4


 てゆうかこいつは何故自分に聞いてきたんだろう、甚だ疑問だ。多分一番向かない人選なのに。
 いや、原因は作ったけれども。言わないでおこう。

「瀬戸さんにはそういう瞬間って無さそうですよね」
「うーん、あるようなないような…」

 失礼だが、まぁ流そうか。

「例えば恋人の定義って何?」
「えっ、定義、ですか……そりゃあその、愛し合ってるか?とか?大切にされているかとか」
「セフレも友達も、なんなら家族にも言えないか、それ」
「すっごく哲学的にきましたね。いやまぁ行動で言えば…さっき言ったみたいに、デートもするし?なんというか…うーん、恋人の方が隠し事もしますけどあれ、でも開けっ広げな面もある…?かも」

 なるほど、なるほど。

「確かに確かに。うーん…でも別に買い物行っても恋人じゃないだろうし寝食共にしてもセックスするかどうかで言われたら…」
「あ、そこ聞きたかったんです。
 私…多分ステレオなんですよね。流行りの寝フレとかルームシェアとかちょっと気持ちがわからない方でして…なんか、瀬戸さんそういうの」
「あ、大丈夫だわ」
「なるほどやっぱり〜」

 なるほどね。

 君のお相手、年下なのかね?いや、多分自分の同級生でも、そう言われる世代か。

「ん〜でも、ある程度はあるぞ。俺汚ぇおっさんとは多分暮らせないし」
「いやいや汚ぇおっさんは多分人と暮らさねぇと思いますよ!」

 まぁそうか確かに。

「ルールも作る気がするしなぁ、生活の」
「…瀬戸さん、同棲とかしてます?」
「うんしてる。10年」
「…すごっ!最早それ夫婦!」
「いや同性だから」
「え?」
「え?」
「同性!?」
「うん」
「うわ、よりすごっ!余程仲良いんですね…え?可能なんですか?てゆうかなんなんですかそれ」
「可能可能。なんせ俺が住み込んだから」
「えっ!相手もでもOKなんでしょ」
「うんそう」
「…恋人?とかどーしてるんです?」
「お互いいない。なんていうか…わざわざいなくても満足してる感があるのかなぁ?実家住まいみたいな気持ち、パーソナルスペースの話をすると」

 いや、そんなこともないな。

 ナツミが少し怪訝な顔をした。
 そういえば昔、同僚かなんかだったか、新歓やらなんやらと春夏にメールを送っていた際、「彼女?」と聞かれ「友達」と答えたら同じような表情をされたな。
 次からは「家族」と答えるようにしたのだ。

「…男女よりハードル高い気がしてきました…」
「あ、そうなんだ。
 で、考えてみたけど、俺女の子とはルームシェアや寝フレは無理な気がするわ」

 実際由紀子とは暮らしてないし。例えばこれから…うーん、どうなんだろうか気を使いそうな…。

「…ですよね?…友達?はいける感じ?」
「うんそうかも。それ高等だわ」

 「いや、多分瀬戸さんの方が」とナツミが言っている背景に、それぞれ席から立つ社員も見えてきた。
 「高等テクですよね」で時計も目に入る。あと10分くらいか。

 時間を告げると、ナツミは「ありがとーございましたぁ、ごちそーさまでーす」と、トイレに消え、修介は一人先に部署へ戻る。

 が、デスクに着く前から例の同期がニヤニヤしているのに気が付いた。
 多分無駄な話だな、と思えば「なぁ」と、それは好奇心を剥き出しで側に寄ってきた。

「諏訪さんと何話してたのっ」
「来たなタカ。世間話だよ」

 同期生、中井ナカイ隆俊タカトシはまだわくわくを隠さず、「どんなどんな?」と掘り下げる。

「どんなって、」
「パーソナルスペース縮まった?」

 からかい口調にまず、タカの横腹にチョップをかましておいた。

「痛っ!」
「意味不明だわ」
「お説教されたん?」
「人生相談された」
「は?」

 タカは一瞬黙ったようだがやっぱりまた、「え?ついにマジで脈あり?それとも示談交渉?」とペラペラうるさい。

「なんだよ示談交渉って」
「訴えないであげるから金払えって」
「違うわ、確かに助かったけど」
「だよな〜」

 まぁそうだ。昔こいつにも言われたことがある、“パーソナルスペース”について。アメリカ帰りかよ、と。
 いつの間にか部署では定着していたので、今回の騒動は正直驚いたのだ。

「アメリカ帰りなんでってちゃんと言った?」
「違うから言ってない」

 あー、そうだなタカみたいなうるさいやつとは暮らせないかもしれない。楽しいだろうけど多分ゲームを邪魔されたらキレるだろうし、いや、春夏もたまに邪魔はしてくるな。
 でもまぁこいつはきっと許せないし何より以前、「マジか、逆に無理だな俺、男は」と言われたことがある。
 これに定義はないが、なんとなく。

「じゃあ、アイドルグループみたいな方針でってのは?」
「…は?」
「名前」
「あっ」

 それは寧ろ春夏の方針が移った結果なんだよなあと、これも近年、気にすることが減っていた。

「…客観視して俺って変?タカから見て」
「ん?変だけど」

 あ、やっぱりね。

 凹んだつもりはないが、タカは慌てたように「いや、個性だぜ瀬戸、お前はなんか大丈夫」と何故か慰めるようなふざけるような。

「問題になってないし、いつかなるかもだけど」

 一瞬「そうだよな」と思った次の瞬間には「なるのかよ」と覆された。
 そうか、そうなのか、非常にやりにくいなと少し不安になる。

 けど、昔からそうだったかといえば…確かに違かったような気がしてくる。
 昔そういえば「え?イッテツくんって呼ぶわけ?」と、春夏に言ってみた気がするし。

- 20 -

*前次#


ページ: