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喫煙所の柵のあたりでタバコに火をつけた修介はケータイをぽちぽちしている。春夏にメールしているのだろう。
煙は喫煙所の方へ吐きながら「熱いな今日も…」と、側のアイス屋さんをぼんやり眺めた。
あ、そう言えば何買ったの?と普通に雑談しタバコが吸い終わる頃、あの二人が現れて即、修介に「火ぃ貸してくれません?」と半笑いなじゃらじゃらが、からかうように絡んできた。
ここまでくると本当に変。どうやら本当に粘着されたようだ。
初めてな事に由紀子は固まってしまったが、亜里沙はまるで相手に対し、威嚇のように急な不機嫌顔。舌打ちでもしそうだ。
亜里沙の方がなんか、こういうの経験あるのかも…と由紀子がヒヤヒヤするうちに「どうぞ」と修介は普通にジッポを貸していた。
「うぃっす」と話す感じが明らかにヤンキー類いのようだ、それは由紀子にもわかる。
それからからかうように「可愛いね、ヒューっ!」と、そうだこれドキュンとか言わなかったっけと、場が嫌な空気に包まれた。
少し修介もイラッとしたのを感じ取る。
そしてドキュンは「どーも!」と、あろうことか火のついたままジッポを投げて返してきた。
急速な「恐怖」。
「っぶね、」と片手で由紀子と亜里沙を庇うように守る修介とドキュンの高めな笑い声。
「しゅうちゃん!」
と呼んでしまった由紀子、「あぶなっ!」と、震えそうに怒る亜里沙、「大丈夫か、」と心配する修介、まだ笑い続けるドキュン。
「あ、すんませんねー」とからかうドキュンに構わず、荷物を置き、まるで普通にジッポを拾う修介の背を見てなんとなく、あ、ヤバいかもしれないと由紀子は感じた。
「ちょっとぉっ、危ない」
怒ろうとした亜里沙をも構わず、つかつかドキュンの元へ歩いた修介は至極鮮やかに胸ぐらを掴み右ストレートをかました。
「………!」
まるで一瞬時が、いや、息が止まった。
かなり入ったらしい、ゴヅッ!と音が聞こえてきそう。
もう一人はあまりに修介が鮮やかだったせいか、立ち尽くし、殴られたドキュンをただ呆然と見ていた。
「女燃えたらどうしてくれる」
抑揚も無いそれが却って…なんか怖い。
…思い出した。
しゅうちゃん、昨日確か不良疑惑出たんだった……。
立ち尽くした方ははっとしたような顔をしたが、当の殴られたドキュンが「いってぇ……っ、」と弱々しい。余程痛いらしい。
「て、てめ、」
「…おい、やめとけお前、こいつ多分マジなヤツだぞ…」
「……はぁ?」
「…さて、」
ふいっと振り返った修介は「行くぞ逃げるぞ」と、一瞬ぽかんとしそうなほど普通な態度に戻っていた。
「…え?」
「お?」
「あー……、」
まるで後悔したように息を吐いた修介は荷物を持ちケータイを耳にする。
どうしたらいいの?と戸惑いつつも、歩き出してしまった修介に着いて行くうちに「あ、ハル?」とこれもまた普通なのだ。
「あーごめんこんな時に。レアガチャ引いたみたいでさ、田舎で絶滅したヤンキーを一匹殴っちゃった、どうしよう。
送っといたけど、由紀子達と真っ直ぐ帰るわ。
ん?ああ今外の喫煙所、ダイジョブ相手腰抜けてると思われるけど痛ぇわ。
ん?ああ帰ったら話す…」
ちらっと、殴ったヤンキーを確認する。
片方に止められているのを眺め「いや、ちょっとは待てないかも」と、最早この普通な態度が異常にすら感じてきた。
「スーパーにも…あれ?」
ケータイを離して「切れたわ」と呟きそのままポケットにしまう様。
「二人ともマジで怪我してない?」
「え……うん、」
「亜里沙ちゃんも大丈夫?」
「あ、えっと、はい」
完璧に亜里沙も驚いていた。
確かにそうだ、由紀子には思い当たる人物はいないのだが、修介のそれはなんとなく知っている“ヤンキー”の概念と全て違っている。
…殺し屋じゃないよね?しゅうちゃん…。
「あ、ビックリしてんね、マジごめん」
「いや……」
「…しゅうちゃんなんか凄い…」
「いやぁ、あんなのいんだな今時。よかったぁ手が出て」
「手が出て良かったの!?」
「お陰で痛みも思い出したわ」
…え、なんかもうどうしよ…。
急激に修介が遠く感じる。だが、至って普通、なのだ、本人は。
「怖い思いさせたな」
「う、ううん、ダイジョブだけど、ダイジョブ?」
「俺はね。
もー追いかけても…来ないよなぁきっと。よかった。厄介だしタクシー拾うかねぇ…」
と言いつつ、「あ、タクシーあっちじゃん…んーどうしよ」と一人ごちている。
最早顔が真っ青になった亜里沙に「あー…」と、ダルく気まずそう。
「ごめん、ごめんね」と優しく頭をグシャグシャされた亜里沙は由紀子に何かを求めてくる、泣きそうなのは見てわかるがどっちの意味で泣きそうなのか、そういえばと「亜里沙、大丈夫?」と心配を投げ掛けてあげた。
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