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 問題はエピソードなのだ。

「俺をビビらせたハルが大爆笑でビビるエピソードなんて凄いなぁ由紀子は。
 ハル、これぶっちゃけ冷やし中華だわ」
「だろうな、流石にもう思い付かねぇよ、こんな白くて細いだけの麺になんて」

 素麺は現在週1で2回目。

 晴れ続きの現在、夏休みは人生12回目、出会ってからは11回目を数える。

 由紀子にとって二人と過ごした日数、時間は恐らく、両親と妹の次くらいには多い。
 そんな二人との、最後の夏休みだった。

 二人について知らないことも沢山ある。

 ただ、こうして過ごしているうちにいつの間にやら二人は、友達がいなかった由紀子の最愛の友人となっているのだ。

「取り敢えず終わったら何やる由紀子」
「桃鉄?3人で」
「…良い加減なんか買うか。丁度PRしたいRPGがあんだよな」
「RPGって…一人じゃないの?」
「あとはサバゲーなんだよなぁ。
 最近ゲームで複数人プレイなんて、ネットオンラインばっかなんだよ」
「いいじゃん、ハルちゃんのハイテクパソコンあるんでしょ」
「俺のはダメ。本業の機密情報とかありまくりだから。それに副業のお前になんて勿体ないんだよクソメガネ」

 そして二人の職業なんかも、由紀子はあんまりよく知らない。
 ここは友達として、特に要る情報ではないから、ふんわりでいいと思っている。

「…けど、」

 一人早く食べ終えた修介は「ごっそーさん」と、食器もタバコも灰皿も持ってキッチンへ向かった。

 換気扇をつけた音。

「前のパソコンデリートして使っちゃダメなん?」
「デリート自体はしてあるけど?」
「流石っすね若。絶対漏れないなそれは」
「いや、ヘマやってバレそうになったからなかったことにしたんだよ」

 しかし少しだけなら、知っている。

 取り敢えず、春夏はわりといけない人で、修介はゲーマーだということ。

 春夏はどうやらあまり食が進まないらしい。自分のはさておき、食べ終えた由紀子の食器をそのまま預かってくれた。

 それを下げに行く春夏に、タバコを咥えながら食器を洗い始めた修介は「ハルのは?」と聞く。

「あー…、俺はだらだら食うわ」
「あぁそう、大丈夫?」
「ゴマだからマシ。
 1本貰うわ。
 山越えたからどっと来たかもしれん」

 タバコの先で一瞬触れ合った二人。
 
 変な気分になる由紀子だが、いつも二人は自然体だ。

「あれか、この前言ってた自動車株か」
「数ヶ月上限が読めなくてな。まぁそっちは、社長就任が完璧だとわかってたから案外気は張ってねぇんだけども」
「別件?」
「うん一個。取締役が抑えられるってのがあって。間一髪だったんだよ。定例会には間に合うだろうけど」
「みなまで言うな。まぁ、最近じゃよくあるからなんのことか特定出来ないけど」
「ん」

 火を貰ったはいいが一口のみで、ぼんやりと煙を眺めるだけの春夏に、食器を洗い終わった修介はすれ違い様で肩を掴み、「最近食ってないな」と心配そうだった。

「夏バテ?」
「そんなとこ」
「すぐ食わないならラップして冷蔵庫に」
「あー冷やさなくて良いわ」
「わかった」

 戻ってきた修介は由紀子に「テトリスやるか」と提案してきた。

「お前の特権」
「うん」

 ぽんぽん、と頭に触れてくる修介は優しい。
 余計なことは言わず、修介は春夏の不調を察したのだろうと由紀子は解釈した。

 ゲーム機の電源を入れコントローラーを渡してきた修介にこっそり、「ハルちゃん調子悪そうだね」と言ってみた。
 「100年に一度の何日目かだろ」とやはり深くは言わない修介はいつも通り、あっさりしている。

「俺は、きっと生理と同じだろうと捉えてる」
「流石にそれはどうかなぁ〜?」
「うんまぁわかってる」
「しゅうちゃんさぁ、」
「何?」
「しゅうちゃんとハルちゃんって同じ高校だったの?」
「違うけどなんで?」
「いやさっきビビったって言ってたから」
「あぁ、馴れ初め的なやつ?」

 そう由紀子に聞くが修介は振り向いて春夏の顔色を伺っている。
 気付いた春夏はぼんやりしていた。

「んーまぁ俺がバカやっただけだし怖ぇから思い出したくもない」
「そうなの?」
「由紀子より恥ずかしいエピソード持ちだぞメガネは」

 そしてぼんやりした口調が後ろから返ってくる。
 また素麺の前に座った春夏は最早、それは食べる気がないように見えた。

「やめろよハル。大体、子供に話すやつじゃないじゃん、」
「でもあれも最高だったぞ」
「気になる〜」

 ゲームは始まった。

「…調子こいてたら締め上げられたってだけ、」
「お前雰囲気ワルだったもんな」
「嘘っ、しゅうちゃんが?絶対ないでしょ!」
「ワルだったけどメガネだった」
「関係ねぇよ眼鏡は、あと絶対言われたくないから、お前の方がもう超絶怖ぇし、ってか俺は怖くない人間ですからっ」
「ははっ、口が滑っても餡パン食っててボコられたなんて言えないよなぁ」

 なんじゃ?

 由紀子をよそに「やめろこの……っ!」と修介が勝手に焦り始めた。
 まだ序盤だというのに。

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