5
「試供品ですかぁ」
「…よろしかったら、…お兄さんもいかがですか?」
由紀子は漸く、といった心境で「一杯くれるって…」と、なんとなく気まずそうにクーポンを修介に渡した。
「…へぇ、あぁ、紅茶なの。珍しい感じなんですかね?」
「はい、是非感想をと思いまし」
「二人とも疲れた?ごめんな。休むかここで。他食いたいもんあれば普通に出すよ」
「え、」
なんとなく男の間のピリピリを感じた由紀子が気後れしている。のを、察した修介はふと笑い、「申し訳ないけど」と由紀子を撫で「そろそろ時間かもしんない」と優しく言い掛けてくれた。
「すみませんがまた今度ね」
「あ、では…」
続けようとする男を無視し、「待たせて悪かった」と由紀子も亜里沙も肩をポンポンした修介の自然な気遣いに、その場を去ることが出来た。
「今時いるんだな、ナンパって。確かにあれは着いて行きそうだけど」
こそっと言った修介に「ナンパ?」と亜里沙が顔をあげる。
「…わっかんねぇけど、多分窓際の、なんか浮いてるおっさんとはグルだと思うぞ、あれ」
「……あ、あの人…なんか……なんとなく変だと思った」
「こっちガン見だったかんなー。ホント待たせてごめん。お詫びに違うとこどう?」
「いや…大丈」
「…瀬戸さん凄いですね…!」
亜里沙は感心したように声をあげた。
「ん?そう?」
「あたしよく…ああいう期間限定の、やっちゃう派…」
「まぁ、試供品云々はさておいて、ただ単に連れの女の子が男に連れられてたからだよ。今時か!てちょっと面食らったけどね。
上手いなぁ、ああいうの。危ないかもしんないからまぁ、頭に入れといた方がいいよ、女の子なんだし。
大体なぁ、十代の女の子に声掛けるか?なかなかこのアイドルタイム、曜日と…難しいぞ普通、夏休みを考慮しても。お前らしかあの場に女子いねぇし。ターゲットもあの店どー考えても女子高生じゃねぇだろおっさんしかいなかったぞ。主婦の方がまだあり得るな、俺ならね」
「え、」
「……しゅうちゃん本業は営業みたいなの」
「うわ…え、凄っ!ほぼ一瞬だったのに!」
「いやいやまぁ基本基本。あんなんで引っ掛かんの多分夏休みの世間知らずな学生、て考えると余程やる気ねーのかセンスねーのか、いや、やっぱどー考えてもナンパっつーか勧誘だろうな、やべぇ感じの」
ハルに言ったら殺されるわ…とぼやいた修介に「すみません瀬戸さん…」と亜里沙は素直に謝った。
「あんま考えてなかったです」
「んーまぁ仕方ねえよ、そういうの狙ってるだろうしね。社会勉強ということで………」
ふと修介は黙り、声を潜めて「…ちょっと予定変更すっか」と急に雰囲気を変えた。
「ん?ハルちゃんは?」
先程はああ言っていたが、多分本当はまだ掛かるだろう。
「…メールしとくわ。由紀子も亜里沙ちゃんも後ろ見んなよ。
ちょっと雰囲気悪いなとは思ったが、粘着されてそうだわ」
そう言われると「え!」と早速見そうになったが「ダメだっつーの」と制されてしまった。
「…外に出ん方がいいかなぁ」
「…瀬戸さん殺し屋かなんかですか」
「面白いこと言うなぁ。ありゃあハルに引き取って貰お。うーんどうすっかな」
「…そんなもんなの?」
「余程なんじゃね?ゲーセン行きたかったなぁ。あーうん…マジでカフェ他にあったっけ」
「…スタバ?下に」
「基本持ち帰りだもんな…いっそタバコ吸いに外出たいしなんか、いっか」
そう言うとくるっとまた歩いてきた道を向いた修介が「確かあっちだわ」と言うのになるほど、窓際にいた人ともう一人また違う、ちゃらちゃらじゃらじゃらしてそうな若い男がいた。
異風だ、なんでだろ、その辺に居そうではあるのになと違和感が拭えないのは、話からくる先入観なのか…。
ただ亜里沙は、昔から良くも悪くも素直なのだ、反射神経のように「うわっ」と声を出してしまっていた。
…確かにセンスがないの、かも?
がっつりと目が合ってしまったのも構わず、修介は「悪いな」とヘコヘコしながら亜里沙の服の裾を引っ張って「コラ」という合図をしている。
それにしゅんとした亜里沙だったが、男二人とすれ違いざま明らかに舌打ちをされた。
「三下かな、あれ」と小さく言ったがそのまま無言の修介が何を考えているかはわからない。
タバコと言いつつ室内にあった喫煙ルームは通過し、「外の行くけど」と自然だった。
「あー、亜里沙ちゃんは煙大丈夫な人?」
「え?」
「外の方が近くで吸えんだよね」
「…なるほど…」
両親共にタバコを吸わない。
から、なんとも言えないが「わかりました」と亜里沙は従ったようだった。
「ついでにそのまま帰ろ。
そーすっとスーパーだな。二人とも夕飯食ってきな、急遽」
「あ、そうだね」
「ハルへのお詫びはカレーの下拵えにするわ…付き合わせて悪いけど俺ってなんでこういうの引いちゃうんだろ…」
ガチャでは引かねぇのに、と呟く最中、亜里沙が「お母さんにメールしとくよお姉ちゃん」と団結した。
「そうだね…」
亜里沙はすぐに両親へメールを打ち始める。
- 13 -
*前次#
ページ: