5
放課後、校舎裏で屯していたとき。
タバコを吸い、奇声で話す同級生の旋毛を見下ろしながら思ったものだ。
俺、こいつらとなんで屯ってんだろ、と。
「瀬戸ぉ、おま、そんなんでいーんか?」
「あ?別に」
アッパラパーだな、流石底辺と取り巻きを見下しながらも、何故自分もこんな場所にいるんだと考えてよく、そこでやめていた。
家に金がねぇからだよ、いや、なら行かない選択肢もあったくせにだとか、その場で考えたくはなかったのかもしれない。
県だか市だか国だかに保証して貰ってまで行った高校がこんな、糞溜まりだっただとか、勉強なんてクソほど嫌いだったのにだとか、違う、どこかで全てを見下して良い気になっていたんだろう。
土色の生活。守って貰えるのは今だけだけど、そんな物はとっくにうんざりしていて消えかかっていた。保証だって、それがあのクソ親父の肥になるのも癪だった。
バカな大人、バカな奴ら、バカな世の中。そう思っていたかった。
早く、世界を変えてしまいたい。
旋毛を見ながら、考えることだってあった、こいつらも俺と大して変わらないだろうと。でも、毎回不愉快で──
「兄ちゃんらぁ…」
騒ぎ声にふと、聞き慣れない、まるで腹の底から引っ張りあげたようなゴロゴロ声が聞こえた。
パッと見れば、スーツでグラサンで角刈りで背が高い男が、若干猫背気味でタバコを吹かしながら歩いてくる、夕陽をバックに。
まるで国境を越えてきたソレに教職員じゃねぇなという安心、いや、それよりも恐怖はあっただろうが、袋を持ってしゃがんでいたやつ一人が「なんだぁ?」と突っ掛かる。
「なんすか」
「学校っすよここ」
「保護者っすか?」
一人が言うとこうも烏合。まさしく鳥でしかない。
男は何も言わず側まで来て見下ろし、タバコを吹かすのみ。威圧感が半端ない。
だが、最初に突っ掛かったやつは大分な調子込み具合で、「どこの人っすか?」と更に口走る。
「…兄ちゃんらぁ、どっからそれ、買ったんだい?」
「…はぁ?」
「買った奴、知ってんのかい?」
「は、ただぁ空気っすけど、なんすか?」
少し焦燥が走る。
ふいに男が視線を上げ、こちらにくいっと顎をしゃくる。多分、このバカ共に話しても無駄だと思ったんだろう。
確かにそいつはよく、「俺のバックにはなんちゃらがかんちゃら」と吹聴しているが、知らないのだ、自分は。
そいつを見下ろせば目が合う、ラリっているのか怯えているのかは知らないが、少し涙目だったように思う。
「…教えてくれりゃぁ話しは終わるんだが」
「知らないっすただ貰ったんで」
「そうか。どこで?」
「知らないっすけど」
「そうか」
男はその場でふ、とタバコをネジ消す。
次の瞬間にはそいつの前髪を掴み上げ外へ連れ出そうとしていた。
一瞬の出来事に「はっ、」「なっ、」と動揺した残りのメンバーをジロッと見た男は呪文のように「大内亮太、三角薫馬場賢介」と、胸元のネームプレートを読み上げた。
「…瀬戸修介。
もっと良いもんやっから俺とドライブしようじゃないか」
……やばっ。
これ、埋められるヤツ。
ぐいぐいぐいぐいと“大内亮太”が引っ張られて行くのに残され組は硬直した。
しかし「早せんかい」と静かにドスが効いた声を発せられれば「は、はい!」だなんて残りバカ二人は従うよう。
修介は一人、じりじりフェンスと間合いを詰めた。
やっとでよじ登ろうとちらっと背後を見たが下に、ぼやけているがあきからかな車が停まっているのを発見してしまった。
気付いた男も振り向き、「逃げる気か?」と挑発してくる。
「……はい、に、逃げます」
「そうか」
結局修介は、フェンスから降り車に若干の傷を付け、漏れなくやつらと共に屋敷へ連行されてしまったのだ。
まさに天国行きのエスカレーター。手摺はもしかするとワニの皮だったのかもしれない。
この、修介が密かに“東高拉致事件”と年表を打った出来事は、後にも春夏の大爆笑ネタとなった。
それから更に、“篠田屋敷騒動”と年表は進む。
男子校生達が拉致された先は、如何にもな古い門構えのデカい屋敷の広すぎる広間だった。
全員正座をさせられたが、一応まだ無傷。
自分達と対峙した初老の男は、両方で頬杖をつきまるで面白いものを見付けた口調で「で?」と発した。
「この子供たちはどうしたんだい、ツヨシくん」
「…はい。東高の校舎裏でこれを」
角刈りは車内で取り上げた袋を出し、「ウチはガキには売ってねぇんですが」と渋い顔をする。
「ふむ、そうだな」
「誰から入手したかわからねぇくらいなようで…」
言いながら袋の匂いを嗅ぎ、顔を更にしかめた。
「どれ」と手を伸ばした初老に角刈りがそれを渡す。
同じく初老も匂いを嗅いで「酷いなこれは」と検分した。
「で、これはどの辺で手に入れたのかな君たち」
「えっと、」
「あぁ、ツヨシくんにサトルくん。この子達、具合が悪そうだからバケツに水を持ってきなさい。
ツヨシくんはついでにそろそろイッテツくんが帰ってくるから、車の手配をしておい」
「あ、あの、コンビニですコンビニ!」
恐怖に耐えかねたように大内が口走った。
初老は穏やか(却って怖い)な目付きを止め「へぇ、」と、声を低くした。
「コンビニ」
「あ……あの、三丁目の、」
「便利になったねぇ世の中。売ってくれたんだ?なんでだろう」
「いや……その、コンビニ、いたら、貰いました」
「貰った?お金払ってないんだ。レジ袋みたいだね」
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