話に出た。

大変流暢な英語で話している。そしてふらっと、私達から離れ、しっしと追い払うように手で合図された。これは帰れということだろうか。

「多分、仕事の電話だね。櫻井さん明日もあるし、先に帰って大丈夫だよ。俺は鶇ちゃんと帰る」
「そうですか」
「櫻井さん」
「はい?」
「鶇ちゃんのこと取らないでね」

そう、底冷えするような静かな声色で喜多先生が言ったので思わず目を合わせると、喜多先生は物凄く鋭く冷たい目で私を見ていた。

「は、はい?」

意味がわからない。しかし喜多先生はすぐにまた紳士笑顔に戻り、「鶇ちゃんはちょっとしつこいから」と言った。

「あぁ見えてすぐパンクしちゃうしね。彼は色々世話が焼ける」

いや、話が噛み合ってない。

「俺にとって彼は最高の芸術品だ。それにはやっぱりメンテナンスも必要だよね」

なんだろう、この人。

酔っぱらってるのかいないのか。取り敢えずサイコパスかもしれないと思い始めた。

そのうち葛西さんは戻ってきたが、イライラしたように喜多先生にケータイを渡した。

「ブラウン。今打ち合わせしてるって言ってんだけど聞かないから変わって」

仕方なさそうに喜多先生は受け取り、その場で、彼もまた流暢な英語で会話をし始めた。

これはおいとましたほうがよさそうだ。そう思い、軽く頭を下げて帰ることにした。

彼らは不思議だ。まぁあまり関わることもないだろうしこれでいいやとも思った。

まだこの時は、私は何も知らないままで、これから彼らとそれなりの付き合いをするなんて思っても見なかった。

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