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 少しだけ無言で凄く気まずい思いのまま歩いていると、真後ろからクラクションを鳴らされ、修介に抱えられたままの亜里沙がビクッとしたのが見えた。
 由紀子も空気があって少しビックリはしたが、なるほどと理解する。すれば安心した。

「あ、そう来たか…過保護だなぁ」

 振り返れば黒い外車の窓が開く。
 覗いた、傷のある強面でサングラスのオールバックに、さらに亜里沙はビクッとしていた。

一徹いってつさん!」

 彼は、春夏の専属ドライバー(らしい)、一徹だった。

「こんにちはお嬢さん、お買い物ですか。
 修介さん、春夏さんはどうしました?」

 修介にのみ若干不機嫌そうな声になる一徹に、「早いっすね」と気にしない修介は後部座席を開け、由紀子と亜里沙を促し、自分は助手席に乗り込んだ。

「すんませんね一徹さん。
 あ、この子は由紀子の妹の亜里沙ちゃん」
「…高柳たかやなぎです」

 亜里沙は何も言えずにこくこくと頷くのみ。

「…春夏さんに呼び出されたんですが」
「ちょっと春夏がいない間、変なのと揉めまして。
 亜里沙ちゃーん、安心してくれこの人ハルの付き人だから。
 そうだ一徹さん、カレー作りたいんでスーパー寄ってくれません?」
「…あぁいいですよ俺が後で行きますから。そんなことより」
「そうっすね。すんません。
 なんかようわからんチンピラにキャッチというかナンパされちゃって、俺がいなかったのが悪いんすけど。加えて殴っちゃったんですよねー」
「はぁ、そうですか。どんな野郎で?」
「いや普通に昭和のっつーか古いヤンキーみてぇな、今時滅んでると思ってたタイプのなんでまぁ気は張らずに。
 多分そういうんじゃ……なんともわかんないっすけど、俺パンピーなんで」
「はぁ、そうですか。まぁ|堅気《カタギ》ならこっちも手ぇ出せねぇんで取り敢えず頭に入れときますが」

 カタギとか普通に出てきちゃってるな…。

 亜里沙を見れば「マジでどうなるのこれ」とか、「お姉ちゃんマジで大丈夫なの?」とか言いたそうな微妙な表情だった。

「…あ、一徹さん。今日、カレーごちそうになってもいいですか?」

 どーにか、考えうる色々を解きたいと、思い付いたのはそれだった。

「カレーですか、いいですね。妹さんは辛さの好み、ありますか?」
「…へっ!?」

 声が裏返っていた。

 とにかく手を握ってやり、「家は普通のやつですよー」と由紀子は一徹にニコニコで返すに努めた。

「一徹さんのご飯、美味しいんで」
「…そりゃどうも、恐縮です。
 春夏さんはどうお戻りですか?」
「あと一時間くらいじゃないですかね、髪切ってるんすよ今」
「じゃあ送り届けたら…お二人は春夏さんの自宅でよろしいんですよね?したら迎えに行ってきます」
「すんません、なんか」
「いえ、お嬢さんらに何かあったら大変ですから」

 一徹は多分、それほど修介をよく思っていないのだ、それは由紀子が見ていても思う。何故かはわからないが会ったときからそうだった。

「お嬢さんら、帰りはどうするんで?」
「あー、まぁ、」
「大丈夫っすよ一徹さん。俺と春夏が送り届けますんで」
「そうして頂けると助かります」

 そっか、確かさらっと言っていた。由紀子との出会いで、一徹は「自分では…」と、由紀子を送り届けるのを躊躇ったのだと。

「…おねいちゃん、」

 亜里沙は言葉を選ぶように「…スゴいね」と潜めた。

「…みんな優しいよ、ちゃんと」
「…そうなんだね」
「うん」

 戸惑っているように見える。確かに、あの家を思えば、多分そうなんだ。
 だけど、何故だかニコニコが止まらなくなってしまった。

「…一徹さんはね、見た目は怖いけど、とっても料理が上手でね、」

 修介がチラッと気まずそうにこっちを見たのもわかる。

「しゅうちゃんも凄かったでしょ?でも意外だったな、普段の感じと違かったね、」
「うん…まぁ…そうだろうな」
「ハルちゃんは宿題を教えてくれるし、頭良いんだ。
 楽しいお友達なんだよ、亜里沙」
「そうなんだね…」
「うん」
「…機嫌良いなぁ、由紀子」

 あ、そう言えばどんなの買ったの?と、結局進まなかった話題は普通に戻ってゆく。
 亜里沙が選んだんだよ、とか、そんな日常の会話。

 まるでさっきまでの感じはなく、亜里沙にとっても姉のこんな様子は初めて見た。家とは違う。

 例えばこれをなんと言うのか、誰にもはっきりした言葉がない、そう感じた。

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