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 ふと気付いた。そうか、金創医か、と。

 幹斎と藤嶋の繋がりはいまいち見えないが、どうやらそれは昔からありそうで、藤嶋が薬に詳しい(これは恐らく興味だとは思うが)ので、そういった関係かと思っていたが。

 もし、戦国の世に重宝された金創医の家系であったとしたなら、徴兵も納得がいく。坊主の副業としても最適だろう。

 だとすれば、今あの坊主は薬師として働いているのだろうか。
 そうなれば確かに、賊と化した長州兵に手を貸している。下手すれば罰則というのも納得だ。

 ならば…果たして上手く取り入ることは出来ないものなのだろうか。それこそ壬生浪だっていい。
 土方の体制や屯所の雰囲気がそれを許すか…わからぬものではあるが。

 こんな杞憂を抱えている朱鷺貴にすら、一言もないあの坊主。全て、世界感が狭いように翡翠には思えた。

 なるほど、これが「世間知らず」なのか。
 いや、きっとあの坊主は、望んで足を踏み入れたのだ。

 考え事をしながら灰から線香を捨てていると、「おい、お前」と声が掛かる。
 壮士だった。

「あ、どーも。昨晩は」
「傷は大事ないんかえ」

 …忘れていたな。このちまちました仕事で。

「すんませんねお騒がせしてしまって。無理のない仕事をと言いつけられました」
「…聞いたか?朱鷺貴から」

 …それは、寺のことだろうか。

「寺のことですか?」
「まぁ…」

 はぁ、と溜め息を吐いた壮士は隣に座る。
 庭に短い線香を捨てていたのだが、どうやら叱らないようだ。

「…一応、私は新派としてある程度持って行こうかいう話だが」
「…はぁ、」

 そうなのか。
 そんなに仲が悪いのか。
 …いや、納得してそうなったのなら、却って逆説か。

「そうやったんですか」
「急に言い出して売り言葉に買い言葉と…。全くアレは昔から破天荒な」
「………」

 まぁ、確かにそうなるな。
 でも、そんなに悪いことでもない。ただ、まわりがこうなってしまうのもわかる気がする。

「…わからんくもないけどなぁ。仕方のないやつだ。決めたら絶対に動かんし」
「確かに…」
「実感もなかったな。常々アレに任せきりな面もあるけどそもそも話しもせんから、」
「まぁ、確かにそうやねぇ。あん人、話上手ないから」
「…何を考えてるんか、全くと思っとった。あいつはどうでもええんやろうと。しかし、こんな形になってみれば、このどうでも良さがええんかもしれんし」
「受け身という割には、気ぃも強いですしね」
「お前の緩さもええんかもしれんが、お前、これからどないする気やね?」

 …これから?

「…考えてもいなかったですね。そういえば」
「まぁ、怪我もあったし」
「いっそ抱かれちまった方がわかりやすいと思いますわ、男なんて」

 ふいにそう言った翡翠に一度壮士は黙る。
 そして「そうかお前はそうだよな」という雰囲気を醸し出しつつ「アホかいきなり」と叱咤してきた。

「はぁ?」
「いやはやきっと壮士殿もよくわからんのかなと」
「…まぁそうや、昔から」
「例えば、やけど。人間柔らかい部分ってのがあるもんやろ?
 そこに触れたいかどうか、触れられたいかどうか。一度寝ればその感触は味わえる。
 大体は夫婦でしか知らんことや、特別な感情もありましょうが、わてみたいな男はね、それは「知った気になるだけ」と思っとるんです。だから、深くもなくけど、浅くもない、楽やて考える」
「……禅問答みたいやな」
「人間そんなもんでしょう。
 せやから切り捨てるのは簡単なんですよ…却ってね、諦めがつく、いうんやろか。
 これを一種片想いかといえば、そんでも探り合うてる、なのに…知りたくないような、知られたくないようなと…なんて言うんやろ、その度に傷が増える気がして」
「傷…か」
「わてはあん人といるとたまに、傷付いてると気付きますよ。これは柔らかい部分で、なのにそこへ触れたのは相手ではないんです」
「…なるほど、厄介なものだな」
「傷付けたくも傷付きたくもないはずなんにね。こっちは楽な道ではないんです」
「…確かに、そんならサクッといってしまった方が楽やけど」
「そうですね、えらく無責任で」
「夜這いをかけたらええんやないの?」

 今度は翡翠が黙り、つい「は?」となってしまった。

「夜這い…!?」
「声がデカイわ」
「いや、あんさん坊主や」
「せやかて武将はそうしたもんやで。坊主にもそうだし。何せお前は男娼やろ?」
「はいはいはいはい、いや、またそう…うーん…確かにわての言うことは訳がわからんかったかもしれへんけど、言われますし」
「アレに足りないのは前向きな度胸やで」
「…そうかなぁ?」

 まぁ確かに、楽天家なわりに楽観はしていない人だが。

「…あの手の籠り癖は根が暗いんや、昔からそうで」
「うーん、」
「輪廻転生一周回って、はい。あいつは昔も1年ほど外にすら出なかった」
「…え、」
「知らんのか?あれはそう言う男ですよ」

 …節々に、そういえばそんなことを言っていた気がするような…いつだったかは、忘れたが。

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